【N#173】カロリー制限と基礎代謝の変化〜ミネソタ大学の半飢餓実験
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はじめに
東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。
栄養学や食事で登場する「カロリー」や「エネルギー」。これらは、西洋独特の概念として知られているが、東洋の「プラーナ」や「氣」と同じように語られる。以前、「カロリー」の考え方は、西洋の文化の中から生まれたことを書いた。
更に、人類学の研究から、消費できる1日のカロリーは決まっていることがわかってきていることも、ブログにまとめた。今回は、第二次世界大戦が終わる頃(1944年〜1945年)に行われた、ミネソタ大学のアンセル・キーズらのチームが行った半飢餓試験を取り上げ、人間がエネルギーを枯渇した時、どう対処するか考えたい。
第二次世界大戦中に行われたミネソタ大学の半飢餓実験
第二次世界大戦の時に、食料、物資不足が明らかになると、研究者は人間が飢餓になったとき、どう対処したらいいのか?調べる機運が高まった。そこで、良心的に兵役を拒否した32名の若い男性に対して、実験が行われた。
最初の12週間は、3200カロリー/日の贅沢な食事+週22マイルのジョギング+洗濯や薪割りといった典型的な肉体労働を15時間行った。身長、体重、体脂肪、安静時の脈拍、赤血球数、体力、聴力、心理状態、精子数等のデータを収集。その後の24週間は、食事を1570カロリー/日に制限+同じ運動量を課した。
参考に、1570キロカロリー/日は男性の安静時の基礎代謝の等しい。最後は、リハビリの食事で再栄養を施した。
半飢餓実験の結果〜代謝が落ちる
半飢餓に苦しむ男たちは急速に体重を減らし、常に空腹に悩まされただけではなく、無気力、落ち込み、頻繁に怒りを爆発させるようになっていった。そして、男性陣の体重が25%に落ちた時点で、食事量を増加。12週かけて、徐々に食事量を増やし、体重を回復。2ヶ月で実験が終わった。
半飢餓状態にある男性陣は、それを上回る代謝が必要なため、体脂肪が使われた(体脂肪の蓄積量が70%減少、平均10キロから3.2キロまで減った)。無気力になり、身体活動の量を最小限に切り詰め、ウォーキングと作業をしてない間はベットに横になった。集中力が低下、性欲もなくなった。
ポイントは、安静時の代謝が1590キロカロリーから964キロカロリーにまで減ったこと。これは体重30キロの8歳児の基礎代謝と同じ値だ。
代謝は柔軟〜生命維持のため何が必要か?で決まる
ミネソタ大学の研究から言えることは、人間の安静になった時の代謝は、柔軟であること。安静時の代謝は、費やさなければ量ではなく、生命維持に費やすことを選択した量によって決まることだ。実際、代謝が減り、身体のバランスを保つためのコストを減らす。
例えば、心拍数は3分の1に減り、体温は37度から35.4度(暖房の効いた部屋でも常に寒さを感じるように)、皮膚がカサカサ、精子の数が減り、血球数も減少、耳垢の分泌量も低下、そして臓器のサイズも減少する。
脳などの必須の臓器を優先し、生殖などの機能を手放し、体温、活動能力、体力などの「削減可能」な働きを大幅に縮小。筋肉を40%削減することで150キロカロリーを節約、簡単に疲れるようになったのだ。心臓も推定17%縮小、肝臓や腎臓も同じように縮小していった。
脳の役割〜カロリーの調整を行う場所
半飢餓実験が語ってくれるのは、食事によって代謝が大幅に変わることだ。考えてみれば、人間は37兆個の細胞からなり、生命活動を維持するためにはカロリーが必要。しかも、体が環境とやりとりするためには、筋肉、神経、脳、心臓、肺等が必要で、ウィルス、細菌、有毒物質への対処や、生殖系の維持・準備も大事だ。
生命活動にはすべてカロリーが必要で、そのエネルギーの配分を行うのが脳の視床下部という場所だ。脂肪から出るホルモン(レプチン)、血糖値、甲状腺の活動にも関わるのだ。半飢餓実験が示しているのは、脳がエネルギー配分をかえ、生存に必要な働きはどこか?そこを重視して、他のことを後回しにする事実だ。
まとめ
今回は、ミネソタ大学のアンセル・キーズらのチームが行った半飢餓試験を取り上げた。脳によってカロリーの配分をうまい具合に調整し、基礎代謝を変えることで、柔軟に身体を変化させることが理解できたと思う。
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