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【B#249】「AIと仕事する時代にあえて問う、人と人が傾聴し対話する組織とは」のセミナーを拝聴して

はじめに

こんにちは。渋谷でロルフィング・セッションと脳科学をベースにした講座を提供している大塚英文です。

2025年12月10日(水)の午後6時半から都内で安川新一郎さん主催で行われたセミナー(BRAIN WORKOUT EXTENSION)に参加した。第3回のテーマは、対話(ご参考に、第1回の人類学、第2回の人工生命は別のブログにてまとめている)。

今回のゲストは「聞くこと」「対話」「D&I」「組織OS」の文脈で独自の立ち位置を築いたエール株式会社・取締役の篠田真貴子さん。AIが人間の仕事を代替する時代だからこそ、「人と人が向き合うことの本質」に立ち戻る非常に示唆に富んだ内容だった。

「ほぼ日」とCFOの篠田真貴子さん

私は、大学院・研究機関で博士研究員として働いた後、製薬業界(2003年〜2014年、ノボノルディスクバイオジェン等)に11年勤務した。研究機関と民間企業では組織の構造や意思決定の仕組みがまったく異なる。「組織はどのように運営されるのか?」という問いは、当時から持ち続けている。

その頃、私は糸井重里さんの「ほぼ日」の記事をこまめにチェックしていた。非常に魅力的なコンテンツを提供しながら、どのように収益構造が成り立っているのか──当時の私はその点に大きな関心をもっていた。

そんな折、友人から「それなら『ほぼ日』のCFOである篠田真貴子さんをFacebookでフォローするといい」と勧められた。そこで、約12年前(2012年頃)から篠田さんの投稿を拝読するようになったが、特に惹かれたのが洋書の紹介である。

心理的安全性を提唱した Amy Edmondson の Fearless Organization、マッキンゼーの3名が著した Deliberate Calm、Adam Grant、Malcolm Gladwell、Daniel Pink の一連の著作など、選書の幅と深さに驚かされた。

篠田さん自身がNoteにまとめている「篠田真貴子が選ぶすごい洋書」は、大変参考になるので、興味のある方はぜひチェックいただきたい。

また、私自身は帰国子女としてアメリカ(ロサンゼルス)に7年間滞在していた背景(1977〜1984年)があり、Audibleで英語本を聴く習慣がある。篠田さんの紹介は、私にとって新しい英語書籍と出会う大きなきっかけとなった。

こうした流れもあり、今回のセミナーには特別な関心を抱いて参加した。

今回のテーマは「傾聴」と「対話」

セミナーの冒頭、安川さんは「人は哺乳類であり、社会的関与(Social Engagement System)をもつことが対話の基盤である」と述べた。哺乳類だけが、安全な環境のなかで他者と関わる神経システムを進化させた──この視点は、イリノイ州立大学の Stephen Porges によるポリヴェーガル理論の考え方にも通じるものである。

安川さんは、人間の神経システムを「交感神経(戦う・走る)」「背側迷走(凍りつき)」「社会的関与(つながる)」の3つで説明した上で、現代社会では前の2つ(戦う or 凍りつく)に偏り、真ん中の「社会的関与」が弱まっていると指摘する。

その回復こそが「対話」であるという安川さんの説明には、深く納得させられるものがあった。

集団浅慮(Groupthink)という“組織OSのバグ”

集団浅慮とは?

