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『自分の糸をたぐりよせる方法』~「生きがい」を見失わないために~を拝聴して

はじめに

2026年11月5日(木)19時から21時まで、千代田区立日比谷図書文化館4階のスタジオプラス小ホールで開催された、Primary Club(プライマリークラブ)主催のイベント「自分の糸をたぐりよせる方法〜「生きがい」を見失わないために〜」に参加してきました。今回も会場での開催に加え、Zoomによる同時配信が行われました。

登壇されたのは、編集者・出版プロデューサーの斎藤りゅう哉さん。プライマリークラブでの登壇は今回で17回目となり、私自身も10回目の参加になります。

過去の講演については、記事の最後に一覧をまとめていますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。

編集者の目線で人生に必要な知恵をシェア

りゅう哉さんは、30年にわたり編集一筋で歩んでこられた方です。これまでに手がけた本の発行部数は、国内で400万部、海外では数千万部に達するそうです。サンマーク出版に30年間勤務された後、2024年に退職。現在はフリーランスとして、出版コンサルティングや文章術講座などを手がけています。

この講演会の魅力は、編集者として数多くの著者や人々と出会い、さまざまな出来事を経験する中で得られた知恵を、ご自身の言葉で語ってくださるところにあります。以前はレジュメやメモを用意して講演に臨んでいたそうですが、どうもしっくりこなかったとのこと。

そこで、りゅう哉さんは、次のように話されていました。

スライドがあると内容を“説明”するだけになってしまう。でも、ホワイトボードだと、話に集中してもらえる。

このお話は、昨年の講演会「運命の軽車が来たら乗ってみよう〜を拝聴して」(2025年11月6日開催)でも伺いました。そのとき、余計な装飾を削ぎ落とすことで、かえって言葉の純度が高まっていくような印象を受けました。

2時間近くに及ぶ講演の内容を頭の中で整理しながら、その場で即興的に展開していく。話がどのようにつながり、どこへ向かっていくのか。まるで「編集思考のライブ」を聴いているような感覚があります。今回も、その魅力を存分に味わうことができました。

プライマリークラブの22年

今回の講演を主催したプライマリークラブは、もともと3人の飲み会から始まったそうです。お互いに興味を持った講演会の情報を共有するうちに、「それなら自分たちで講師を呼んでみよう!」という話になり、講演会を開催するようになったとのことです。

以前は毎月セミナーを開催していましたが、現在は年に2、3回のペースで活動を続けています。りゅう哉さんがこの会で話されるようになったのは17年前からで、これまでに通算17回登壇しています。講演会は通常、第1木曜日に開催されています。ほかにも、ひすいこたろうさんやオリンピック金メダリストの岩崎恭子さんなど、さまざまな分野で活躍する方々を招いてきたそうです。

講演会だけでなく、マラソン大会なども企画し、「大人が学ぶ会」として活動を続けてきたことも紹介されました。また、受講費の一部は緩和ケア病床への寄付に充てられているとのこと。学びを通じて人と人がつながり、その活動が社会への貢献にも結びついていることが印象に残りました。

AIの時代に問われる「人間らしさ」

今回の講演は、AI(人工知能)の話から始まりました。

まず取り上げられたのは、時代の変化についてです。2010年前後からSNSが急速に普及し、Twitterのような短い文章で情報を発信する文化が広がっていきました。その後、りゅう哉さんが特に大きな変化を感じたのが、コロナ禍だったそうです。三密を避ける必要性から、オンラインで人とつながることが一気に当たり前になりました。

中でも印象的だったのが、音声SNSのClubhouseの登場です。りゅう哉さんも積極的に活用し、それまで出会う機会のなかった日本全国の人々とのつながりが生まれたそうです。

2024年にフリーランスとして独立するまで、サンマーク出版に30年間勤務されていましたが、Clubhouseを通じて会社の外に人間関係が広がったことが、独立への自信にもつながったと話されていました。会社という組織の中だけでなく、外の世界にも自分の居場所や可能性がある。そのことを実感できた経験だったのだと思います。

そして話題は、生成AIへと移りました。

生成AIの発展によって、インターネット上の膨大な情報を集め、整理し、一定の水準の文章にまとめることが、驚くほど簡単になりました。これまで人間が時間をかけて行っていた作業の多くを、AIがわずか数秒でこなしてしまいます。

