【E#201】知識をどのようにして伝えるのか?〜ミュンヘンでの体験、心理的な安全性、好奇心を促す、コミュニケーション能力
2019年のノーベル化学賞は、リチウム電池の業績に授与され、その中に日本人が一人受賞対象となった。毎年、ノーベル賞に日本人が入っているのが誇らしいと思う。
今回の受賞は、企業現場での成果としての評価だが、大部分の研究は大学の大学院で行われている。
私も20代(1990年代)、独立した研究者を目指し、大学院の研究室で日々研究に励んでいた。
無事博士号を取得したのだが、
興味は
「新しい知識を見つけること」
から
「どのように知識を伝えるのか?」
へ移った。
そこで、博士研究員を経験した後、製薬関連業界及び製薬業界へキャリアを変えた。
「どのようにして薬を売るのか?」
薬の売上高を上げる仕組みを考えるマーケティング部門に所属しつつ
「売るために、どのような情報を医師・患者に伝えるのか?」
「どの病院を訪問するのか?」
「対象となる人によってどのようなコミュニケーション方法を取っていくのか?」
等を学ぶことができた。
この経験が、私が「知識を伝える能力」を考える際に、大きな影響を与えている。
もっとも
「知識吸収する能力」
と
「知識を伝える能力」
は違う能力だと思っている。
なぜなら、知識を吸収するためには、自分の学び方で身につける必要がある。一方で、知識を伝えるためには、自分とは違った相手にどのように伝えるのか?工夫が求められる。
今回は、「知識を伝える能力」について考えてみたい。
教育に造詣の深いケン・ロビンソン卿(以下ケン)は、教育についてTED Talkで語っている(全ての動画は面白くオススメだ)。
その中の一つを紹介したい(TED Talkの動画(「ケン・ロビンソン卿:「教育の死の谷を脱するには」(日本語字幕付))参照)。
ケンは、先生が生徒の能力を最大限引き出すためには、生徒の特性(動画では「人の人生を花開かせる」と表現)を知る必要があり、生徒には以下の3つがあると語っている。
1)多種多様な存在であること
2)好奇心に火を点けることが大事だということ
3)決められた通りに物事を進めることより「創造性」を発揮する生き物だということ
第一に、生徒は多様な存在であるにも関わらず、今の学校教育(大学を含む)の多くは、先生が講義の形で一方的に、生徒に教え、期末にテストをする。のような画一的な教育しか行われていない。
第二に、生徒は好奇心の赴くままに行動していき、それに沿って自然と色々なことを学ぶが、画一的な教育はそれを妨げる可能性が高い。人は多様なため、違った学び方をするからだ。
第三に、好奇心の赴くままに行動ていくにも関わらず、学校教育(仕事も含む)では決められたことをこなすことが良いことと見なされている。それが登校拒否を招く可能性がある。
私が、2014年7月に製薬会社を辞めて、約1年の世界一周をしている間に、ロルフィングのトレーニングをドイツ・ミュンヘンで6ヶ月近く受けた(「ロルフィングの認定トレーニング〜ヨーロッパのロルファーとしての認定までの歩みについて」参照)。
ドイツ・ミュンヘンという自然豊かな、素晴らしい環境で、ロルフィングのセッションの提供の仕方について学ぶことができたが、どのように知識を伝えたらいいのか?非常に勉強になった。
例えば、
1)多種多様な文化の中にいたので、一人一人が違うことが許容された上で、発言の場が等しく与えられていた。その上で、質問の仕方についてもプリントが配布されていたので、質問がしやすかった
2)好奇心を促すために、失敗が許される、助けを求めても大丈夫な、安全・安心な環境が整えられていた(「心理的・安全な場(Psychological Safety)」と呼ぶこともある)
3)一人一人の個性を見極めた上で、タイミングよく生徒へ個別にアドバイスが送られたこと
4)アンケートを取って、改善点を必ず書かせることで、次のクラスに活かす仕組みになっていること
等、ケンが述べているような要素が入っている。
私は、20年近く前に、博士を取得したが、その研究室は厳しいところで有名。「厳しさ」や「恐怖」の支配する現場で、成果が出ないと人格否定も当たり前の厳しい世界を味わい、よく博士号を取れなたなぁ、と思いつつ、厳しさや恐怖の環境の一長一短を知る貴重な経験をした。
恐怖や厳しく教育することは、
「果たして効率のいい教育方法なんだろうか?」
私は一定の成果はあげられると思うが、燃え尽き症候群が起き、好奇心を奪う可能性の方が高いと感じている。
最近、Amy C. Edmondsonの’The Fearless Organization: Creating Psychological Safety in the Workplace for Learning, Innovation and Growth’を読んだ。企業がイノベーションを生み出すために必要なのは、失敗が許され、自由に発言が許されるような「心理的・安全な場(Psychological Safety)」を作ることが企業や組織での重要性が様々な企業の事例を挙げて紹介している。
工夫次第で、「心理的・安全な場(Psychological Safety)」が作れることは本当に励みになる。今、セミナーを組み立てる際に、Amyの本を参考にしながら組み立てている。
ケンは、先ほど紹介した動画で
優れた先生の条件を4つ挙げている。
生徒を
1)導き(Mentor)
2)好奇心を刺激し(Stimulate)
3)学びを促し(Promote)
4)学びのプロセスに関わらせる(Engage)
ことが優れた先生だと。
まさに、一方的に先生から生徒へ知識を伝えるのではなく、コミュニケーション能力、心理的安全性、失敗してもいいといった場が重要になる。
読書会、タロット講習会、コミュニケーションのついてのセミナー、栄養についてのセミナーなどを提供しているが、
「如何にして好奇心を引き出すか?」
「安全な場を用意して、質問を促すような仕組みを作る」
「知識偏重のみならず、話し合いの時間を設け、一人一人の理解度がどうなっているのかを知ること」
という場やコミュニティを引き続き作っていきたいと考えている。
計画の一つとして、分子栄養学に必要な知識(分子生物学、疫学、栄養学)についての基礎を提供するセミナーのコンテンツを構想中だ。
前半が「知識を伝える」
後半が「得られた知識をどのように生活に生かすのか?」
と二部構成を考えているので、また本コラムでご案内させていただきます。