【B#53】「メットガラ」を鑑賞して〜自分の好きなこととビジネスって両立する?
2017年5月1日(月)「メットガラ〜ドレスを纏った美術館(原題:The First Monday in May)」の鑑賞のため、 Bunkamuraル・シネマへ行ってきた。
知人からの紹介を通じて知った本映画。ニューヨークのメトロポリタン美術館(以下メット)で毎年5月の最初の月曜日に、世界中の有名人を招待して行われるイベントMet Gala(メットガラ)。ファッション界のアカデミー賞とも言われ、有名人が衣装を凝らし、華やかな1日となる。
Met Galaのメインとなるのが、一席が25,000ドル(約285万円)もするパーティ。の600席が満杯になるというが、ここで得られた資金を元に、メットの服飾部門(Costume Institute)の1年間の活動資金に当てられるという。
本映画は、Met Galaの舞台裏を取材したドキュメンタリー。2人の主人公を中心に本映画は進行する。
一人目は、メットの理事であるヴォーグ誌編集長アン・ウィンター。かの有名な「プラダを着た悪魔(Devil Wears Prada)」のモデルとなった人物であるが、自分のやりたいこと、自分の感性で勝負しつつも、Met Galaへの参加者一人一人がどういった人間であり、どのような席順に配置したらいいのか?自分の部下がどのようにしたら仕事がしやすくなるのか?とった配慮する一面やアートにおけるビジネスの側面も重視する姿勢を見せている。
二人目は、Met Galaに合わせて企画展(撮影当時は「鏡からみた中国(China: Through the Looking Glass)」(2016年開催))を指揮する、メットの服飾部門のキュレーターのアンドリュー・ボルトン。企画展の裏で衣装の貸し出しをするイブサンローラン財団、宣伝のために訪れる北京、米仏中の著名デザイナーへのインタビューも含め、アンドリュー・ボルトンの視点からみたファッションが語られているようだった。
美術館には未だ、ファッションについてアートとして認めないといった空気があるというが、それを打ち消すかのように、展示の仕方によってアートにもなりうることを本映画を見ることで知ることができて本当によかった。
本映画には、古今東西の様々な衣装が登場するが、それを見るだけでも気持ちが動かされるが、
「ファッションというのは思考であり、生き方である」
といった言葉も出てくる。
本映画を説明するのに適した本があるので、一冊紹介したい。奈良美智氏と村上隆氏を輩出したギャラリストの小山登美夫氏によるアートとビジネスについて書かれた本「現代アートビジネス」。
アートについて、どのようにアーティストを発掘するのか?作品の値がどのようにつくのか?モダン・アートの見方など興味深い内容になっているが、
同書には
「ギャラリストにとって欠かせない要素は「展示空間」「アーティスト」「プレス活動」」
という言葉が登場する。
その3つの要素に即して、本映画を説明すると、
「展示空間」は、どのように空間を作り、衣装と美術館に常設している作品群と両立させるのか?そして、照明の当て方に該当するが、アンドリュー・ボルトンの目を通じて、メットの重役への説得、照明係を含めたスタッフがどのように締め切り間近まで一つのゴールに向かって進むのか?追体験できた。
「アーティスト」については、小山登美夫氏の言葉で述べると、
アーティストの選定の際には自分の中に美術史のマップを持ち、作品を通じてどこに位置付けられているか?
が重要だという。
西洋のアーティストからみた中国というのが今回の企画のテーマだったが、北京で中国人に説明する際、典型的な中国のスタイルを踏襲するのではなく、西洋のファッションの文脈で企画している。そういった選択基準でアーティストや作品を選んでいるという点は、美術館の展示の際に、企画者側の伝える意図を持つことの重要性に気づかされた。
「プレス活動」については、北京で、今更、明の時代の壺を展示するのはどうか?という中国のプレスに臆することなく、
「ファッションにファンタジーがなければ、永遠に変化がない」
という答えをアン・ウィンターのぶれない姿勢は仕事には感心した。
本当に好きなことって何?どのようにしてその情念をもって仕事をするのか?ビジネスと好きなことって両立するの?様々なことを考えさせられる作品となっており、面白かった。特に、美術館のキュレーションやファッションについて興味を持っている方に是非とも勧めたい作品だ。