【B#59】渋沢栄一〜日本最大の経済人〜モラルを重視し、人と人をつなげた人
「日本最大の経済人は誰か?」
色々な人物が挙げられるかと思うが、私は、迷わず渋沢栄一氏(以下渋沢さん)を挙げたい。
「渋沢さんになぜ興味を持ったのか?」
その理由は、1990年代に出会ったピーター・ドラッカーの一連の書に彼の取り組みが紹介されてすごいと思ったから。
ドラッカーは、渋沢さんについて以下のように書いている。
「明治という時代の特質は、古い日本が持っていた潜在的な能力をうまく引き出したことですが、それは渋沢栄一という人物の生き方に象徴的に表しています。渋沢は、フランス語を学び、ヨーロッパに滞在し、フランスやドイツのシステムを研究しました。そうしたヨーロッパのシステムをすでに存在していた日本のシステムにうまく適合させたのです。実にユニークなことだし、そのようなことを成し遂げた国や人々は他に存在していません」
では、渋沢さんは他の人と何が違ったのか?
「渋沢栄一(上巻・算盤編)」(鹿島茂著)では、その秘訣を「モラル重視で商売している」というポイントに注目して、ヨーロッパの思想に影響しつつ、渋沢さん独自の思想に至ったことを丁寧に書いている。
以下モラルについて引用したい。
「資本主義というのは、自己利益の最大化を狙う人間(ケインズでいうエコノミック・マン)たちが参加するバトル・ロワイヤルのようなものだが、最終的に勝利者になるのは、どういうわけか、強欲一辺倒の参加者ではなく、モラルを自分の商売の本質とみなす渋沢栄一のような参加者と決まっている。理由は簡単で、その方が永続的に儲かるからだ。金儲けは決して悪いことではないが、自己利益の最大化だけを狙っていくと、どこかで歯車が逆転し始め、最後は破産で終わる。世間や社会が許さないということではなく、資本主義の構造がそのようになっているから。「損して得を取れ」とはよくいったものだ」
考えてみれば、日本でもバブル経済の崩壊やITバブルに揺れ、結局成金はほぼ生き残っていないことに気づく。そのように考えると上の言葉って説得力があると思う。
実際、渋沢さんは、論語=モラルを片手に学びつつ、
「その富をなす根源は何かと言えば、仁義道徳。正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができぬ。ということを「論語と算盤」にて取り上げている。
以前、脳神経外科医・篠浦伸禎先生の「人に向かわず天に向かえ〜脳外科最前線の臨床でわかった「人間学」の効用」の本を取り上げたが(「瞑想会・CALM TALK -AIRに参加して〜瞑想について、どこまで脳医科学は解明してきたのか?について学ぶ」参照)、
脳の構造からして、
科学的にみても、
「自分の保身で動く私脳と他人のことを考えて行動する公脳の2つ」
が同居しているというのだ。
現に、生前渋沢さんは、この人間の特性について深く理解していたことを城山三郎氏の同人物の伝記「雄気堂々」で取り上げているので、もし興味があれば手にとっていただきたい。
最後に、同書の著者の城山三郎さんと伊藤肇さんとの対談本「対談 サラリーマンの一生―管理社会を生き通す」を紹介したい。
城山さんによると、
「渋沢栄一氏という、全く名もない、しかもエリート出身でもない人が、なぜ日本最大の経済人になったのか?」
その秘訣を探りたいために、伝記を書いたというが、その過程で気づいたことがあったという。
秘訣のポイントは、吸収魔、建白魔、結合魔、の3つにあったということ。「吸収魔」と言っていいくらい吸収するものは吸収していく。その結果、自分の考え(提案、企画)を、自分に資格があろうとなかろうと、建白するという「建白魔」に。
最後に、結合魔。人と人を結びつけてやまない人だったという。興味深いのは、最後の結合魔。城山さんによると渋沢さんには、以下のような特徴があったという。
「辛抱強く人の言うことを聞いて、その人の魅力を見出し、そう言う人を自家薬籠中のものにしてしまい、何かがあると、その特性に応じた人間を結びつけて仕事をやり遂げる」
ポイントは、吸収し、建白していくプロセスで相手に対して、全身全霊傾けることで、人に対する見る目が養われ、徐々に結合魔という能力が磨かれたということ。
私も、個人事業主として活動してから2年。モラルや、人と人をつなげ、周囲の人間を巻き込みながら仕事をすることの重要性に気づきつつあるので、時々、渋沢さんの本を手にとって、その課題に取り組んでいきたいと思っている。