1. HOME
  2. ブログ
  3. ブログ/全ての記事
  4. コラム
  5. 【P#83】睡眠薬とは何か?〜バルビツール、ロボトミー、電気ショック療法、栄養〜睡眠薬の歴史①

BLOG

ブログ

コラム ブログ/全ての記事 向精神薬 睡眠 脳科学 薬・開発 西洋医学 鎮静薬

【P#83】睡眠薬とは何か?〜バルビツール、ロボトミー、電気ショック療法、栄養〜睡眠薬の歴史①

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

睡眠について、過去のブログ記事をまとめている。特に、日常生活でできる睡眠の改善法はいくつかあり、薬に頼らすとも、いろいろな手段があることをこちらにまとめた。一方で「睡眠薬」を手にする人が多い割には、リスクを知らないまま処方される傾向が強い。

睡眠薬の歴史の紹介

今回は、2回に分けて睡眠薬の歴史を紹介したい。

1回目は、睡眠薬はどのように開発され、問題点を克服していったのか?精神病との関連で、治療薬の地位がどのように確立していったのか?についてまとめる。

2回目は、改良を重ねた「睡眠薬」。その主流になっているベンゾジアゼピン系の薬について、どのような問題があり、何を理解したらいいのか?を中心にまとめている。

そこで、「向精神薬(Psychoactive drug)」とは何か?その中で、睡眠薬の位置づけから話を進めていきたい。

向精神薬の中での「睡眠薬」

脳科学の理解には、脳の中枢神経系に作用し、人間の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称として「向精神薬(Psychoactive drug)」の知識が必要。これらの薬によって、脳についていろいろなことがわかってきたからだ。

向精神薬には、精神刺激薬・興奮薬(stimulant、upper、アッパー)、抑制薬・鎮静薬(depressant、sedatives、downer、ダウナー、精神安定剤(tranquilizer))、幻覚剤(psychedelics、hallucinogen)の3種類が知られている。

抑制薬には、アルコールベンゾジアゼピン睡眠薬)、オピオイド(ヘロイン、アヘン、モルヒネ、フェンタニル、オキシコドン)、大麻(CBD、THC)等が知られており、オピオイドは米国で社会問題になっている点、大麻はルネサンスを迎えており、合法化に向かって進んでいること等、過去のブログで取り上げた。

幻覚剤には、LSDサイロシビンメスカリンMDMADMTが知られている。以前、米国の規制対象になり、研究ができなかったのだが、幻覚剤のルネサンスを迎えて、依存症やうつ病の治療として注目されている点、過去のブログで取り上げた。

「精神刺激薬」は、中枢神経に作用して、ドーパミン、ノルアドレナリンを活性化させる物質。精神活動を活発(アッパーと呼ぶ)にさせる。アンフェタミン類(覚醒剤)、ニコチン(タバコ)、カフェイン緑茶コーヒー)、エフェドリン(漢方のマオウ)が知られている点、過去のブログで取り上げた。

「睡眠薬」は、抑制薬・鎮静薬に分類され、抗うつ薬や抗不安薬(ストレスや不安の緩和効果がある)としても使用される。

日本では、成人の7.4%が睡眠薬を服用

日経メディカルによると、日本人の成人で7.4%が睡眠薬を服用しており、年齢と共に上昇することが明らかになっている。例えば、20代で2.6%、40代で6.8%、60代で12%、70代で19.2%、80歳以上で24.8%に及ぶ。

30代と40代では男性の割合が高くなるが、それ以外は、女性の割合が高く、年齢と共に上昇。70代女性では24.8%、80歳以上の女性では32.4%で、70歳以上の女性では4人に一人が睡眠薬を服用しているが明らかになっている。

厚生労働省のe-ヘルスヘットでは、日本人の30%近くが不眠症に悩んでおり、国民の取って由々しき問題になっているとまとめているが、意外と睡眠薬について知られていないことが多い。

マシュー・ウォーカー「睡眠こそ最強の解決策である」によると、睡眠薬を飲んでも、自然な眠りは手に入らない。それどころか、健康を害し、命に関わる病気のリスクも高まるらしい。薬に頼らなくても、不眠症から解放される方法は存在するというのだ。

睡眠薬の種類〜睡眠導入薬と睡眠改善薬

通常、不眠症に使われるのは「睡眠導入薬」と「睡眠改善薬」の2つだ。医師によって処方される処方箋医薬品が「睡眠導入薬」、一時的な眠れない症状に対し、薬局で購入できる一般医薬品が「睡眠改善薬」と呼ばれる。

今回、医師から処方される「睡眠薬」を中心にまとめていく予定のため、特に断りがない限り「睡眠導入薬」を中心に語りたい。

1920年代〜50年代:バルビツールの睡眠薬の時代

歴史的に見ると、一番古くから使われていたのがバルビツール(barbiturate)で「麻酔薬」に近い薬物だった。1903年に合成され、1920年代から1950年代唯一の睡眠薬として市場に出回っていた。

1951年、医師による処方箋なしでは処方箋医薬品が処方できないという法律ができたので、それ以前は、規制なしでバルビツールの薬が出回っていた。問題だったのは、依存、耐性、過剰摂取によって死亡リスクが高まること、自殺手段として使用しやすかったことだった。

依存性とは、その薬に依存し薬が不要になっても摂取し続けること。耐性とは、薬を摂取していくうちに効かなくなり、投与量が増えること。過剰摂取によって呼吸抑制に陥り、簡単に死んでしまうこと。問題だったのは、少しでも投与量が増えると(投与域)、過剰摂取の症状が現れることだ。