りゅう哉さんは、人間が考える部分はわずか1%ほどになり、残りはAIが担えるような時代になってきた、という趣旨のお話をされていました。もちろん、すべての思考がAIに置き換わるという意味ではなく、それほどまでに知識や情報を扱う環境が変化しているということでしょう。

では、そのような時代に、人間には何が残るのでしょうか。

ここで問われるのが、「人間らしさとは何か」という問題です。

りゅう哉さんによると、出版の世界でも、単に技術や方法を教える本は以前ほど売れなくなってきているそうです。知識やノウハウを手に入れるだけなら、AIに尋ねればよい時代になりつつあります。

だからこそ、人間にしかできないこと、人間だからこそ大切にできることに目を向ける必要があるのではないか。効率よく時間を使うことだけでなく、あえてゆっくりと時間をかけること、何かをじっくり味わうことにも価値がある。そんな問いかけから、講演はさらに深いテーマへと進んでいきました。

思議と不可思議〜AIは考える、人間は感じる

ここでホワイトボードに書かれたのが、「思議」と「不可思議」という二つの言葉でした。

「思議(しぎ)」は、古くから使われてきた言葉で、物事について思いを巡らせ、考え、議論することを意味します。段階を追って論理的に考え、理解しようとする働きです。

一方、「不可思議(ふかしぎ)」は仏教に由来する言葉で、人間の思考や議論だけでは捉えきれないものを指します。どれほど考えても、理屈だけでは説明できないことがある。そうした領域を表す言葉です。

りゅう哉さんは、この二つを次のように整理されていました。

  • 思議=AI=考える
  • 不可思議=人間=感じる(①感情 ②感性 ③直感)

AIが得意とするのは、膨大な情報をもとに考え、整理し、答えを導き出すこと。一方、人間には、感情や感性、直感を通じて世界を捉える力があります。

もちろん、AIと人間の違いをこのように単純に分けられるわけではありません。それでも、人間らしさを考えるための一つの切り口として、興味深い整理だと感じました。

感情〜赤ちゃんは泣くことで表現する

まず取り上げられたのが、感情です。

仮にAIが感情を持つとすれば、さまざまなデータや機能を組み合わせることで、それらしい反応を生み出すことになるでしょう。では、人間の場合はどうなのでしょうか。

りゅう哉さんは、ご自身の息子さんが生まれたときのエピソードを紹介されました。

赤ちゃんが生まれると、医師は身体の状態を確認します。その一つとして、肛門が正常に開いているかどうかを調べることがあるそうです。その確認の際に、赤ちゃんが泣き出した。その姿を見て、りゅう哉さんは深く感動されたといいます。

考えてみれば、生まれたばかりの赤ちゃんには、まだ人生経験も、言葉による知識もありません。それでも、不快なことがあれば泣き、身体全体を使って自分の状態を表現します。

人間は、何かを学んでから感情を持つのではありません。生まれたときから、身体を通じて世界に反応する力を備えている。そのことを実感したエピソードとして紹介されていました。

感性〜作品に転写されたもの

次に取り上げられたのが、感性です。

人間が作品を作るとき、そこには単なる情報の組み合わせを超えた、その人ならではの感覚や経験が反映されます。では、作品に込められたそうしたものを、AIはどこまで表現できるのでしょうか。

りゅう哉さんは、今回の講演資料を生成AIで作成しようとした際の経験を紹介されました。人間なら感覚的に調整できるようなことでも、AIに意図を伝え、思いどおりの形に仕上げるのは意外に難しかったそうです。

人間らしいものを作ろうとするほど、かえって難しさが見えてくる。AIの能力が高まることで、逆に人間の感性とは何かを考えさせられる、興味深いお話でした。

直感〜一瞬で本質をつかむ

三つ目は、直感です。

直感とは、長い時間をかけて一つひとつ検討するのではなく、瞬間的に状況を捉え、判断するような働きです。りゅう哉さんは、勝負の流れや勝率を一瞬で見極めるようなものだと説明されていました。

例として挙げられたのが、将棋の藤井聡太さんです。

現在の将棋界では、AIによる研究が欠かせないものになっています。対局の中継でも、AIが予測する勝率が表示され、どちらが優勢なのかを視聴者も確認できるようになりました。

