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【P#74】米国と「オピオイド危機」〜アヘン戦争、鎮痛剤、製薬会社、オピオイドの濫用、対策

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

今回は、世界中でコロナ禍が起きる前、米国医療で、大きな社会問題になった「オピオイド危機」を取り上げる。製薬会社の鎮痛薬の承認が引き起こされた薬害の問題として注目され、海外ではドラマ化もされている。なぜ、この問題が起きたのか?オピオイドの依存症、多数の過剰摂取による死亡者を含め、紹介したい。

オピオイドとは何か?〜鎮痛薬として作用

オピオイドとは、痛みを感じる中枢神経にある「オピオイド受容体(μ(ミュー)とκ(カッパ))」に作用することで、鎮痛効果が期待できる化合物の総称して知られている。例えば、モルヒネ、ヘロイン、オキシコドン、フェンタニル等。

鎮痛効果=痛み止めとして、強力に働くため、がんの疼痛に使われる。一方で、問題となるのは「依存性」と「過剰摂取による死亡」だ。特に、摂取量が多くなると、呼吸中枢にある「オピオイド受容体」に働きかけ、呼吸が止まり突然死を招くことが知られている。

このため、非常に厳格に管理されており、よっぽどなことがない限り処方されることがない。1970年、米国で規制物質法(Substance Controlled Act)が制定。Schedule Iにヘロイン、Schedule IIにモルヒネ、オキシコドン、フェンタニルが分類されているため、米国政府により、製造、輸入、所有、流通が規制されている。

オピオイドは、薬草のケシ(Papaver somniferum、opium poppy)から作られる。ケシは、地中海東部が原産で、人類学的には、ユーフラテス川流域で育てられた証拠が出ているらしい。紀元前330年頃、アレクサンドロス大王によってペルシャ、インドに広まり、7世紀には中国に到達している。

現代に入り、ケシの生産は、アフガニスタンが世界一だったが、タリバン政権が栽培を禁止。現在は、ミャンマーが世界一の生産量を誇っているという。

アヘンとは何か?〜医薬品、アヘン戦争

アヘン(阿片)とは、ケシの実から採取される樹液を乾燥させたもので、黒褐色のアンモニア臭がし、苦味もある。

アヘンは、中国では、数百年にわたって、医薬品として見られていた。オピオイドは、吸入すると、効果が早く、強烈に働くので、すぐに依存するようになる。18世紀初めまでには、アヘンの吸引が中国全土に広まっていく。

英国はインドで作られたアヘンを、中国(清)に輸出して巨額の利益を得ていた。清は、アヘンの蔓延に対し危機意識を持ち、全面禁輸を断行。英国商人の保有するアヘンを没収・処分をした。英国政府は反発し、アヘン戦争が勃発。最終的に、英国が勝利。香港の割譲を含めた不平等条約を締結することを余儀なくされる。

オピオイドの種類〜モルヒネ、ヘロイン、脳内モルヒネ

アヘンは、24種類のアルカロイドを含むが、最も多いのがモルヒネ。モルヒネは、1803年にドイツ人の薬剤師によってケシの樹液から単離された。ローマ神話の夢の神・モルぺウスにちなんで、モルフィンと命名。感覚を麻痺させ、眠りを誘導させる働きから名前がつけられた。

1898年にはバイエル社はヘロイン(英雄という意味)は、モルヒネの2倍の生理作用を示すだけではなく、血液脳関門を突破しやすい。当初は、咳止め、頭痛薬、喘息、結核の治療薬として売り出されたが、副作用(吐き気、便秘)と依存性が明らかになるにつれて、宣伝を行わないようになる。

その後、オピオイドの合成品(オキシコドン、フェンタニル)が作られ、現在に至っているが、人間の脳内にもモルヒネに似た「エンドルフィン」(脳内モルヒネ)も知られている。ストレスの時、ランニングしている時に作られ、鎮痛作用を示すことが明らかになっている。

2000年に入り、米国でオピオイドの過剰摂取が増加。やがて、交通事故、自殺者よりも増えることで「オピオイド危機」が叫ばれるようになる。コロナ禍が起きたため、目立たなくなったが、現在でも大きな問題になっている。これから先は、なぜ、このような問題が起きたのか?を中心にまとめたい。

オキシコンチンの登場〜モルヒネの1.5倍の効果の徐放製剤

パーデュー・ファーマ社(Purdue Pharma)は、サックラー(Sackler)家が経営する製薬会社。痛み止めのオピオイドを製造する会社として、1984年にモルヒネの徐放製剤「MSコンチン」。徐々に水に溶かして効果を発揮し、がんの疼痛に使われていた。MSコンチンの特許切れに伴い、新たな新薬の開発が必要となる。

同社が注目したのが、モルヒネよりも効果が1.5倍を示すオキシコドン。MSコンチン同様、オキシコドンの徐放製剤である「オキシコンチン」を開発・発売する。オキシコンチンは、1996年に承認されたのだが、その過程で様々な問題点が指摘されていた。

依存症の少ないオピオイド?〜承認プロセスの問題

審査するFDAの審査官のカーティス・ライト(Curtis Wright)は、1995年1月31日から2月2日に、同社の代表者たちとホテルに会い、FDAの申請書類の作成に関わる。事実と反する「オキシコンチンによる体内の吸収遅延は、依存症を減少させる」といった文言を添付文書に入れることに成功する。

驚くべきことに、1年後に、ライトは、同社にFDAよりも高給を得て同社に入社することになる。製薬業界と審査当局との癒着が課題とされるが、「「薬」はどう審査され承認されているのか?」に書いたように、米国では、製薬会社から審査当局がお金を受け取れる法律(「処方薬審査料法」)により、一層進んだ側面がある。

