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【P#16】医薬品の開発(4)〜FDAと審査

医薬品の開発について過去にブログで書いた(詳しくは、末尾のリンクから)。
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医薬品として製造し、販売するためにはその製品の「品質(quality)」、「効能・効果(efficacy)」および「安全性(safety)」についてのデータを集め、「製造販売承認」を受けるための審査を受けなければならない。日本の医薬品の審査・承認は厚生労働省が行うが、アメリカはFDA(米国食品医薬品局、Food and Drug Administration)、ヨーロッパはEMEA(European Agency for the Evaluation of Medicinal Products)が審査・承認を行うことになっている。またこれらを含めた医療規制(Regulation)を行う政府機関のことを医療当局(Health authorities:当局ともいう)と呼ぶ。
今回は、製薬会社を審査する側の規制当局(Authorities)の歴史ついて書いてみたい。主に米国のFDAについて触れる。
FDA
米国のFDAは、不当表示もしくは低品質な食品、飲料、医薬品の州際通商を禁止する「1906年食品医薬法」により初めて設立。精肉工場の汚染の蔓延、食品に対する有毒な防腐剤や色素の使用、効き目のない危険な売薬が万能薬として販売されているなど、さまざまな問題が雑誌に取り上げられたというのがきっかけだった。現在のFDAは、食品業界、医薬品・ワクチン・血液製剤・医療機器等を扱う医療業界、化粧品業界の三業界を監督する任務に携わっている。参考に医薬品の審査に携わる人数は5,400人だ。
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1938年に新しいサルファー剤に有毒物質が混入し、多数の死者を出した事件をきっかけとして、FDAは新しい医薬品を販売するにあたって、製薬会社にその薬が安全かどうかを証明することを通達した。
医薬品に処方せんが必要とされるようになったのが、1951年。この年に、連邦議会は医学の専門知識なしに、安全な薬を購入するとき、医師の処方せんを必要とすることにした。
1962年にはFDAは製薬会社に対して、薬の安全性のみならず有効性を示すことも通達。その直後、安全性、有効性を証明するための臨床試験の実施規則が出来、下記のような仕組みが整った。
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米国では候補となる新薬の特許を取得すると、かつては医学部や教育病院で臨床試験が行われ、助成金も出ていた。しかし、開発業務受託機関(CRO(Contract Research Organization))と呼ばれる臨床試験を実施する専門の会社に委託されるようになった。CROは、被験薬を投与し効果についての情報を報告して報酬を得る医師のネットワークを形成、臨床試験を組織する。日本では、患者に実際に薬物の投与や被験者募集、医療機関のネットワーク化などの委託する医療機関を治験実施施設支援機関(SMO(Site Management Organization))と呼び、臨床試験から集積されるデータの取り扱いなどの作業を製薬企業から受託されるCROと区別して、医療機関と製薬企業の距離を置くよう行政指導を行っている。ただし、SMOとCROは、同じ会社が分社化や部門が分けられている場合が多い。
CROの発展により、米国では多く臨床試験が行われるようになった。2001年の時点だけでも8万件、230万人が参加したといわれている。一部がFDAから新薬の承認を得るためのもので、残りは医薬品が発売された後の市販後臨床試験もしくは第IV相臨床試験と呼ばれるものになっている。米国では、既存の薬の市場を拡大するために行われる場合が多く、未知の副作用を発見するためにFDAが実施を命じたものを行うものは非常に少ない。
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FDAが新薬と関わるのは、製薬会社から届けられる新薬臨床試験開始届(IND届)からである。この届出には研究参加者の権利と福祉を守るための方法など、実施する臨床試験について詳細に記す必要があり、臨床試験を開始するに当たって提出が義務付けられている。
数年経て、臨床試験が終了後、製薬会社は新薬承認申請(NDA)を提出、FDAから市販承認を受ける。承認を経て市場に出るが、製薬会社は申請した用法・用量でのみ新薬の宣伝をすることが認められる。そうは言うものの、医師には自由裁量権がある。つまり、新薬が発売されると、医師は必要に応じ、どんな用法・用量で新薬を処方してもかまわないことになっている。このため、製薬企業は市販後臨床試験に力をいれることで適応拡大を目指す。