篠田さんが提示した最初の論点は、アーヴィング・L・ジャニス(Irving L. Janis)の「「集団浅慮(Groupthink)」である。

「集団浅慮」とは、

非常に優秀な人が集まって、信じられないほどアホな意思決定をしてしまう

という、組織が陥りがちな心理現象である。

この概念は、Janisが1970年代に提唱したもので、主に第二次世界大戦後から1960年代のアメリカ大統領や軍の幹部による意思決定の分析から生まれたものである。彼らは非常に頭が良かったはずなのに、なぜ非合理的な決定を下したのか、という問いから分析が進められている。

事例としては、真珠湾攻撃の予測失敗(1941年)、朝鮮戦争エスカレーション(1950年)、ピッグス湾侵攻(1961年)、ベトナム戦争拡大(1964–67年)などが挙げられる。

原因として、

集団で意思決定を行う際、メンバーが合意とグループの調和を優先し、批判的思考や異なる意見を抑圧してしまう現象。これにより、不合理または非効率な決定がなされる可能性が高い

と「集団浅慮」で語っている。

篠田さんは、古賀史健さんの「集団浅慮: 「優秀だった男たち」はなぜ道を誤るのか?」にも触れた。この書籍は、日本の事例(フジテレビの第三者委員会の報告書)を中心にJanisの考え方を紹介しているが、鍵となるキーワードとして「同質性の高い壮年男性による凝集性」が挙げられる。

この「凝集性」(仲間意識や忠誠心)自体はチームにとってプラスに働く面もあるが、行き過ぎると「この関係を維持したい」という一体感の保持が最優先されてしまう。その結果、次のような行動が生まれる。

  • 一体感を損ねそうな異なる意見を、無意識のうちに考えなくなる。
  • 仲間だと思っていた人がズレてきたら、「仲間だろう、おい、目を覚ませ」と必死に説得し、それでも意見が違えば集団から除外しようとする。

このリスクは、新卒一括採用や終身雇用を前提としてきた日本の伝統的な大企業(JTC, Japan Traditional Company)だけでなく、タイトなプレッシャーの中で動くスタートアップにも存在すると指摘される。

集団浅慮の対策として、Janis は個人の心構えではなく、「違った意見がちゃんと表明される構造」(D&I、Diversity and Inclusion)を作ることを提案している。例えば、集団を複数の小グループに分けて議論させ、そこで出たアイデアをすべて等しく大きな会議の場に出す、といった方法である。

「違った意見がちゃんと表明される構造」(D&I)を作ること 、例えば、集団を複数の小グループに分けて議論させ、そこで出たアイデアをすべて等しく大きな会議の場に出す、といった方法を提案している。

多様性(Diversity)と多元性(Plurality)

この議論の中で、安川さんから「多様性(Diversity)と多元性(Plurality)は違う」という重要な指摘があった。

  • 多様性(Diversity)
    多様性とは「ある枠組みの中にいろいろなものが入っている状態」と定義される。どこかに中心的な枠組み(例えば、組織の共通言語やルール)があり、その中に多様な要素が収まっているイメージである。
  • 多元性(Plurality)
    これに対し、多元性は「一つ一つの要素がそれぞれに中心を持っている状態」と説明される。個々の要素が互いに固有の中心をもちながら、全体として共存している状態を指す概念である。

この多元性の視点こそが、現代の組織が目指すべき「石垣的」なOSに通じている。つまり、「ブロック塀的な組織OS」では多様性(枠の中に異なる要素を入れる)を扱うのが精一杯であったが、「石垣的な組織OS」では、中心が一つではない多元的な世界観を受け入れ、その個々の中心を活かしながら連携することが求められる、という深い示唆を含んでいると言ってよい。

歴史的な知恵に学ぶ:異なる意見の価値

集団浅慮を防ぎ、創造性を高めるための「異なる意見の重要性」については、歴史上の偉大な組織やリーダーたちがすでに実践している。

ハリー・ナイキストとベル研究所(Bell Labs)の事例

篠田さんは、AT&T傘下のベル研究所において、取得特許数の多い研究者の特徴として「ハリー・ナイキスト(Harry Nyquist)と頻繁にランチを共にしていた」というエピソードを紹介した。興味深いのは、ナイキストが「聴き上手」であり、周囲を安心させるあたたかな人柄と、旺盛な好奇心を備えた人物であったという点である。

