【P#56】新型コロナの起源(4)〜機能獲得研究とは何か?〜米国でどのような背景で生まれたのか?
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はじめに
2020年1月から始まった新型コロナウィルスの感染症が流行して、明らかになっていないことが一つある。
「そもそも、新型コロナウィルスはどのようにして世界に広まったのか?」
についてだ。
本コラムには、3回に分けて起源について紹介した(「自然発生説」と「研究所流出説」〜動物から人への自然感染か、ラボから漏れたのか?〜どちらが有力なのか?」「構造からみた「自然感染説」と「研究所流出説」」「感染拡大前の武漢で何が起きたのか?〜交通状況、ミリタリーワールドゲームズ」)。
コロナウィルスの起源の2つの説:研究所流出説か?自然感染説か?
新型コロナウィルスの起源は、
1)武漢ウィルス研究所(Wuhan Institute of Virology、WIV)で研究していたウィルスが外部へ漏れた(研究所流出説)
2)コロナウィルスは、中国の武漢の生鮮市場で売買されていた動物を通じてウィルスは全世界へと広がった(自然感染説)
の2つが有力だ。
そして、双方を支持する証拠は今の所見つかっていない。
自然発生説」と「研究所流出説」〜動物から人への自然感染か、ラボから漏れたのか?〜どちらが有力なのか?」に書いたように、米国政府からの研究費が中国の武漢ウィルス研究所に流れた結果、コロナウィルスの詳細な研究が可能だった。
なぜ、そのようなことが可能だったのか?
米国では、研究費の流れがどうなっているのか?
その仕組みを見ていくことで、より明らかになるのではないか?
今回のブログでは米国ウィルス研究者のRichard Ebright教授のインタビュー記事を下に、まとめたい。
全ては同時多発テロから始まった〜NIAIDと生物医学研究
米国で本格的にウィルスの研究を行われるようになったのが、2001年のニューヨークの同時多発テロの時。
議会を狙った炭疽菌によるバイオテロが頻発。
当時のチェイニー副大統領が音頭を取り、議会が通常の20-40倍の予算をつけるようになった。
この中には、軍事的な生物兵器の研究も含まれた。
厄介だったのは、米国防省が「国際生物兵器禁止条約」の制約を受けていたこと。
そこで、制約を受けない国立アレルギー・感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious Disease、NIAID)に生物兵器研究が移管される。
1984年から同研究所の所長を務めるアントニー・ファウチ博士の組織だ。
2004年までにNIAIDの組織編成が終わり、国防組織の一つになった。
2003年には、全米アカデミーズ(National Academies of Science、NAS)が国防に転用できる生物医学的な研究テーマを7つに分類。ワクチンの無効化、治療薬の無効化、病原体の強毒化、感染力強化、宿主への感染、診断検査と生物兵器化の7つのうち、最初の5つ(診断検査、生物兵器化を除く)がやがて「Gain of Function Research(機能獲得研究)」と呼ばれるようになった。
機能獲得研究の一環として、2005年にスペイン風邪(1918年に発生、インフルエンザウィルスが原因)を再現する研究がMount Sinai大学と米国疾病予防管理センター(Center for Disease Control and Prevention)で行われた。
結果はNIAIDのファウチ博士により発表され、スペイン風邪のウィルスは、世界中の研究者に配布されるようになる。
機能獲得研究と危険性〜ウィルス流出と研究の停止
2011年、NIAIDが資金提供することで、オランダのFouchierと、当時ウィスコンシン大学に在籍した河岡教授が、致死率50%以上のH5N1インフルエンザウィルスに空気感染能力を持たせた、最強のウィルスの開発に成功する。
「このようなウィルスが研究所から流出したら一大事だ!!」
この報告によって、初めて「機能獲得研究」がやばい!米国政府内で認識されるようになった。
当時のオバマ大統領や議会ではその危険性を訴え、なぜNIAIDはリスクのある研究を勧めたのか?「効果がリスクを上回るか?」の観点から評価をしたのか否かについて関係者への追及が行われた。
が、ファウチ博士と米国国立衛生研究所(National Institute of Health、NIH)のフランシス・コリンズ博士は
「インフルエンザウィルスの研究はリスクを冒してでもやる価値はある!(A flu virus risk worth taking)」
とWashington Postに発表する。
2014年には、FDAやNIHの施設で保管されていた天然痘ウィルス、CDCやユタ州の国防省から炭疽菌がそれぞれ流出した事件が発生。
米国政府に助言をする組織、バイオセキュリティ諮問委員会(National Science Advisory Board for Biosecurity(NSABB))が調査に乗り出す。
驚くべきことに、ここでNIHは、諮問委員会のメンバー23人のうち11人を解職し、よりNIHの意向に添うメンバーに入れ替えるということを行う。
NIHが「生物医学研究」への安全性や「機能獲得研究」に対するリスクへの関心が薄いと危惧した諮問委員会で解職を受けた11人のメンバーが他のメンバーと形成したのが、ケンブリッジ・ワーキング・グループ(Cambridge Working Group、CWG)だ。
CWGの組織化や、天然痘の流出事故を重くみたオバマ大統領は、2014年に「機能獲得研究」の期限付き停止を命じる。
米国政府内で、ウィルスを中心とした生物医学研究の見直しが行われ、感染力や病原性を高めるようなインフルエンザ、SARS、MERSの研究の場合には停止を求めるようになった。停止期間を使って、時間をかけて「効果がリスクを上回るか?」の観点から見直すことが期待できた。
18のプロジェクトが見直されたが、7つのプロジェクトは「停止」から免れた。NIHの長官のコリンズが米国の公衆衛生上必要だと判断したからだ。
機能獲得研究の再開〜どのような評価の仕組みで予算の承認を行っているのか?
2017年にトランプ大統領は「停止」措置を解除。
Potential Pandemic Pathogen and Care and Oversight(P3CO)という形で評価の仕組みが導入された。
NIAIDのファウチ博士が中心になって作ったのが、この評価の仕組みだった。
「危険な機能獲得研究は何か?」「効果がリスクを上回るのか?」等、本来、どのような基準で決まるのか?全く透明性がないまま進む。
残念なことに、3年半の間で、多くのプロジェクトの中で3つのみが評価の対象で、大半は何も審査されずに通過することになる。
これらの一連の取り組みの中で、ニューヨークに拠点があるNPOの一つEcoHealth Alliance(EHA)の総責任者(President)、Peter Daszakが取りまとめた研究費がWIVに流れることになる。
まとめ
今回は、米国政府からの研究費が中国の武漢ウィルス研究所に流れた結果、コロナウィルスの詳細な研究が可能だったのは、なぜか?
「機能獲得研究」がどのように評価されてきたのか?を含め、理解が少しでも進めれば、現在起きていることが理解できるのではないかと思い、今回まとめさせていただいた。
少しでも参考になれば幸いです。
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