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【N#56】分子整合栄養医学って何であり、どのように発展してきたのか?〜歴史からみる

2020年11月10日、ナチュラルアートクリニックの院長の御川安仁(みかわやすひと)先生(以下御川先生)に同年10月23日に採血した血液検査の結果を聞きに、四谷へ行ってきたので、2回に分けてブログに書きたい。

どのように腸内環境を整えていくのか?〜アレルギー性皮膚炎とリーキーガット症候群、上咽頭炎の関係〜自分で検証して行った結果はどうなったか?」に書いたように、2020年1月〜4月にかけて、アレルギー性皮膚炎が再発。
今まで、取り組んでいた脱ステロイドの生活が振り出しに戻った。

約1年近く、自力で、サプリを取り、食事や保湿を含めたアプローチを取ったが、それだけでは限界を感じるようになった。

そこで、「御川先生の診察と血液検査〜アレルギー性皮膚炎の治療の再開」に書いたように、前回(2020年10月23日)、今までの血液検査と有機酸検査のデータを御川先生に見ていただき、改めて血液を採取していただき、血液検査を依頼した。
血液検査の結果を見る前に、
分子整合栄養医学って何であり、どのように発展してきたのか?
歴史を語ることで、通常の血液検査との違いや、精神疾患との深い関係など理解が深まると思っている。
そこで、血液検査の結果を書く前に、私自身、どのように分子整合栄養医学と出会ったのか?から本コラムを書きたい。
分子整合栄養医学(Orthomolecular Medicine)との出会いは、新宿溝口クリニックの溝口徹先生の「最強の栄養療法「オーソモレキュラー」入門」と物理学者の三石巌先生の「分子栄養学のすすめ〜健康自主管理の基礎知識」だった。


特に、三石先生の「分子栄養学のすすめ〜健康自主管理の基礎知識」は「健康自主管理の基礎知識シリーズ」としてシリーズ化されており、どれも面白い。
2019年のゴールデンウィーク中に集中的に読み、学ぶことが多かった。
通常の栄養学は、食事をエネルギーとして捉え、自動車におけるエネルギー源(ガソリン)とエンジン(ガソリン、動力)のように人間の身体を機械的にみる。
何カロリーのエネルギーがあるのか、食事の成分(炭水化物、タンパク質、脂質、ミネラル等)を調べることで、
最終的に
どれだけの食事の量をどれだけの比率でとったのか
で判断していく。

一方で、「古典的な栄養学と現代の栄養学はどう違うのか?」に書いたように、
分子整合栄養医学は、
「人間の身体の構成する物質(コラーゲン、ホルモンを含めたタンパク質)等を自分たちで作ることができるように、材料(栄養素)を補給すること」
の視点で
人は、十人十色。それぞれ適した量が存在する。
「人間の身体を構成する物質がどのように作られているのか?」
という視点で血液検査をみる。

通常の血液検査は、
「基準から外れると病気と判定する」
が、
分子整合栄養医学の血液検査の見方は、
「健康とは?」=「人間の身体を構成する物質が正常に作られること」
を基準にしているところが面白い。
更に、1950年代から劇的に発展した分子生物学の成果を取り入れており、私自身、分子生物学者として研究していた時代もあるので、
「なるほど!このように分子生物学を使って栄養学を見ているのだ!」
と感激した記憶がある。
分子整合栄養医学は、精神科医のエイブラム・ホッファー(Abram Hoffer)によって始まったと言われている。
ホッファーは、元々生化学の研究者。

マイケル・ポーランの「幻覚剤は役に立つのか 」によると、何と、ホッファーは、製薬会社のサンドが開発したLSD(幻覚剤)と精神疾患との関係について調べていた。そして、長きにわたってホッファーと共同研究をしていたハンフリー・オズモンド(Humphrey Osmond)がLSDを含めた幻覚を示す物質のことを「幻覚剤」という名前をつけている。
面白いのは、アルコール依存症を含め、様々な精神疾患に対し、ある一定の効果があることを明らかにしている。
残念ながら、LSDは1960年代に麻薬に指定され、原則的に使用禁止になる。

実は、ホッファーは、統合失調症とビタミン(ナイアシン)との関係についても、1950年代から研究(詳しくは「統合失調症を治す:栄養療法による驚異的回復」)