FDAは、新薬承認申請(NDA(New Drug Application))を受けると、まず薬を化学的分類(その分子は何らかの形ですでに市販されている分子か?それも新規か?)で分ける。その結果、新規の分子(FDAはこれを新規分子化合物(NME(New Molecular Entity))と呼んでいる)の場合、ナンバー・ワンドラッグ、それ以外は、化学的誘導体、あるいは新規製剤、既存の薬の新しい配合と分類される。そして、次に同じ疾患を治すのに市販のものよりも優れているかどうかによって分類する。優れている場合には、FDAは審査を優先審査(Priority Review)と呼ばれる迅速審査に廻し、Pという文字をつけリストアップする。他の薬は標準審査(Standard Designation)になる。優先審査は通常申請から6ヶ月、標準審査は申請から10ヶ月となっている。なお、優先審査と標準審査はあくまでもFDAの審査期間に関するものである。
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それ以外に審査期間とは関係ない、Fast track designation(Fast track指定)Accelerated Approvalがある。Fast track指定を受けるとFDAとのミーティングが優先的に開催されることで、FDAと開発企業との間に迅速かつ緊密なコミュニケーションが図れ、製品開発のより効率化が図れる。Fast trackは、1997年に初めて制定された。Fast trackが認定されると、FDAと公式の会合を行いそのinputを開発計画へ反映させること、よい結果が得られると、資料が準備されたものから順次先行審査を受けられる(Rolling Reviewという)ことやSurrogate endpoinで評価した臨床試験を取り入れること(これは、Accelerated Approvalという)が出来るようになる。Fast trackは、今までにない医療のニーズを満たすこと(unmet medical needs)や重篤な疾病が対象となる。Fast track designationは、製薬会社から申請が必要で、開発期間ならばいつでも可能である。FDAは申請を調べ60日以内に結論を出すと言われている。
通常臨床試験の場合には、Clinical outcomeをエンドポイント(真のエンドポイント)して試験が行われる。しかし、これだと時間がかかってしまう。1992年にFDAは、Accelerated approvalを制定し、今までにない医療のニーズを満たすこと(unmet medical needs)や重篤な疾病に対して、Surrogate markerで臨床試験を行うことを認めた。
FDAは、製薬業界からの圧力によって、製薬企業からお金を受け取っていてよいとする法が成立。転換期を迎え、審査の迅速化が進んで行く。
簡単に米国のFDAの歴史についてまとめた。
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医薬品については、時々書いています。下記をご参照ください。
ジェネリック医薬品と先発医薬品の違いは?何を知っていればいいのか?(「医薬品の開発(14)〜ジェネリック医薬品とは?先発医薬品とどう違うのか?値段は?」「医薬品の開発(15)〜ジェネリック医薬品とは?(2)〜どのように作られているのか?法律や品質の問題点について」参照)
医薬品の情報を見極めるためには「疫学」の知識が必要〜疫学とは何か?について(「医薬品の開発(13)〜『疫学』とは何か?〜医療情報をどのように判断するか?」参照)
審査書類は何を用意したらいいのか?製薬会社に勤めた過去の経験をベースに(「医薬品の開発(12)〜審査」参照)
米国の保険制度の特徴の一つはマネージドケア、その特徴について(「医薬品の開発(11)〜マネージドケア」参照)
医薬品は保険を財源としている〜保険の歴史、出来高払いと診療別包括払いの違いについて(「医薬品の開発(9)〜保険の仕組み(1)」「医薬品の開発(10)〜保険の仕組み(2)」参照)
処方箋医薬品の薬の値段(薬価)を決めるために、欧米ではエビデンスを重視するようになった(「医薬品の開発(8)〜薬価(2)〜仕組みと保険制度」参照)
処方箋医薬品は、国によって値段が決まっている〜どのような仕組みになっているのか(「医薬品の開発(7)〜薬価(1)」参照)
医薬品は特許で守られているが、どのような仕組みがあるのか(「医薬品の開発(6)〜特許と後発医薬品」参照)
国の審査が優先的に進む医薬品もある〜希少疾患、オーファン医薬品(「医薬品の開発(5)〜オーファン医薬品」参照)
製薬会社の審査は誰が行うのか?当局(国)の存在(「医薬品の開発(4)〜FDAと審査」参照)
医薬品の開発で何が重要になるのか?主要評価項目について(「医薬品の開発(3)〜エンドポイント」参照)
医薬品の審査には、製薬企業のお金が入っている現実(「医薬品の開発(2)〜TLOと事前相談費」参照)
医薬品の基本的な仕組み(「医薬品の開発(1)〜仕組み」参照)
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