アルフレッド・スローンの「異論なし」の逸話

ゼネラル・モーターズ(GM)の伝説的経営者であるアルフレッド・スローン(Alfred Sloan)の逸話も示唆的である。会議で全員がある提案に賛成した際、スローンは次のように述べたとされる。

皆さんこの件については、全員が賛成のようですね。だからこそ私からの提案なのですが、次回の会議までこの議論を延期しましょう。その間に何か反対意見が出てくるかもしれませんし、そもそもこの決定が本質的に何を意味するか、よく理解できるかもしれません。

これは、異なる意見の価値を端的に示すエピソードである。スローンは「全員賛成」という状態を危険信号と捉え、あえて異論を出す構造を設けたのであり、まさに「反対意見を歓迎するOS」を備えた経営者であったと言える。

「ブロック塀」から「石垣」へ。組織OSの転換

篠田さんは、組織の構造とコミュニケーションのあり方が、過去の「ブロック塀的」な世界から根本的に転換しつつあることを強調した。

過去の「ブロック塀的」な組織では、社員を研修で「ビシッとした形」に仕上げて均一化することで、彼らを組織内のどの場所にも自在に配置できるようにする設計思想が支配的であった。この世界では、階層を通じた情報伝達や「伝え方」がコミュニケーションの要として機能した。

しかし、社会がフラット化し、「多様性を力に変えること」が上手な組織こそが良い組織として憧れられるように変化している。

この新しい組織設計思想が、「石垣的」な組織である。

  • 石垣的組織
    個人の特性(「大きい人は大きいまま」「尖っている人はもっと尖って」)を活かし、その配置や向きをうまく組み合わせることで、堅牢な石垣のような行動力と安定性を生み出す設計思想である。
  • コミュニケーションの核は「聞く」
    石垣型の組織では、メンバーが「自分と他者が相対的にどう違うか」を理解し合うことが不可欠となる。そのために、「聞く」というコミュニケーションがメインとなり、非常に重要な役割を担う。

篠田さんは、この組織OSの転換は単なる人権論ではなく、「経営の観点」からも不可欠であると指摘する。石垣的なOSにアップデートしない組織は、社会的な要請に応えられず、優秀な人材を獲得・維持できなくなるという危機感に基づくものである。

傾聴と対話のための「個人の変革」

このような「石垣型」の組織文化を醸成するためには、組織構造だけでなく、メンバー一人ひとりの「在り方」が重要になると言える。

在り方が先で、やり方があと

篠田さんは、傾聴や対話のスキルを学んだとしても、それが形骸化し、効果が薄いと感じられる場合があると指摘する。その原因は、多くの場合「やり方」(ノウハウ)から入ってしまうことにある。

  • 「在り方」が基盤
    大切なのは、小手先の「やり方」を学ぶ前に、「在り方」を変えることである。すなわち、自分が何を信じ、どういう自分でいるかという根幹を問い直すことが必要になる。
  • 「無意識バイアス」の克服
    在り方を変えるとは、自分の中にある無意識の思い込みやバイアスに気づき、それを手放していくプロセスでもある。

自分の多面性に気づくこと

自分が対話の当事者としてどのように存在しているかを知るために、「自分の多面性に気づく」ことが出発点となる。人は皆、状況や相手によって異なる役割や側面(例:親、部下、専門家、友人など)をもっている。

  • バイアスを相対化する
    自分が持っているバイアス(「こうあるべきだ」という思い込み)は、自分の多面性の中のたった一つの面に過ぎないことを自覚する必要がある。この自覚こそが、他者の多面性や多様性を受け入れる土壌となる。
  • 自他の受容
    自分の多面性を受け入れられる人は、他者の多様性にも寛容になれる。この点に関する洞察は非常に深い。

judgement(判断)なしで聴くこと

対話を機能させるための最も基本的なスキルは、「judgement(判断)なしで聴くこと」である。

  • 「聴く」の定義
    篠田さんによれば、対話における「聴く」とは、相手の言葉や意見に対し、「それは正しいか、間違っているか」「役に立つか、立たないか」といった判断(judgement)を挟まずに、まずその存在を受け入れる行為である。
  • 反応(Response)を遅らせる
    人は、聞いている間に「自分は何を言うべきか」を考えがちだが、質の高い傾聴とは、この「反応」を意識的に遅らせ、相手の話の全体像をまずは受け止めることである。この judgement を保留する姿勢が、心理的安全性の基盤を築く。