りゅう哉さんによると、藤井棋士がある一手を指したことで、AIの評価する勝率が20%から70%へと大きく変化したことがあったそうです。

棋士は何十手も先を読みながら指し手を考えます。しかし、その判断には、論理的な読みだけでは説明しきれないものもあるのではないか。長年の経験によって培われた直感が、一瞬で局面の本質を捉える。そんな可能性についてのお話でした。

もう一人、経営コンサルタントとして活躍された船井幸雄さんのエピソードも紹介されました(りゅう哉さんが編集した本は『法則・マクロに発想する』)。

船井さんは、何千社もの企業を見てきた経験から、会社の入口に入っただけで、売上の状況や社長と社員の関係性まで感じ取ることができたそうです。膨大な経験が積み重なることで、細かな情報を一つひとつ分析しなくても、全体の特徴を瞬時に捉えられるようになる。これも直感の一つの形なのかもしれません。

さらに、意識と潜在意識についても触れられました。意識できる部分は0.1〜1%、潜在意識は99%ともいわれますが、これは厳密な科学的比率というより、私たちが自覚していない心の働きの大きさを表す比喩として理解するとよいでしょう。

例えば、子どもの頃に犬にかまれた経験がある人は、頭では小さな犬だから大丈夫だとわかっていても、身体が先に反応してしまうことがあります。言葉で考える前に、身体が何かを感じ取っているのです。

直感とは、単なる思いつきではなく、過去の経験や身体の感覚とも深く結びついている。そのような視点が示されました。

ものの中心をつかむ

ここから講演は、身体の話へと移っていきました。

ペットボトル、紙コップ、発泡スチロールの容器、金属製のビールグラス。それぞれを持ち上げるとき、私たちは無意識のうちに持ち方や力の入れ方を変えています。

重さや材質、形状が異なるため、同じように持ち上げようとしてもうまくいきません。しかし、私たちは特別に考えなくても、それぞれの物に合った持ち方を自然に選んでいます。

りゅう哉さんは、これを「ものの中心をつかむ」という言葉で説明されていました。物の重心や特徴を身体で捉え、適切に扱うことができる。普段は当たり前のように行っていることですが、考えてみれば、非常に高度な能力です。

そして、人間の身体にも中心があります。それが丹田、つまり腹の中心です。

日本語には「腹を決める」「腹を割って話す」といった表現があります。単に身体の一部を指すだけでなく、人間の意思や覚悟、本音を表す言葉としても「腹」が使われてきました。

物の中心を捉えることと、自分自身の中心を感じること。りゅう哉さんは、この二つを結びつけながら、人間が物をつかみ、扱う能力を発達させてきたことが、知性や文明の発展にもつながっているのではないかと話されました。

ここで対比として登場したのが、ロボットです。

近年、AIやロボット技術は急速に進歩し、ダンスをしたり走ったりするロボットも登場しています。それでも、人間のように二本足で歩き、転倒しても柔軟に立ち上がることは、技術的に難しい課題の一つです。

人間は、転んでも身体の状態を瞬時に把握し、手足を使いながら立ち上がることができます。こうした動作の背景には、身体の位置や重心を感じ取り、環境に合わせて動きを調整する能力があります。

さらに興味深かったのは、物理的な中心をつかむ力が、抽象的な物事の中心を捉える力にもつながる、という展開でした。

例えば会議でも、議論の中心となるテーマが明確になれば、参加者の理解がそろい、話し合いが進みやすくなります。人と接するときにも、その人の言葉だけでなく、態度や雰囲気から何かを感じ取ることがあります。「腹黒い」という表現も、人間の内面を腹に結びつけて捉える言葉の一つです。

本を読むときも同じです。

著者が本当に伝えたいことは何なのか。そして、自分がその本から学びたいことは何なのか。その二つの中心を捉えることが大切になります。

ベストセラーだからといって、必ずしも自分に必要な本とは限りません。どの本にも著者が最も伝えたいコアメッセージがあり、その中心をつかむことができれば、数ページ読んだだけでも、その本が自分にとって必要かどうかが見えてくることがあるそうです。

身体で物の中心を捉えることから始まり、思考や人間関係、読書にまで話が広がっていく。この展開は、今回の講演の中でも特に興味深い部分でした。

人生の糸とは何か

ここで、いよいよ講演のタイトルにある「糸」の話へと進みました。

人生にも、一本の中心となる糸があるのではないか。

何十年も生きてきた中で、自分にとって本当に大切なものは何なのか。何を伝え、どのように生きていきたいのか。その中心を見つけることが、自分自身の生き方を確立することにつながる、というお話でした。

