【P#90】アルコールと心〜脳と身体に与える影響について
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はじめに
東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。
普段、ほとんどの人が一度は手にしたことのあるアルコール飲料。向精神薬の中では抑制薬・鎮静薬(depressant、sedatives、downer、ダウナー)として分類されるアルコールは、脳にどのような影響を及ぼすのか?意外と知られていない。今回は、アルコールについて、歴史的経緯を含め紹介したい。
向精神薬とは何か?〜抑制薬・鎮痛薬の位置づけ
脳科学の理解には、脳の中枢神経系に作用し、人間の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称として「向精神薬(Psychoactive drug)」の知識が必要。これらの薬によって、脳についていろいろなことがわかってきたからだ。
向精神薬には、精神刺激薬・興奮薬(stimulant、upper、アッパー)、抑制薬・鎮静薬(depressant、sedatives、downer、ダウナー)、幻覚剤(psychedelics、hallucinogen)の3種類が知られている。
抑制薬には、アルコール、ベンゾジアゼピン(睡眠薬)、オピオイド(ヘロイン、アヘン、モルヒネ、フェンタニル、オキシコドン)、大麻(CBD、THC)等が知られており、オピオイドは米国で社会問題になっている点、大麻はルネサンスを迎えており、合法化に向かって進んでいること等、過去のブログで取り上げた。
幻覚剤には、LSD、サイロシビン、メスカリン、MDMA、DMTが知られている。以前、米国の規制対象になり、研究ができなかったのだが、幻覚剤のルネサンスを迎えて、依存症やうつ病の治療として注目されている点、過去のブログで取り上げた。
「精神刺激薬」は、中枢神経に作用して、ドーパミン、ノルアドレナリンを活性化させる物質。精神活動を活発(アッパーと呼ぶ)にさせる。アンフェタミン類(覚醒剤)、ニコチン(タバコ)、カフェイン(緑茶、コーヒー)、エフェドリン(漢方のマオウ)が知られている点、過去のブログで取り上げた。
人類の太古から使用されているお酒、今回は、アルコールが脳に与える影響について紹介する。
アルコールの性質〜水溶性と脂溶性、カロリーなし
アルコールの特徴は、水と油の両方(水溶性、脂溶性)に溶ける性質を持つことだ。他の薬剤と違い、細胞や、脳と血液の間にある「血液脳関門」も簡単に通過できる。
お酒を飲むと、20%は胃、80%は小腸に吸収され、門脈を経由して肝臓に運ばれる。肝臓では、時間をかけて、アルコールはアセトアルデヒドを経て、最終的に酢酸に分解される。酢酸に分解されると、血液により全身に巡り、筋肉、脂肪組織により、水、二酸化炭素に分解され、最終的に体外に排泄される。
アルコールは、肝臓で分解(代謝)され、エタノールからアセトアルデヒド、最終的に酢酸に変化する(この一連の過程のことを酸化と呼ぶ)。アルコールの分解する過程で、7.1kcal/gのエネルギーを作り出すことができるが、蓄えることができないため、空っぽのカロリー(empty calories)と呼ばれる。
アルコールの2−10%が、そのままの形で呼気、尿、汗という形で排泄されることも知られている。肝臓でアルコールの分解が始まるが、すぐに分解されないため、心臓を経由して、全身へ。アルコールの代謝産物のアセトアルデヒド、酢酸の一部は、脳へ到達する。
体重約60kgの人が1単位のお酒を30分以内に飲んだ場合、アルコールは約3~4時間体内にとどまると考えられている。
アルコールと脳の前頭葉
アルコールの脳の作用部位については、辺縁系や側坐核におけるドーパミンの放出の増加が知られているが、他にも興奮性アミノ酸受容体(NMDA)や抑制系(GABA)の受容体などがアルコールの影響を受けるとされているが、明らかになっていない。
Huberman LabのAndrew Huberman教授によると、アルコールが脳に到達すると、脳の思考、計画、衝動的行動の抑制を司る「前頭葉」が軽度に抑制される。一方で、記憶形成・保管に関わる脳の神経回路を強力に抑制する性質を持つ。このため、酒を飲むと物忘れが起きる。
大量(1週間に12-24回)に飲酒すると、脳の新皮質が変性を起こすし、少量から中量(1週間に7-14回)に飲酒すると、新皮質が薄くなると考えられている。参考に、2〜6ヶ月断酒したら、これらの変化が元通りに戻るが、慢性的にお酒を飲んでいる人は、もっと時間がかかるらしい。
アルコールは、脳の視床下部と、ストレスに関わる副腎との関係を変化。定期的に飲酒している人は、ストレスホルモンのコルチゾールが通常よりも上がることが知られている。
二日酔いとアセトアルデヒド
アルコールの飲み過ぎによって起こる「二日酔い」の症状には、頭痛、胃腸症状、睡眠障害、感覚や認知の障害、鬱気分、自律神経症状など、様々な症状が知られている。意外と思うかもしれないが、なぜ二日酔いが起きるのか?について解明されていない。
有力な説として、軽度のアルコールの離脱症状、ホルモン異常による脱水、低血糖、炎症反応、アセトアルデヒド、酒に含まれる不純物等が挙げられている。アセトアルデヒドが二日酔いに関係していることが本命視されていたが、データは驚くほどない。二日酔いで、血中にアセトアルデヒドが検出されることは稀だそうだ。
気分、セルフイメージ、自分たちをどのように見ているのか?については、脳の神経伝達物質「セロトニン」が関わっていると考えられている。アセトアルデヒドは、気分に関わる神経回路を過度に活性し、その後、気分が急降下し、活力が抑えられ、注意力や覚醒が失われると考えられている。
アルコールは、海馬に影響を与え、この働きを止めることで気を失う=black outの現象が起きることが知られている。
脳と血中アルコール濃度〜鎮静と昏睡
一気飲みで、急性アルコール中毒になると、意識レベルが低下し、嘔吐、呼吸状態が悪化するなど危険な状態に陥る。通常、血中のアルコール濃度が0.02%から0.1%程度でほろ酔いと呼ばれるリラックスした状態になるが、0.3%を超えると泥酔期(もうろう状態)、0.4%を超えると昏睡期(生命に危険を生じうる)になる。
アルコール血中濃度と鎮静効果については、下記にまとめているので、ご興味のある方はチェックくださいね!
脳の萎縮とアルコール
アルコール依存症、大量飲酒者に脳萎縮が高い割合で認められる。大量に飲酒した人、アルコールを乱用した経験のある人は、認知症になる人が多いという疫学調査結果が出ていることから、認知症の危険性を高めることが示されている、一方で、少量、中等度の飲酒は認知症の予防になる可能性も指摘されている。
まとめ
今回は、人類の太古から使用されているお酒・アルコールが脳に与える影響について紹介させていただいた。
少しでもこの投稿が役立つことを願っています。