【P#77】禁煙、アルコール依存治療、AA、ラット・パーク実験〜幻覚剤の歴史11〜依存症(1)
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はじめに
東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。
幻覚剤の歴史については、LSD、サイロシビン、メスカリン、MDMA、DMTを取り上げた。法律で禁止される前に、どのような歴史を辿ったのか?IT業界のメッカ、シリコンバレーとの関係や、最終的に法規制がどのように入り、現在のルネサンスを迎えたのか?についてまとめた。
ルネサンスを迎えた今、幻覚剤はどのように使われることが予想されるのか?末期がん、依存症、うつの3つの患者を対象に、幻覚剤の臨床試験が進んでいるので、ご紹介できればと考えている。今回は、2回に分けて(今回はサイロシビン、次回はイボがインを使った幻覚剤の治療)依存症の患者について取り上げたい。
今回も、マイケル・ポーランの「幻覚剤は役にたつのか?」を参考にまとめている。
禁煙治療に幻覚剤の治療の可能性
ローランド・グリフィス(Roland Griffith)の研究室で博士研究員として働いたマシュー・ジョンソン(Matthew Johnson)は、幼少期の頃から、行動主義の心理学を勉強。大学時代にラム・ダスの本を読んで、ハーバード・サイロシビン計画のことも知っていた。
博士研究員としてジョンズ・ホプキンズ大学に来た時、初期のサイロシビンの研究に関わり、2009年から喫煙のプロジェクトを立ち上げることになる。15人の有志に対し、認知行動療法を受けてもらい、その後にサイロシビン・セッションを2、3回体験し、禁煙を試みることになった。
非盲検試験で行われたが、結果は目覚ましく、ヘロインの依存症よりも難しいタバコの依存症を断ち切り、幻覚剤の治療後、禁煙を続けられた人は80%、1年後も67%と、今までの治療に比べはるかに高い率で有効性が示された(現在は、サイロシビン療法とニコチンパッチの比較試験が行われている)。
主治医のジョンソンによると、
「依存症というのは、人がしがみついている物語なのです。その物語は、やめようとして失敗するたびにますます強化されていく。「私は喫煙者だが、意志薄弱だからやめられない」そんな時、ジャーニーがそこから距離を取らせ、広い視野から景色を見せる。タバコを吸った時の一時的な快楽を、人生というもっと長く大きな文脈の中で捉え直せるのです」
とのことだ。
アルコール依存症と幻覚剤
幻覚剤を、依存症の治療として使うのは新しいことではなく、アルコール依存症として昔からペヨーテが使われていた。1950年代から60年代にかけて、LSDは、カナダ・サスカチュワン州のアルコール依存症の標準的な治療法になった。当時、二重盲検比較試験が行われず、計画も杜撰、治療環境も整ってない状態だったため信頼性に欠けていた。
2012年に入り、1960〜1970年代に行われた無作為比較試験の最善の6件(500人以上)のデータを解析したところ、LSDの摂取がアルコール依存症に有効だということが明らかになり、効力が6ヶ月持続することもわかった。
1950年代、アルコホーリクス・アノニマス(Alcohol Anonymous、断酒を手助けする団体の一つ、以下AA)の共同設立者のBill Wilson(以下ビルW)は、1934年にマンハッタンのタウンズ病院で、幻覚を起こす崇高なアルカロイドを含むベラドンナの抽出物が処方される。
その結果、断酒することに成功する。その体験があったため、LSDという驚異的な新薬が依存症の患者に役立つかもしれないと思った。ビルWは、UCLAの内科医シドニー・コーエンと、心理学者ベディ・アイズナーと共に、LSDセッションを体験。
LSDを使えば、禁酒に必要な霊的な体験ができると確信したが・・・。残念なことに、AAにLSD療法を持ちかけたが同僚の理事たちに却下されたという歴史もある。
幻覚剤を使ったアルコール依存症の臨床試験は開始しており、これから成果が期待できる分野の一つになっている。
ラット・パーク実験〜依存症には、生い立ち、環境が重要
薬物依存研究ではよく知られている実験だが、様々なドラッグが手に入るラットは、あっという間に依存症を示し、食事よりもドラッグを好み、依存症が高まり、最終的に死を迎えてしまう。
興味深いことに、遊び場があったり、他のラットと交流したり、自然環境が整う「環境豊かな」飼育環境だと、同じラットでもドラッグを示さず、依存性を示さない(ラット・パーク(Rat Park)実験と呼ぶ)。その人の生い立ちや置かれた環境との相関関係が強いということが依存症では重要となる。
いわば、幻覚剤は自分の過去や環境に対する受け止め方を変える可能性があり、ジョンソンによると「幻覚剤体験をした人は、世界が今までより少しだけ遊園地みたいに見えるんです」と表現している。
まとめ
今回は、ルネサンスを迎えた今、幻覚剤はどのように使われることが予想されるのか?末期がん、依存症、うつの3つの患者のうち、今回は、依存症の患者について取り上げさせていただいた。
次回は、依存症の薬として注目されている「イボガイン」について取り上げる。
少しでもこの投稿が役立つことを願っています。