組織OSを蝕む「無意識バイアス」

「ブロック塀的」な組織の負の遺産が、ジェンダーというわかりやすい観点から語られた。

篠田さんは、無意識バイアス(アンコンシャス・バイアス)は、過去の経験から反射的に反応する、ごく普通の認知能力であり、それ自体はなくすべきものではないと解説する。

問題は、そのバイアスを身につけた時の状況(例:「男性は仕事、女性は家庭」という役割分担意識)が、今求められている行動と大きく異なるときに、それが組織OSのバグとして現れることである。

日本の大企業の管理職を対象としたデータでは、男性・女性を問わず、「男性は仕事、女性は家庭」というバイアスが強い傾向にあることが示されている。

具体的な事例として、1歳の子どもがいる社員への海外出張の打診に関するデータが挙げられた。親が男性社員の場合、7割の管理職が「一旦打診はする」と回答するのに対し、親が女性社員(母親)の場合には、打診する割合が大幅に下がるという無意識バイアスの現れがあると示唆される。

本人は意識していなくても、日頃の仕事の中で「ちょいちょい出てしまう」このバイアスこそが、組織OSのアップデートを妨げる要因の一つとなっていると言える。

経営とは「対話」である

最後に、篠田さんは、組織のOSをアップデートしていくために、「経営とは対話である」という考え方を強調した。経営者が自身の世の中や顧客の捉え方をアップデートし、組織の中身を分厚くしていくことが、対話によって実現されるというのである。

対話と傾聴を組織設計に組み込む事例として、モスフードサービスの経営会議における意思決定プロトコルが紹介された。

  • モスフードサービスの事例
    提案に対する意見を集める際に、参加者が匿名で意見と理由を書き出して提出し、議長がそれを均等に扱うという仕組みが導入されている。このプロセスにより、参加者は忖度することなく意見を表明できる。最終的に多数決で決める場合であっても、その過程で「なぜその案なのか」という背景と意図が深く掘り下げられる。

組織として、多様性を活かす「石垣的」なOSへ移行するためには、個人のスキルだけでなく、お互いに話を「聞く」ことができる文化や雰囲気(カルチャー)を作る必要がある。その環境整備こそが、経営層や管理職の重要な役割である、というメッセージでセミナーは締めくくられたと言える。

まとめ

AI が高度に発達し、多くの業務プロセスが自動化されつつある今、私たち人間に残された固有の役割は何かと問うとき、その中核にあるのは「関係性」と「意味づけ」だ。情報を集め、分析し、最適解らしきものを提示することは、AI がますます得意とする領域になっていく。

一方で、「どの前提を採用するのか」「誰の声を取りこぼしているのか」「その決定は、私たちの生き方や共同体にどのような影響を及ぼすのか」といった問いは、依然として人間の感受性と対話に委ねられている。

集団浅慮を避けるための構造設計、多様性から多元性へと開かれた組織OSの転換、無意識バイアスを自覚し手放していく個人の変容、そして judgement を保留して「聴く」ことを土台とする対話の実践は、そのすべてが「人間であること」に根ざした営みと言えるでしょう。

今回のセミナーを通じて、組織と傾聴との関係の理解が深まったので、「集団浅慮」の考え方について触れた本を手に取って学びを深めていければと思う。

このような貴重なセミナーを企画いただいた安川さん、運営スタッフの皆様、ありがとうございました!そして、篠田さん。素晴らしいプレゼンに感謝しています。

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