ナイアシン不足は、ペラグラ(皮膚病の一種)を起こすことが、以前から知られていた。ビタミンは必須栄養素であり、不足を補うためのものとして。ホッファーがすごかったのは、ビタミンは一人一人、違った適量=至適量があり、統合失調症を治療するには、大量に投与する必要がある、といったことだ。
このようにして、50年代からすでに、至適量のナイアシン・ビタミンCを中心とした栄養素の補充によって、統合失調症に効果があったことを示していた。
米国の精神医学会では、ビタミンは役立つはずはない、と完全に無視されたが・・・。
強力なサポーターが登場する。

蛋白質のX線構造解析で、ノーベル化学賞(1957年)を受賞し、世界的に名声を得ていたライナス・ポーリングだ。
ホッファーの愛弟子のアンドリュー・サウル(Andrew W. Saul)が 編集した「Orthomolecular Treatment of Chronic Disease – 65 Experts on Therapeutic and Preventive Nutrition」(未邦訳)によると、1941年、ポーリングは当時致死的な腎臓疾患と言われたブライト病(Bright’s Disease、腎臓炎)と診断されたそうだ。

そこで、ロックフェラー研究所の医師からのアドバイスを聞き、スタンフォード大学の腎臓内科医のThomas Addisに治療を依頼。十分な水と、低塩分と低蛋白質の食事にプラスして、ビタミンとミネラルのサプリを処方され、14年かけて完治することができた。
ポーリングは、食事が疾患の治療に対して効果を初めて実感する。それが影響したのか、1950年以降、蛋白質の構造解析から研究に方向性を変える時、精神疾患、公衆衛生の最も大きな問題であり、科学者の間で問題提起されていないことに気づく。
1945年に、ポーリングは、鎌状赤血球貧血(Sickle-Cell Anemia)の原因は、ヘモグロビン(蛋白質の一つ)の変異にあることを突き止める。
研究の軸足を精神疾患に移し、精神疾患にもそのような蛋白質=酵素の異常によって引き起こされるのではないか、という仮説で研究を進めていく。
その後、ポーリングは、1965年にホッファーの統合失調症の論文「Niacin Therapy in Psychiatry(1962年報告)」に出会い、衝撃を受ける。

ポーリングはホッファーと一緒に研究するようになり、
「適切な分子を適切な量を投与する(Right molecules in the right amounts)」
考え方を言葉にするため、
ポーリングは、
対処療法的な薬治療と区別するため、
新しい医学を、
Ortho(=ギリシャ語で「正しい、Right」の意味)-molecular(分子)Medicine(日本語訳:分子整合栄養医学)
と名前をつけ、考え方を広めていく。

1930年代までに様々なビタミンが発見され、ミネラルと共に酵素を助ける補酵素として働くことがわかってきた。
酵素の働きの異常は、補酵素不足から引き起こされると考える研究者がいるのは自然だと思うが、ホッファーやポーリングの考えは、当時革新的な考え方だった。
ポーリングは、様々な分野で画期的な成果を上げており、分子整合栄養医学についても、様々な科学論文として残しているが、どういうわけだが、分子整合栄養医学については、米国精神医学会(APA、American Psychiatric Association)のみならず、主流の医学会は受け入ることなく、現在に至っている。

私が、分子生物学を勉強していた頃、ポーリングの業績の素晴らしさを学んだが、一方で、分子整合栄養医学を唱えた以降、ポーリングは科学者として頭がおかしくなったのではないか?と学んだことを覚えているが、改めて、「Orthomolecular Treatment of Chronic Disease – 65 Experts on Therapeutic and Preventive Nutrition」を読むと、ポーリングは論理的に栄養学を語っており、おかしなところが一切ない。
分子整合栄養医学の背景を知っておくと
1)個人個人の体質に合わせて適した量で治療していく
2)精神疾患との関係が深い
ことがわかる。
次回、これらの知識を念頭に、血液検査の結果に書きたい(「血液検査から何がわかるのか?〜腸内細菌の環境、蛋白質・脂質がどのように身体内で利用されているのか?神経伝達物質はどうか?を含め」参照)。

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