「思いが現実を作る」。

書店に行けば、こうした考え方を紹介する本が数多く並んでいます。りゅう哉さんご自身も、高校時代から願望実現に関する本を読んでこられたそうです。特に10代の頃、書店でさまざまな本と出会った経験が、その後の人生に大きな影響を与えたと話されていました。

もし自分の思いが現実の捉え方や行動を形づくっているのなら、その思いを変えることで、人生の方向も変わっていくのではないか。そんな考え方です。

AIは、膨大な情報を集め、整理することが得意です。しかし、人間の人生には、情報をいくら集めても見つからないものがあります。

それが、過去から現在、そして未来へと一本につながっている「人生の糸」です。

りゅう哉さんは、それを針金のようなしっかりとした軸にたとえていました。自分の人生を貫くものは、本来それほど簡単には変わらない。しかし、周囲の情報や出来事に流されているうちに、その存在を見失ってしまうことがあります。

だからこそ、自分の糸を見つけ、ピンと張ることが大切なのです。

自分は何をするために生きているのか。何を大切にし、何を世の中に伝えていきたいのか。

その中心が明確になると、必要な人や出来事との出会いが生まれ、物事が自然に進み始めることがある。りゅう哉さんは、それを「開運」であり、「たぐりよせる」ということなのだと説明されていました。

二つのワーク

講演の途中には、4人ずつのグループに分かれて行うワークもありました。

最初のお題は、次のようなものでした。

自分のやりたいことを1分考えて、言語化してみましょう。

その言語化したものを、4人ずつのグループでシェアするというもの。私のグループでは、「可能性にチャレンジすること」「直感を信じること」「自分で舵を切ること」「自然に試みること」「地道に暗記を重ねること」など、さまざまな答えが出てきました。

同じ問いであっても、人によって答え方が大きく異なります。他の人の話を聞くことで、自分にはなかった視点に気づくこともあります。そうした違いに触れること自体が、自分の人生を貫く糸を見つける手がかりになるのかもしれません。

人生の糸は、必ずしも今の仕事や目標の中にあるとは限りません。これまでに経験してきたさまざまな出来事の中に、その手がかりが隠れていることもあります。例えば、思春期に何を悩み、何に心を動かされたのか。どんな出来事が人生の転機になったのか。過去を振り返ってみると、異なる経験の中に共通するテーマが見えてくることがあります。

もう一つ、時間の都合で実施されなかったワークも紹介されました。

自分が大切にしていることを、伝えていくために何をしていきたいか?

自分の人生の糸を見つけるだけでなく、それを次の世代や、より広い世界にどのように伝えていくのか。最初のワークからさらに一歩進んだ問いです。

こちらについても、ぜひ時間を取って考えてみたいと思いました。

思いの海と、宇宙の意志

人生の糸をしっかりと持つことができると、次の一歩を踏み出すときに、不思議と物事が自然に進んでいくことがある。自分の力だけでは説明できないような出来事や出会いが重なり、何かに導かれているように感じられることがある、というお話でした。

りゅう哉さんは13歳の頃に「思いは実現する」という考え方に出会い、それ以来、さまざまな本を読みながら、人間の意識や心の働きについて考えてこられたそうです。

個人の思いから潜在意識へ、さらに集合意識へと話は広がっていきました。

人間の思いは、それぞれ独立しているのではなく、海やプールのような大きなものの中でつながっているのではないか。その中には善悪の区別がなく、無数の思いが集まることで、集合意識のようなものが形成されていく。

そして、そうした人間の意識を超えたところに、宇宙そのものを動かす何らかの意志があるのではないか。これは科学的に証明された説明というより、りゅう哉さんが長年の読書や経験を通じて探究されてきた世界観として紹介されました。

この流れで名前が挙がったのが、稲盛和夫さんや中村天風さんです。お二人は、人間の心や生き方を、宇宙全体の働きと結びつけて考えていました。さらに、山中伸弥さんのiPS細胞の研究(りゅう哉さんが編集した本は『夢中が未来をつくる』)についても触れられました。

