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【B#208】科学が証明した瞑想の力──『Altered Traits』と脳科学の歩み

はじめに

こんにちは。渋谷でロルフィング・セッションと脳科学ベースの講座を提供している大塚英文です。

本記事では、Daniel GolemanとRichard Davidsonによる共著『Altered Traits – Science Reveals how Meditation Changes Your Mind and Body』(邦題:「心と体をゆたかにする・マインドエクササイズの証明」)』をもとに、瞑想の研究史、チベット仏教との出会い、Jon Kabat-Zinnとの交流、そして脳波測定の進展までをまとめたい。

私自身、3年以上にわたり毎朝30分の瞑想を続けているが、この本は「瞑想とは何か?」という問いに科学的に向き合い続けてきた二人の歩みと、瞑想実践がもたらす持続的変化を深く理解するうえで、大きなヒントを与えくれるもので、瞑想・マインドフルネスに取り組んでいる方にはぜひともお勧めしたい一冊だ。

共著者の出会いは1970年代──仏教瞑想とサイエンスの邂逅

Daniel GolemanとRichard Davidsonは、1970年代初頭にハーバード大学大学院で出会った。彼らは当時から、心理学と東洋思想の交差点に関心を持ち、特に瞑想が人間の意識や脳に与える影響に強い興味を抱いていた。

Golemanは大学院在籍中、インド、スリランカ、ネパールなどに滞在し、上座部仏教(ヴィパッサナー)、チベット仏教(ゾクチェン)、ヒンドゥー教のラージャ・ヨーガなど、多様な瞑想技法を現地で直接学んでいる。

特に、彼がインド滞在中に体験した瞑想合宿での深い没入経験は、後のジャーナリスト活動や執筆に関わるようになったきっかけとなっている。当時、彼らの周囲には同じように東洋の瞑想と西洋の科学を架橋しようとする仲間たちが存在した。その代表的存在がJon Kabat-Zinnである。

Kabat-Zinnはマサチューセッツ工科大学(MIT)で分子生物学を学びながら、禅やヴィパッサナー瞑想に取り組み、後に「マインドフルネスに基づくストレス低減法(MBSR)」を開発する人物だ。彼とGolemanは瞑想実践を通じて交流し、瞑想と医療・心理学・脳科学の橋渡しを志す仲間として、互いに影響を与え合っていた。

チベット仏教との深い関係──ダライ・ラマとの対話から始まった脳科学の旅

1990年代、GolemanとDavidsonはダライ・ラマ14世と出会い、ここから瞑想研究は大きく前進することとなる。ダライ・ラマは仏教瞑想を西洋の科学の言葉で証明してほしいと語り、チベット仏教の高僧たちがアメリカに招かれ、脳波測定やfMRIを用いた実験が開始された。

注目されたのが、フランス人であり、元分子生物学者でチベット仏教の僧侶となったマチウ・リカール(Matthieu Ricard)である。

彼は1万時間以上の瞑想経験を持ち、その脳波は非常に高レベルなガンマ波の持続的な活動を示した。これは、通常の人間では観測されない脳の状態であり、意識の一体感、共感、安定した幸福感に関連していることが分かっている。

リカールの取り組みにご興味のある方は、以下のTEDの動画をチェックください!

瞑想の効果──変性意識状態ではなく変容した特性へ

この本で最も伝えたいメッセージは、瞑想は一時的な状態変化(altered states)ではなく、長期的な特性変容(altered traits)をもたらすという点である。

著者らは、数千件の瞑想研究のうち、科学的に信頼できる厳選された論文のみを精査し、以下のような効果を報告している。

効果の領域科学的に確認された変化
注意力の持続脳の前頭前野の活動が安定し、集中力が向上
共感・利他性島皮質や側坐核が活性化し、思いやりが増大
情動の安定扁桃体の活動が抑制され、ストレス耐性が向上
免疫機能抗体価の上昇や自然免疫の活性化が観測される
自己認識と内観default mode networkの活動が低下し、自己中心的思考が減少する

これらの変化は、1日10分程度の瞑想でも現れ始めるが、長期的な修行によってより深く安定した変容となっていく。

科学的アプローチ──脳波、fMRI、ホルモン測定を通じて

Davidsonの研究チームは、瞑想による脳と身体の変化を検証するため、複数の技術を用いた。

  • EEG(脳波計測):高周波のガンマ波活動が、特に長期実践者において顕著に観測された。
  • fMRI:情動調整、注意制御、自己認識に関わる脳領域の構造的・機能的変化が確認された。
  • ホルモン・免疫測定:コルチゾールの減少、抗体の増加など、生理学的にも有意な変化が示されている。

とりわけ注目されるのは、瞑想中だけでなく日常的にも変化が持続するという点である。つまり、瞑想は「一時的に落ち着くための方法」ではなく、自己そのものを変える持続的なプロセスと言える。

実践への示唆──誰にでも意味のある行為

本の最後には、瞑想の価値が誰にとっても開かれたものであることが強調している。

瞑想による変化は、年齢や宗教、背景にかかわらず誰にでも起こり得る。数分間の簡単な瞑想でも、習慣化することで脳と心に変化が起きる。瞑想は、科学的に根拠のある「心の筋トレ」であり、精神的健康だけでなく身体の健康にも良い影響を与える。

おわりに──意識の進化としての瞑想

『Altered Traits』は、瞑想を「癒し」や「ストレス対策」の枠を超えて、人間の意識と脳の進化を導く実践として位置づけた本である。

GolemanとDavidsonが半世紀にわたり問い続けたのは、「人は変われるのか?」という本質的なテーマであった。東洋の実践と西洋の科学が出会い、その問いに対する答えが少しずつ明らかになりつつある。

瞑想とは、ただ静かに座る行為ではない。それは注意力、共感力、そして自己の在り方そのものを変える科学的な道であり、今こそ、その真価が問われている。

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