バルビツールの薬を急に止めると、アルコールの離脱症状と同じ「振戦せん妄」という意識障害を発症する。実は、バルビツールの作用機序とアルコールの作用機序は一緒なのだ。

一時、幻覚剤の一つLSDでも、このような症状を作り出すのではないか、だからアルコール依存症の治療薬に使えるのではないかと考えられたこともあった(のちにこの仮説は否定される)。

更に、長期的にバルビツールを使うと、ビタミンB2の欠乏が起き、ビタミン欠乏症も認められるようになる。

現に、芥川龍之介、マリリン・モンロー、ジミー・ヘンドリックスを含め、多数の有名人が過剰摂取の犠牲になった。このように、投与量が少しでも大きいと問題が起きることから、バルビツールに変わる薬が求められるようになった。参考に、1956年には、WHOの勧告により、医師による処方箋なしでは入手できなくなる。

1950年代①〜ロボトミー、電気ショックから精神病の治療薬の登場へ

1950年代以前、精神病治療は、ロボトミー、電気ショック治療が行われていた。

ロボトミーとは、頭蓋骨に穴を開け、脳の司令塔と呼ばれる部位(前頭葉)の一部を切除する手術。不安発作や妄想患者等、処置後は症状が改善するという報告もあり、開発した神経科医は、ノーベル賞(1949年)を受賞している。

ロボトミーは、脳を直接操作し、変化を加えるため、どのように変化するか?予想が不可能だ。その上、副作用が不可逆的で、元に戻すのも不可能。下手をすると、人権の蹂躙にもつながる手術だ。倫理的な問題もありロボトミーは禁止。

映画「カッコーの巣の上で」は、主人公がロボトミー手術を受け、廃人になっていく姿が描かれている。

電気ショック治療は、電気で頭蓋骨の頭部を刺激し、脳のけいれんを誘発。様々な精神疾患によって障害を受けた脳の機能を回復させようとする治療法で、現在も使われている。

これらの「精神病」の治療手段に対し、精神病に対する治療薬の開発が1950年代、黄金時代を迎える。

1952年、アンリ・ラボリが、麻酔とクロルプロマジン(Chlorpromazine)を併用したところ、精神症状の変化に気づき、精神病の治療に役立つことを発見。バルビツールに代わる「睡眠薬」として期待されるだけではなく、統合失調症の治療薬として使用する道が開かれる。

1950年代②〜薬物療法の地位確立、栄養療法の除外

クロルプロマジンが登場することで「精神病棟」が解放され、ロボトミー手術は行われなくなる。50年代以降、精神薬理学革命と呼ばれ、製薬業界のマーケティングのためか、精神病には薬という地位が確立。逆に、他の手段、栄養(ビタミン、ミネラル)等が治療が顧みなくなった。

例えば、分子整合栄養医学(Orthomolecular Medicine)。脳は神経細胞のネットワークによって成り立っているが、神経細胞の代謝を改善していけば、精神病に効果があるのではないかと考える一派が分子整合栄養医学で、LSD研究で業績を上げたアブラハム・ホッファー(Abram Hoffer)が中心に模索。

統合失調症に、ナイアシンとビタミンCを中心とした栄養療法によって統合失調症の患者さんに効果があることを二重盲検法の試験によって証明された。しかしながら、欠乏症の状態でない患者に大量のビタミンを投与するのは、おかしい!という理由で精神医学界から無視される。

クロルプロマジンの発見により、精神病における製薬業界の影響力が大きくなり、製薬業界の積極的なマーケティングにより、薬による治療の地位が確立する。

1960年代〜ベンゾジアゼピンの登場+精神安定剤の考え方

クロルプロマジンは、非バルビツールの薬の一つ。抗精神病薬(major tranquilizer)に分類されるようになった。参考に、抗精神病薬は、抗精神病作用に対し使われる用語なのに対し、神経症の不安に有効なものを抗不安薬(minor tranquilzer)と呼ぶ。2つを合わせて精神安定剤(tranqulizer)と呼ぶ。

1950年代〜1960年代は、クロルプロマジンを含めた「非バルビツール」の精神安定剤が使われたが、離脱症状、嗜好性等の問題により、数年後に市場から撤退。1960年代以降、ベンゾジアゼピン(benzodiazepines)が席巻。鎮静薬、睡眠導入薬(催眠)、抗不安薬、抗痙攣、筋弛緩等として使用される。

次回、ベンゾジアゼピンについて話を進めていきたい。

まとめ

今回のブログでは「睡眠薬」はどのように開発され、問題点を克服していったのか?精神病との関連で、治療薬の地位がどのように確立していったのか?についてまとめる。

次回は、改良を重ねた「睡眠薬」。その主流になっているベンゾジアゼピン系の薬について、どのような問題があり、何を理解したらいいのか?を中心に情報をシェアしたい。

このブログは情報提供に終始しています。もし「睡眠薬」を含め医療的な相談を受ける場合には、必ず医師に相談してください。

少しでもこの投稿が役立つことを願っています。

関連記事

【W#103】世界一周から学ぶ(1)〜ドイツの教育と移民

【Y#68】集中内観に参加して(3)〜内観フォーラムへの...

【E#94】開業一周年を迎えて(4)〜身体軸から自分軸へ

【J#98】ミライヲヒラク茶会の開催報告〜一期一会の会

【Y#28】プラーナーヤーマ・連続講座(1)〜飛び入りと...

【P#86】東洋と西洋ではカフェインをどう活用したか?〜...