受精卵から生まれた細胞は、発生の過程でさまざまな役割を持つ細胞へと分化していきます。一方、iPS細胞は、分化した体細胞を初期化することで、多様な細胞へと変化する能力を持たせたものです。

こうした技術によって心筋細胞を作り、心筋シートなどとして心不全の治療に応用する研究も進められています。心筋細胞が自律的に拍動する様子を見ると、生命の仕組みの精巧さや不思議さを感じずにはいられません。

ミクロの細胞の世界から、マクロの宇宙へ。星々が一定の法則に従って運動していることにも触れながら、その背後には何らかの大きな秩序や意志があるのではないか、という問いが投げかけられました。

遺伝子研究で知られる村上和雄先生も、生命の精巧な仕組みを研究する中で、「Something Great(サムシング・グレート)」という言葉を用いていました。生命の背後に、人間の理解を超えた大きな働きがあるのではないか、という考え方です(りゅう哉さんが編集した本は『生命の暗号:あなたの遺伝子が目覚めるとき』)。

目には見えない宇宙の中心、あるいは万物の根源を、人類は古くから探究してきました。その例として、日本神話のアメノミナカヌシ、イスラム教のアッラー、インド思想のブラフマンといった名前が挙げられました。それぞれ異なる宗教的・哲学的背景を持つ概念ですが、人間が世界の根源を理解しようとしてきたことを示す例として紹介されていました。

さらに、人間の心はタマネギのように何層にも重なっており、その奥には「真我」がある、というお話もありました。

真我とは、日常的な思考や感情を超えた、本来の自己を意味する概念です。そうした自己の中心が宇宙の根源とつながっていると考え、そのつながりを自覚することで、人生の流れがよくなっていく。聖者と呼ばれる人々の生き方にも、こうした考え方が見られるというお話でした。

物事にも、人間にも、宇宙にも、それぞれ中心がある。では、時間についてはどうなのでしょうか。

年齢を重ねるにつれて、人生の中で過去が占める割合は大きくなっていきます。若い頃と比べると、振り返ることのできる時間も長くなる。ここから話は、私たちが過去をどのように捉えるのか、というテーマへと移っていきました。

過去は変えられる〜ある俳優さんの初恋の話

りゅう哉さんがサンマーク出版に入社して2年目に手がけた本(篠原佳年さんの『快癒力: そのイメ-ジを変えれば健康になれる』)についてのお話がありました。

膠原病を専門とする医師の本で、30万部を売り上げたそうです。その本では、現代医療だけでは十分に対応できない病気と、患者の過去の経験や心のあり方との関係が取り上げられていたとのことです。もちろん、膠原病の原因を過去の心理的経験だけで説明することはできません。

ただ、ここでりゅう哉さんが伝えたかったのは、「過去そのものは変えられなくても、過去の意味づけは変えられる」という視点だったのだと思います。

その例として紹介されたのが、ある俳優さんの初恋にまつわるテレビ番組のエピソードでした。その男性俳優は、中学校の卒業式の日のことを、長年忘れられずにいたそうです。卒業式に遅刻してしまい、同級生たちとはぐれ、一人で困っていたところに、美しい女性が現れた。その女性こそが、初恋の相手だったという記憶です。

ところが、テレビ番組の企画で、年齢を重ねたその女性と再会してみると、思いがけないことがわかりました。実は、周囲の人たちもそのときに参加していたのですが、その人たちによると、俳優が語っていたような出来事はなかったというのです。実際には、みんなで一緒に食事をし、その後も一緒に帰ったはずだ、と。

長年大切にしてきた記憶が、必ずしも事実と一致していなかったわけです。

人間の記憶は、過去の出来事をそのまま保存した記録ではありません。思い出すたびに再構成され、現在の感情や考え方によって意味づけが変わることもあります。りゅう哉さんは、こうした記憶のあり方を、パラレルワールドや複数の世界線という表現にも結びつけながら説明されていました。

実際に起こった出来事は一つだったとしても、その出来事をどう記憶し、どう解釈するかによって、私たちが生きる世界の見え方は変わります。

過去をどう捉えるかによって、現在の自分が変わり、未来の選択も変わっていく。そう考えると、「過去は変えられる」という言葉は、過去の事実を書き換えるという意味ではなく、過去との関係を変えることなのだと理解できます。

