【P#93】向精神薬とは何か?②〜精神刺激薬・興奮薬
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はじめに
東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。
「向精神薬(Psychoactive drug)」とは、脳の中枢神経系に作用し、人間の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称。個人的には、脳科学の理解には、「向精神薬」の知識が不可欠と考えている。
「向精神薬」には、精神刺激薬・興奮薬(stimulant、upper、アッパー)、抑制薬・鎮静薬(depressant、sedatives、downer、ダウナー)、幻覚剤(psychedelics、hallucinogen)の3種類がある。
「精神刺激薬」とは、中枢神経に作用して、ドーパミン、ノルアドレナリンを活性化させる物質。精神活動を活発(アッパーと呼ぶ)にさせる。アンフェタミン類(覚醒剤)、ニコチン(タバコ)、カフェイン(緑茶、コーヒー)、エフェドリン(漢方のマオウ)が知られている。
今回は、精神刺激薬・興奮薬について紹介したい。
アンフェタミン類と第二次世界大戦、規制へ
メチルフェネデートを含めたアンフェタミン類は、「覚醒剤」の一つとして知られている。精神の「現実認識能力」が欠如することによる異常行動や、薬物依存、薬剤に対しての耐性が上がる(投与量が増える)、精神症状(せん妄)が現れる、アルコール依存、他薬剤の依存へつながる等が知られている。
実用化されるのは1929年以降。製薬会社のSmith Kline and French社(SK&F、現GSK)でアレルギー性疾患の薬を開発していたゴードン・アレス(Gordon Alles)博士が、アンフェタミンの合成に成功し、1930年代にSK&Fは、吸入器ベンゼドリン(Benzadine inhaler)として発売した。
吸入型で鼻腔がスッキリする薬だった。「気分を良くする」「高揚感がある」といった効果があったことから、急速に欧米諸国で広まっていく。ナチス・ドイツは、メタンフェタミン(methamphetamine)の「ペルビチン(Pervitin)」、大日本帝国は、ヒロポンを開発し、戦争で使用された。
戦後、軍部が保有していたアンフェタミン類の医薬品が民間に放出。非行少年、売春婦の乱用、精神病、中毒者も報告され、日本では段階的に法規制が入る。1951年に覚醒剤取締法が制定される(詳しくは「アンフェタミンの登場、音楽界での使用、ADHD、スマート・ドラッグ」参照)。
アンフェタミンは、不眠、食欲減退、心拍数上昇の副作用があり、過剰摂取による依存、心血管疾患リスクも懸念されている。本邦では、1951年に「覚醒剤取締法」により法的規制を受けている。米国では、1970年に規制物質法(Substance Controlled Act)Schedule IIにアンフェタミン、メチルフェネデートが指定されている。
ADHDの治療薬〜アンフェタミン類と作用機序
医師の下、ADHDとして診断され、厳格に治療薬として使用される場合、アンフェタミン類は、効果を発揮する。
「脳・ADHD・ドーパミン〜脳内のネットワーク」にまとめたが、ADHD患者は、脳の情報処理ネットワーク(サリエンス・ネットワーク)に支障が起きることや、やる気を引き起こすドーパミンが不足する。アンフェタミン類は、これらを改善することで、治療効果を発揮することが知られている。
アラン・シュワルツの「ADHD大国アメリカ・作られた流行病」によると、ADHDの診断は数週間かけてじっくりと行う必要性が書いてあるが、
1)医師の診断時間が限られていること
2)超競争社会で親が子供に対し、勉強の集中力を増す手段=スマートドラッグとして医師にADHDの薬(刺激薬)を処方してほしい
3)高校、大学に入り、同級生・友人からの勧め、口コミで「刺激薬」を勧められ、使うようになる。
等など。
製薬会社の影響により、本来5%の米国の小児がADHD患者のはずが、15%-20%にまで増加。過剰診断を受けた人たちは、リスクの説明を受けないまま治療薬を使用。過剰投与により、中毒、依存症、他の薬の依存症等、社会問題化が起きている(「ADHDの診断基準、アデロール、リタリン、コンサータ、認知行動療法」参照)
