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【P#38】新型コロナのPCR検査はどれだけ正確なのか?保健所の役割、行政検査とは何か?を含め

新型コロナウイルスが昨年12月に報告されてから1年が過ぎた。

患者数が欧米に比べて少ないにもかかわらず、なぜ、病院がなぜ逼迫しているのか「欧米に比べ、日本は患者数が少ないのに国は警戒感を強めているのか?」で取り上げ、ワクチンの開発状況、欧米で開始されたワクチン接種の現状については「ワクチンの開発状況、承認されたPfizer/Modernaのワクチンの特徴と課題について」に書いた。

今年、新型コロナに関して様々な本が出て手に取った。中でも、黒木登志夫先生の「新型コロナの科学:パンデミック、そして共生の未来へ」(2020年12月25日発売)は、感染症、ウィルスの基礎知識の説明だけではなく、各国の対策(ロックダウンがうまくいったのか?を含む)、薬の研究開発の現状、日本でPCR検査がなぜ進まないのか?感染症対策で使われている再生算数を含む、多岐にわたる情報が取り上げられており、わかりやすかった。

黒木先生は、私が東京大学医科学研究所のがん細胞研究部に所属していた1996年4月〜1997年3月まで、1年間お世話になった医師・がん研究者だ。生命研究に関して、さまざまな本を出しており、どれもお勧めだ。

この本の中で、新型コロナウイルス感染の検査法とその問題点について書かれており、この本を参考にまとめていきたい。

コロナウイルス感染が起きた場合には、PCR検査、抗原検査、抗体検査の3つがあるが、
PCR検査と抗原検査は「現在感染しているか?」
抗体検査は「以前に感染したことがあるかどうか?」
で診断する。

一番使われているのが、

PCR検査で

「検査の正確性はどうなの?」

マスコミや新聞で取り上げられることが多い。

参考に、検査の正確さは、感度(Sensitivity)と特異度(Specificity)で測られる。

感度とは、検査の正確さがわかる数字。パーセントで示す。感度90%は、100人検査したとしたら、90人がコロナウイルス感染症として診断された時、10人は感染者なのに、感染していないと判断される(偽陰性=間違って陰性と診断、偽陰性率は10%)ということ。

特異度とは、コロナウイルス感染症に感染していない人を検査したときに、99%が陰性であるならば、特異度は99%になる。1%は偽陽性となる。

偽陰性は、感染している人からどのようにしてサンプルを取り出すか、に左右されることが多く、偽陽性は、検査法それ自体から影響を受ける。

どのような検査を指定も、偽陽性、偽陰性を取り除くことはできないが、そのリスクが最小限抑えられると、臨床検査が承認され、実地で使われるようになる。

さて、今回使われているPCR検査の感度と特異度はどれぐらいなんだろうか?

アメリカの50州、77カ国のPCR検査成績を分析したところ(「Diagnosing SARS-CoV-2 infection: the danger of over-reliance on positive test results」参照)

感度は75%(偽陰性25%)、特異度は99.2%(偽陽性0.08%)。

問題なのは、コロナウイルスの感染の時期によって感度、特異度の値が変わることだ。

患者さんのとられた鼻咽頭ぬぐい液からPCR検査を行なったところ、発症5日前には感度が0%、発症1日前は33%、発症日で62%、発症3日目で80%まで上昇、発症16日目には34%まで低下する(「Variation in False-Negative Rate of Reverse Transcriptase Polymerase Chain Reaction–Based SARS-CoV-2 Tests by Time Since Exposure」参照)。

このように感度にはブレがあり、

単にPCR検査を増やすだけではなく、検査の精度をあげていくためには、何度か検査を行う必要がある」

のだ。

参考に、PCR検査は保険適用で1350点(13,500円)。意外とコストがかかることもわかる。多くの人たちに検査を行なっていただくためにも検査費用を下げた方がいいと、黒木先生はいっているが、私も同感。実際、私自身、過去にPCRを使った実験を行なっていたが、試薬代は、1回当たり1,000円程度だった。ちなみに、PCRの試薬を含めた知的所有権を持っているのは、製薬会社のロッシュ。試薬の大部分は特許だ(「PCRのライセンシング | ロシュ・ダイアグノスティックス」参照)。

このようなコストの問題があるから、日本でのPCR検査が世界に比べ少ないのかな、と思った(人口あたり、韓国0.17、日本0.18、イタリア0.52、スペイン1.47、フランス1.48、ドイツ1.61、イギリス2.39、アメリカ2.46、ニュージーランド4.41(「新型コロナの科学:パンデミック、そして共生の未来へ」参照))。

実は、黒木先生の本を読むと、日本には「行政検査」という制度がPCRの検査を減らしている要因だという。

行政検査とは、建築、食品などの安全性のために、行政が行う検査。方法や手続きが決められており、公的な資金によって実施される。公的資金(税金)が入るため、無闇に検査を増やすわけにはいかない。

ということで、厚労省結核感染症課は、2020年2月17日に「受診の目安」を発表(「新型コロナウイルス感染症に関する行政検査について(依頼)」参照)。

・風邪の症状や37.5度以上の発熱が4日以上続く人

・強いだるさや息苦しさのある人

・高齢者、基礎疾患のある人

PCR検査を受けられない人や発見者が遅れてしまったこと、そして保健所に大きな負担をかけてしまったのも、行政検査の仕組みに問題があったという(5月8日に「37.5度以上の発熱が4日以上続く人」の条件は外された)。

厚労省によって新型コロナウイルスが指定感染症になると、保健所の負担が大きくなる。なぜならば、患者が受信する医療機関の調整や、検体の採取、採取されたPCR検体の搬送(手続きを含む)、感染が確認したら行動履歴の記入、入院先を探し、患者を送り届け、車両の消毒など。その上、報告書を書き、自治体へ報告する。

しかも、地方財政の緊縮を受け、地方衛生研究所と保健所は、この20年間で人員削減、予算縮小を余儀なくされ、保健所の数が1997年から2020年までの22年間で852から472まで減ったという(「保健所の推移」参照)。

このようにコロナウイルス感染症の日本の対策を見ていると、PCR検査だけではなく、どのように医療制度を考えていったらいいのか?コロナをきっかけとして、国民一人一人が考えていかなければならないような印象を受ける。

医療の仕組みを知り、自分の命をどのように守っていくのか?

来年以降の私のセミナーで伝えていきたい内容だが、それには自分なりの考えを整理していくことが大事だと思う。

さまざまな視点で書かれている黒木先生の本はおすすめで、ぜひ、コロナウイルス感染症に関して、マスコミの情報ではなく、現場の声を聞きたい場合には、お勧めしたい一冊だ。

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