同社のマーケティング戦略として「オキシコンチンの依存症は、1%よりも少ないというメッセージ」を訴求。根拠が薄いメッセージだったにも関わらず「依存症のリスクが低い」ため、がんの疼痛だけではなく、中等度の慢性痛全般(歯の痛み、腰痛等)に使える!というメッセージがわかりやすく、瞬く間に広まる。

ヘロイン、オピオイド中毒、過剰摂取による死へ

当初、米国の農業、鉱業、林業等が盛んなケンタッキー州、メイン州にターゲットを絞り、医師へアプローチ。2000年頃から、同地域の依存や関連犯罪が急増していく。パーデュー社の内部文書によると、販売される前から、依存性や医師の懸念があったことを知りながら、金儲けのため、販売戦略を進めていく。

鎮痛効果は、12時間持続すると謳い、1日2回の投与で医師たちにアプローチした。実際は、8時間以下で鎮痛効果を失い、薬を欲する「禁断症状」を呈す患者が現れるようになる。要は、販売の初期から1%よりも少ない依存症のメッセージは嘘だということが、最初から明らかになる。

同社は、中毒・依存症の人たちは、もともと依存症の高い人たち。処方を受けた人たちは、依存症にならないというキャンペーンを張るが、2000年頃、オキシコンチンの処方による依存症が報告されるようになった。

2012年には、臨床雑誌のNEJMに、ヘロイン中毒の患者さんのうち、66%は、オキシコンチン処方によって起こっている。実際、オキシコンチンが入手できなくなると、闇のヘロインに手を出す人が増えてくるのだ。厄介なのは、闇で入手するオピオイドは、安価なフェンタニルが混入することが多く、品質も悪い。

オキシコンチン処方によって大きな問題となったのは「過剰摂取(overdose)」による死だった。オピオイドは呼吸中枢に働きかける。予想できない摂取量(特に闇で入手できるオピオイド)でも、呼吸停止を促すことがあり、突然死につながるのだ。

2019年には、過剰摂取による死亡者数は70,630人のうち7割がオピオイドによることが判明し、これは、自殺、銃殺、交通事故よりも多い人数になっている。過剰摂取による死亡者は、1999年に比べ6倍に及ぶ。

徐放製剤と謳われているが、口の中で溶かして、薬のコーティングを皮膚で擦る。もしくは、錠剤を粉状にし、鼻から吸引すると、オキシコドンとして、即効性を発揮。インターネットを通じて、米国全土に使用法が伝わり、依存症が広がっていく。

実際、麻薬捜査局(DEA)、連邦捜査局が中心となって、捜査を行うがなかなか進まず。同社は、ニューヨーク元市長の弁護士・ルドルフ・ジュリアーニを含めた有名人を雇い、ロビー活動を行うことで対抗。利益を社会貢献活動して、美術館や大学に寄付する形で還元し、巧妙に評判を落とさない戦略で乗り切ろうとする。

オピオイド中毒の数どんどん増える一方で、訴訟がなかなか進まない。ようやく、11年後(2007年)になって、「誤解を招くようなブランド戦略」に対して6億ドルの罰金が科される。破産に向けての話し合いが行われるのは20年以上の後の2019年(現在「倒産」)。その頃には、1000件近くの訴訟を抱えるようになる。

本当に薬害問題としては、史上最悪。製薬会社の信頼を失墜した社会問題として、もう少し注目されてもいい。ご興味のある方は、ディスニープラスで配信されているドラマ「DOPESICK」、又はネットフリックスで配信さされているドラマ「Painkiller」をチェックいただきたい。

オピオイドの依存症(オピオイド使用障害)の治療〜メサドンとサボキソン

オピオイドの依存症(Opioid Use Disorder、オピオイド使用障害、以下OUD)の治療として、カウンセリングや行動療法などと薬剤(メサドン(methadone)(商品名:メサペイン)とサボキソン(suboxone)(ブプレノルフィン(buprenorphine)(商品名:レペタン)+ナロキソン(naloxone)の合剤))を組み合わせた薬剤補助療法(Medical Assisted Therapy、MAT)が注目されている。

メサドンは、オピオイドの一種。体内での代謝が遅く、非常に高い脂溶性のため、モルヒネよりも持続時間が長い(半減期は24〜48時間)。鎮痛にも使われるが、OUDの治療において、1日1回の投与で済む。適正な使用量で使用すると、ヘロインへの欲求を減少させる一方、メサドンも禁断症状を出現することが指摘される。

ブプレノルフィンは、オピオイド受容体(μ、ミュー)に対し部分的に作用する薬(半減期は平均で、3.5 時間)で、鎮痛やOUDに対して使用される。ブプレノルフィンはオピオイドによる陶酔感を減少。オピオイドの継続使用が魅力的でないものにさせる効果がある。

オピオイドは、過剰摂取すると呼吸が抑制され、停止に至るが、ナロキソンを使用すると、オピオイド受容体(μ、ミュー)の作用に拮抗し、呼吸を回復させることができる。鼻腔内噴射として使用も可能。効果は、30分から1時間で消失する。

MATを行うと、オピオイド禁断症状、使用願望が減少、全死亡リスクがMATを使用していない患者に比べ有意に減少させる効果が認められるとのことだ。しかしながら、適切に管理しなければ、禁断症状も現れることから、医師の下、慎重に使用することが重要となる。

まとめ

今回は、世界中でコロナ禍が起きる前、米国において医療で、最も大きな社会問題になった「オピオイド中毒」を中心に取り上げた。製薬会社の鎮痛薬の承認が引き起こされた薬害問題と考えてもよく、人為的に起きた問題だと思う。ぜひ、製薬業界のことを知りたい方は、チェックいただくことをお勧めしたい。

少しでも、この投稿が役立つことを願っています。

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