今この瞬間を生きる〜坂村真民さん

続いて、紹介されたのが、詩人の坂村真民さんです。坂村真民さんは、愛媛県で暮らし、97歳まで詩を書き続けた方です。

毎日午前0時に起き、人類と世界の平和を祈ることを日課としていました。暮らしていたのは、ごく普通の家で、その場所を「たんぽぽ堂」と呼んでいたそうです。真民さんの随筆には、足元にタンポポが咲いているのに、その存在に気づかずに通り過ぎてしまう人々の姿が描かれています。

忙しさに追われていると、私たちは目の前にある小さなものを見落としてしまいます。遠くの目標や未来のことばかり考えているうちに、今この瞬間にしか味わえないものを見失ってしまうのです。

真民さんが多くの人々の心を動かしてきたのは、そうした日常の中にある大切なものを、詩を通じて伝え続けてきたからではないでしょうか。

今この瞬間を丁寧に生きること。一日を深く味わうこと。人生で七つのことを同時に追いかけるよりも、本当に大切な二つか三つに集中すること。

そうした生き方についてのお話がありました。

坂村真民さんについては、以前に「自分の道をまっすぐゆこう──朗読とピアノ演奏の午後に想う、坂村真民の生き方」という記事を書いています。ご興味のある方は、あわせてご覧いただければと思います。

自分を中心に、世界が動いている

では、目に見えない中心とは、いったいどこにあるのでしょうか。

講演では、宇宙の始まりであるビッグバンの話が登場しました。宇宙は約138億年前に始まり、現在も膨張を続けています。ここからりゅう哉さんは、宇宙の中心と自分自身の存在を重ね合わせながら、興味深い問いを投げかけられました。

宇宙全体に物理的な中心があるという意味ではありません。むしろ、自分がこの世界に生まれたことによって、自分を中心とした経験の世界が始まる、という考え方です。

私たちは、それぞれ自分の人生の当事者として世界を経験しています。自分が何を志し、何に関心を向け、どのように行動するかによって、目の前に現れる出来事の意味も変わっていきます。問題を解決しようとするときも、誰かに答えを求めるだけでなく、自分自身が当事者として関わることが、解決への手がかりになるのではないか、というお話でした。

自分が世界の中心にいることを認めず、何かを達成して初めて中心に到達できると考えてしまうと、今の自分はまだ不十分だということになります。もっと努力しなければならない。もっと成長しなければならない。今の自分ではだめだ。そう考え続けると、いつの間にか、自分自身を否定することになってしまいます。

しかし、そうではありません。

自分はすでに、この世界に存在しています。何かを達成する前から、自分自身の人生の当事者なのです。まずは、その事実を認めること。今の自分をそのまま受け入れること。そこから世界の見方が変わり始めるのではないか、というお話でした。そして、自分の人生を貫く一本の糸を認識することが、その出発点になるのです。

最後に示されたのが、「神の心=糸=意図」という図式でした。

自分の人生に与えられた命を大切にし、自分が本当に大切だと感じることに沿って生きる。その姿勢が信念となり、行動につながっていく。りゅう哉さんは、それを神や宇宙の進化にも結びつけながら、大切なことに沿って生きていくと、不思議と幸運な出来事が重なっていくことがある、と語られていました。

ゲストとの対談〜安藤美冬さん、岡野あつこさん

講演の後は、恒例となっているゲストとの対談です。まず、Zoomで参加されていた方から、次のような質問がありました。

今の自分を認めながら、自分の人生の『意図』を明確にしていくために、日々どのような問いかけや習慣を大切にするとよいでしょうか

これに対して、何かのスイッチが入ると、そこから直感的にさまざまなものが入ってくるようになる、という趣旨の答えがありました。

続いて登場されたのが、安藤美冬さんです。美冬さんは、自分の中で何かがつながり始めると、必要なものが自然にやってくるように感じることがある、と話されていました。子どもの頃からジャズダンスが好きだったそうで、昨年『ノーイング(KNOWING)』に取り組んでいたときには、宇宙から強烈なインスピレーションが降りてくるような経験をされたとのことです。

現在はシナリオの執筆にも取り組んでおり、書店や街のお店を歩きながら構想を練ることもあるそうです。再来年の春に向けた新たな展開も考えているとのことでした。

特に印象に残ったのは、「真我」や「ワクワク」から逃げない、というお話です。

自分が本当に心を動かされることを大切にする。たとえすぐにお金にならなくても、心からやりたいと思うことに向き合う。その姿勢が、次の可能性につながっていくのかもしれません。かつて「SNSの女王」と呼ばれた美冬さんですが、現在はSNSをまったく利用していないそうです。それも、これからの生き方を自分自身で実験している一つの形だと話されていました。