ニコチンと集中力
タバコの含まれるニコチン。タバコを吸わない人に比べて、たばこを吸う人は男性では4.5倍、女性では4.2倍肺がんになりやすいという国内データが出ているが、脳に与える影響について意外と知られていない。
ニコチンは、タバコに含まれるほか、ナス科植物(トマト、ナス、ピーマン、ジャガイモ等)にも少量含まれることが知られている。ニコチンは、昆虫を不妊にする効果があるため、殺虫剤として使用され、植物を防御するのに役立っている。
身体への影響として、心拍数の増加、血圧の上昇、心臓組織の収縮力の増加が知られている。身体を覚醒状態にし、集中力を高める。興味深いことは、集中力を高めるのと同時に、筋肉(骨格筋)を弛緩させることができることだ。ニコチンは、身体の活動の向上には役立たないが、短期的な集中に役立つ。
集中力を高めていくためには「矢印」のモデルで考えるとわかりやすい。集中力に関わる物質(神経伝達物質)は3つ知られている。
原動力・エネルギー・警戒心に関わる「ノルアドレナリン」、注意、集中、焦点を一つ(スポットライト)に関わる「アセチルコリン」と、持続力、モティベーション、意識を外に向けることに関わる「ドーパミン」だ。
ニコチンは、思考を明確にし、モティベーションに関わる「ドーパミン」の部位を上げることが知られているだけではなく、注意を一つに向ける「アドレナリン」も上げ、注意、集中、焦点を一つ(スポットライト)に関わる「アセチルコリン」も上げる。このように集中力に関わる物質、3つ全てを上げることができるのだ。
ニコチンは、アセチルコリンの受容体であるニコチン受容体(α4-β2)に結合することで「アセチルコリン」をあげることが知られているが、同時に食欲を抑制することができる。ニコチンは、報酬経路を介してドーパミンをあげるだけではなく、GABAが減少するため、タバコを止めるのを難しくしている。
ニコチンについては「ニコチンと集中力〜身体と心への影響、がん、依存症、離脱症状」にまとめさせていただいた。
東洋と西洋とカフェイン
コーヒーや緑茶に含まれるカフェインは、ドーパミンとアセチルコリンを増やすことで「集中力」が上がり、睡眠を促す物質「アデノシン」の働きを止めることで「目覚め」ることが知られている。興味深いことに、東洋と西洋では、この性質を違った形で活用していることだ。
東洋では、お茶は、労働・経済的よりもスピリチュアル・宗教的な側面(道教、儒教、禅)で注目された。中国で、茶葉のプランテーションが始まったのは、数千年前。僧侶たちが、目覚めをよくし、集中力を増し、瞑想に入りやすくするためのツールとしてお茶を使用した。
ニコチンでご紹介させていただいた、集中力のモデルの中で、カフェインは、思考を明確にし、モティベーションに関わる「ドーパミン」の部位を上げることが知られているだけではなく、注意を一つに向ける「アドレナリン」も上げることが知られている(「カフェインと集中力、目覚め、睡眠」参照)。
更に、東洋では、お茶を薬(「うがい薬」や「風邪薬」)として活用したこと。植物中には高濃度のビタミン、ミネラルを含んでおり、赤ワインよりポリフェノールが多い、抗酸化物質の多さから重宝されてきた。やがて、茶道を含めた儀式として使用されるようになった。
一方で、欧州にコーヒーやお茶が登場する前は、アルコール飲料を消費(朝・職場・夜)していた。当時の仕事は、集中力を増すという発想がなかったというのが大きかった。産業革命に入り、機械を扱うようになり、アルコールの害が指摘され、それに代わる飲料として、コーヒーやお茶が注目されるようになる。
英国では、コーヒーハウスが登場。学会設立、新聞、雑誌、銀行、保険会社、株式の売買の原型となった。というのも、訪れる人の階級に差がなく、情報交換が行われたのだ。
産業革命によって、過酷な長時間労働に耐えるような集中力と目覚めの力として「お茶」が注目。「砂糖」を組み合わせたミルクティが労働者に恩恵を与えることになった(「東洋と西洋ではカフェインをどう活用したか?」参照)。
まとめ
今回は、精神刺激薬の一つ、アンフェタミン類(覚醒剤)、ニコチン(タバコ)、カフェイン(緑茶、コーヒー)等についてご紹介させていただいた。
少しでもこの投稿が役立つことを願っています。