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【B#79】ゲシュタルト療法と「いま・ここ」〜NLPを理解するために

約10年前(2008年後半から2009年前半)までNLP Japanラーニングセンター神経言語プログラミング(Neuro Linguistic Programming、以下NLP)を、Coaches Teaching Institute(CTI)ジャパンでコ・アクティブ・コーチング(以下CTIコーチング)の応用コースをそれぞれ学ぶことができた。

人の話を聞く際に、CTIコーチングでは大枠(右脳的な部分)を、NLPは具体的な手技(左脳的な部分)についてそれぞれ学ぶことができて、現在提供中の「コミュニケーション力をあげる話の聞き方とタロットカード」(以下「タロット講座」)のベースにもなった(「質問の力〜コミュニケーションの中に適切な質問をするには?」参照)。
コーチングについての考え方については、本コラムで何度か触れているので(例えば「「コーチング」のベースとなった本〜「インナーゲーム」」参照)、今回はNLPについて紹介したい。

Wikipediaによると、NLPは、科学的に実証されておらず、心理学の世界では、’Pseudoscience’(偽科学)の一つとして定着されているそうだ。
そうはいうものの、成果が出やすく、方法がわかりやすいのは確かだ。そのことから「タロット講座」ではそのエッセンスを紹介している。
私は、NLPについては、エビデンス(事実)に基づいているか否かよりも、なぜNLPが効果的なのか?その背景となった考えを知ることが大事だと思っている。具体的には、トランスパーソナル心理学やゲシュタルト療法だ(いずれトランスパーソナル心理学は取り上げる予定)。

芝健太さんの「初めてのNLP超入門」によると、NLPは、言語学者のジョン・グリンダーと心理学と数学を勉強していたリチャード・バンドラーを中心として作り上げた一つの体系化されたコミュニケーションの手法である。注意していただきたいのは学問ではなく、あくまでも方法論を体系化したものである点だ。
「メンタルのセラピーを効率的に行うためにどうしたらいいのか?」
セラピーの世界で成果を上げていた3人をモデルに
「誰もが活用されやすいように」
手法を体系化されていった。
そのモデルの3人とは、
ゲシュタルト療法の創始者のフリッツ・パールス(以下パールス)
家族療法のバージニア・サティア
催眠療法に取り組んでいたミルトン・エリクソン
だ。
NLPを理解するためは、パールスのゲシュタルト療法の理解が不可欠だと思っている。
そこで、ゲシュタルト療法のおおよその考え方ついて書物を用いて簡単に紹介したい。
吉福伸逸2
吉福伸逸さんの「トランスパーソナル・セラピー入門」によると、60年代のアメリカでは、ヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントという、心理学の大衆化が進んでおり、精神的に病んでいる人だけではなく、一般人に対しても心理学を使うという機運が高まっていた(「エサレン研究所(2)〜心理学の大衆化と雰囲気」参照)。
実は、階級社会の伝統が色濃く残るヨーロッパ社会や儒教、仏教の影響が強い東洋に比べ、アメリカには「自由」があり「競争」を通じて富を手に入れることができるという発想。すなわち、アメリカン・ドリームという考えが経済大国アメリカの一つの推進力であった。
それが幻想ではないか、という機運が、ベトナム戦争に対する反戦運動を契機に、「カウンター・カルチャー運動」という形で現れるようになる。
その背景については、天外伺朗さんの「ここまで来た「あの世」の科学」が詳しい。

結果的に
「理性」ではなく「精神性」
を重んじる新しい文化を創造する動きが出てくる。
その中心にいたヒッピーたちは、禅、易学、ヨガ、ヒンドゥー教、等の東洋哲学の考えを取り込む動きがあり、アメリカでは、武道、鍼灸やマッサージ等のボディワーク、最新の心理セラピー、瞑想法といったものが一種の流行となる。その流れとして、カルフォルニア州のシリコンバレーに近い、エサレン研究所を始めとした、様々な修行施設がアメリカで作られることになる。
ロルフィングもその中で生まれた一つのボディワーク。パールスは、ロルフィングを受けることで恩恵を受け、ご本人のゲシュタルト療法に影響を与えることになる。それがきっかけとなり、Ida Rolfがパールスによりエサレン研究所に招聘され、エサレンでロルフィングが教えられるようになった。

百武正嗣さんの「気づきのセラピー〜はじめてのゲシュタルト療法」によると、パールスに影響を与えたのが、ウィリヘルム・ライヒ(Wilheim Reich、以下ライヒ)の「筋肉の鎧」という考え方。精神分析家のライヒはクライアントの感情(悲しみ、怒り、恐怖)を感じなくさせるために筋肉を緊張(=筋肉の鎧)させて、閉じ込めるということに気づく。そして、その緊張を取るために、身体の直接働きかけることで、治療成果を上げていった。
身体と精神が一つである=全体で心理学を考えていこうという思想は、19世紀後半に生まれたゲシュタルト心理学の考えに源流がある。
当時、デカルト以来、理性を重視し、物事は客観的に見ることで世界を語るという、科学が全盛期を迎えていた(「西洋哲学における「主観」「客観」の意味とその関係」参照)。物事を分解し、解析することで物質や人間の原理が明らかになるという考え方=還元主義が心理学でも主流だったのだ。
それに対して、
ゲシュタルト心理学では、
人間の世界を
「ゲシュタルト」=「全体性、意味あるもの」
としてみるという姿勢をとる。
下記のイラストを見ていただきたい。

図を見ると、盃の形か人の顔のどちらかに気づく。ただし同時に盃と人の顔を認識することができない。
人の顔を認識する際、
ゲシュタルト心理学では、
人の顔=「図」=「意味のあるもの」=「認識しているもの」
盃=「地」=「背景」=「知覚していないもの」
と「図」「地」という言葉で区別する。
大事なのは、「人の顔」や「盃」に気づくこと。
これが「全体で捉える」=「ゲシュタルト」とも呼ばれている。

「気づく」ということは「選択」して、自分の人生に責任を持つという実存的な考え方であり、「いま・ここ」にどのような考え方をしているのか?ということに気づくことでもある。
過去の問題を分析するのではなく、「いま・ここ」に答えがあるという立場をとったというのがゲシュタルト療法の新しいところだった。

興味深いことに、1960年代、パールスが京都の大徳寺で禅の修行を経験し(そしてエサレンでも禅は取り入れられていたというものあり)、
「気づきとは、禅で言う<悟り>。と同じことである」
と述べている点。
「いま・ここ」に気づくということは、過去や未来の思考を止めるということ。
それは、以下の言葉に現れていると思う(「Phase III(13)〜不安と安心」参照)。
As soon as you see something, you already start to intellectualize it. As soon as you intellectualize something, it is no longer what you saw.
何かを見ると、知性が働き始める。知性で考えると、実際見るものと違うものになる。
NLPはサブモダリティや身体に関わるワークが多いのは、「いま・ここ」に焦点を合わし、思考のプロセスを止めるからであり、他人と過去を変えることができないという思想があるかだと思う。そのためにもゲシュタルト療法の考えの理解は不可欠だ。

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