また、自分の心が今、よい状態にあるかどうかを意識することの大切さにも触れられました。不平不満が出てくるときには、感謝の気持ちが足りなくなっているのかもしれない。気持ちが揺れ動くときこそ、謙虚さを忘れずにいたい、というお話でした。

今後は脚本の執筆にも力を入れていくそうで、直木賞作家とのコラボレーションによる作品の構想もあるとのことです。10歳から80歳まで、幅広い世代に届けたいという思いも語られていました。芸術を通じて、世の中が少しでも平和になってほしい。そのような願いが、今の活動の背景にあるようです。

さらに、自分の内側と本音で対話することの重要性についても触れられました。言葉は一つひとつ独立しているのではなく、文章(sentence)としてつながり、意味を生み出していきます。

AIについても、答えをすべて委ねるのではなく、自分との対話を深めるためのアドバイスをもらう存在として活用しているそうです。自分自身の本音を知るために、AIをどのように使うのか。講演の冒頭にあった「AIと人間らしさ」というテーマにもつながるお話でした。

続いて、岡野あつこさんとの対談が行われました。

話題に挙がったのは、『夫婦がベストパートナーに変わる77の魔法』という著書です。

現在、ご自身の著書による読書会を開催しようという話から始まり、夫婦関係という、人にとって非常に大切な関係を修復する仕事において、内面を見つめるということの大切さをシェアしていました。

4年ぶりにご自身の本の目次を見返したところ、改めてよい本だと感じられたそうです。時間が経っても、自分が大切にしてきたメッセージが色あせていないことを実感されたのかもしれません。

来年1月の中旬には、植草美幸さんとの共著による新しい本(『最短婚』)も出版される予定とのことです。

「人に乗っかる」「熱意のある人のところへ行く」という言葉も印象的でした。何もかも一人で実現しようとするのではなく、熱意を持って行動している人とつながり、その流れに参加してみる。そうすることで、自分一人では思いつかなかったような展開が生まれることもあるのでしょう。

人生の糸をたぐりよせるという今回のテーマを、人との関係性という視点から考えるきっかけにもなりました。

まとめ

2時間があっという間でした。

今回の講演で最も興味深かったのは、AIを入口として「人間らしさとは何か」を問い、そこから「思議」と「不可思議」という古い言葉を取り上げ、人間の働きを感情・感性・直感の三つに整理していったところです。特に印象に残ったのは、直感の話が「ものの中心をつかむ」という、非常に具体的な身体の話につながっていったことでした。

ペットボトルと紙コップ、金属のグラスでは、持ち上げるときの感覚が違います。誰もが日常的に経験していることですが、そこには身体が物の重さや形状を捉え、適切に働きかけるという高度な能力があります。

その身体的な経験から、抽象的な物事の中心をつかむ力、さらには人間の本質を感じ取る力へと話が広がっていきました。身体を通じて世界を理解するという視点は、私自身が関心を持っているテーマとも重なり、非常に興味深く感じました。

そして、講演の中心にあったのが「人生の糸」という考え方です。

過去から現在、そして未来へと一本につながっている、自分にとって本当に大切なもの。その糸は本来しっかりしているけれども、日々の情報や周囲の出来事に流されているうちに、見失いやすくなってしまいます。

特に、AIが膨大な情報を瞬時に整理できるようになった今、私たちは知識や情報を手に入れることに、ますます多くの意識を向けるようになっています。しかし、情報が増えることと、自分の人生の中心が明確になることは、必ずしも同じではありません。

むしろ、情報があふれる時代だからこそ、自分は何を大切にしているのか、何を伝えていきたいのかという問いに、立ち返る必要があるのだと思います。自分の人生を貫く糸を見つけ、その糸をピンと張ること。そして、その中心から日々の選択を重ねていくこと。それが「自分の糸をたぐりよせる」という言葉の意味なのだと感じました。

今回も貴重なお話をありがとうございました。来年もぜひ伺いたいと思います。

過去のセミナー一覧:全10回(2017年〜2026年)

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