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【P#28】抗生物質の発見〜感染症の撲滅+家畜への応用+耐性菌の出現

19世紀末から20世紀の始めにかけて米国では民間医療が主流。医師の資格がなく、自分で勝手に名乗れば医師になることができた(「代替療法と対処療法」に詳しく書いた)。

状況が一変するのは、1910年頃。石油で財をなしたジョン・ロックフェラーは、ロックフェラー財団を設立。
石油を材料して作られる薬(低分子化合物、人工的な方法で作られる物質)の可能性を信じて、投資。米国医学会(American Medical Association、AMA)と組んで、医学部の大学院を作る。
第一次大戦を通じて、もっとも大きな問題だったのが感染症で、ドイツだけで10〜20万人の命を奪った。そのため、微生物に効果のある薬が開発されることが社会的に求められていた。
ロックフェラー財団によって支援を受けていたドイツのIGファルベン社がサルファ剤を開発。
感染症に有効な薬が市販されることで、薬の開発の流れも作られていく。
詳細は「西洋医学がどのようにして今の地位を築いたのか?〜医師の地位と画期的な薬の出現」に書いた。
実は、サルファ剤が市販される前後に、微生物が作る抗菌物質=抗生物質が見つかる。

以下、山本太郎さんの「抗生物質と人間:マイクロバイオームの危機」を参考にしながらまとめたい(この本は、抗生物質に関してわかりやすく書かれておりオススメだ)。
1928年、アレクサンダー・フレミングが青カビをシャーレで培養していた時に、青カビの周囲にいたブドウ球菌を溶解(殺菌)することを発見。青カビが作る抗菌物質が存在することを突き止めて、ペニシリンと命名した。
ただし、ペニシリンを使えるような形に精製、製剤化するまで、さらに10年かかることになる。

1940年、ハワード・フローリーとエルンスト・ボリス・チェインが、フレミングの論文を読んで、動物実験で解析。化学組成を明らかにし、市販への道筋をつけた。
第二次世界大戦の期間中は、戦場で受けた傷、肺炎との合併症等、様々な感染症に苦しむ兵士を救うことが大きな課題として各国が取り組んだ。

米国でペニシリンの大量生産の方法が研究され、当初、培養液1 mLあたり、4単位だったのが、1943年には最初の5ヶ月で4億単位、1945年8月には、毎月6500億単位のペニシリンが生産されるようになった。

結果、米国は、ペニシリンによって初めて、感染症で亡くなる兵士の数が銃弾で亡くなる兵士の数を下回った国になった(日本とドイツがペニシリンを臨床応用できるようになるのは、第二次世界大戦後)。
その後、結核菌に有効なストレプトマイシン(1944年)や、テトラサイクリン(1948年)、クロラムフェニコール(1949年)等、次から次へと抗生物質が発見。
選択肢が広がることによって、様々な感染症(ペスト、発疹チフス、梅毒、腸チフス等)が治療できるようになった。
今では、出産時の帝王切開、幼児の感染症、風邪、インフルエンザ等様々な場面で抗生物質が使われている。

興味深いのは、抗生物質は農産物にも使われていること。
1946年、ウィスコンシン大学マジソン校農学部生化学教室の研究者は、ストレプトマイシンと葉酸を雛鳥に与えると、成長が促進。生育がよくなることがわかった。これは、他の抗生物質を使っても同じような結果になる。
「抗生物質に家畜を成長させる効果がある」
ことから
家畜にも抗生物質が使われるようになる。
低用量の抗生物質を餌に混ぜても体格のいい家畜が生育。20%近く肉量を増やす効果が出ることから、抗生物質の価格が下がるに伴って使われるようになる。
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しかしながら、安易な抗生物質の使い方に伴い、3つの問題が出てきた。
1)耐性菌の問題
2)抗生物質が動物(人、家畜を含む)に与える影響
3)人の常在菌(腸内細菌)への影響
の3つだ。
一つ目は、耐性菌の問題。抗生物質の効かない細菌=耐性菌が出現。抗生物質を使っても効果が出なく、感染症によって死亡する可能性があること。
実は、世界で毎年6,000万人(出世数は毎年7,200万人、2016年現在)が死亡。2,000万人が感染症によるが、耐性菌による死亡数が70万人。現状のままで推移すると、2050年には1,000万人が耐性菌によって死亡する可能性が予測されている(ゴールドマンサックスのエコノミストによる予測)。

二つ目は、抗生物質が動物(人、家畜を含む)に与える影響だ。
マーティン・ブレイザーが治療用量以下の異なる4種類の抗生物質を、生後早期のマウスに与えると、対照群(抗生物質なし)に比べ、全て脂肪量が15%増加することがわかった(「失われてゆく、我々の内なる細菌Martin Blaser ‘Missing Microbes: How the Overuse of Antibiotics Is Fueling Our Modern Plagues’に詳しい)。
興味深い仮説をブレイザーは唱えている。
より良い栄養と清潔な水と抗生物質を与えることで、人の身長が伸びているのではないか、という体内衛生環境仮説だ。オランダ人が20世紀初頭まで欧州の中でもっとも身長が低かったのが、戦後、抗生物質の普及によって、現在もっとも高くなっている例をあげ、アジア諸国も同じような傾向にあると「失われてゆく、我々の内なる細菌」では述べている。

現に、日本でも
17歳男性:平均身長が160.6cm(昭和23年、1948年)→170.6cm(平成29年、2017年)
17歳女性:平均身長152.1cm(昭和23年、1948年)→157.8cm(平成29年、2017年)
で身長が高くなっている(「学校保健統計調査-平成29年度(確定値)の結果の概要」参照)。・
三つ目は、抗生物質を使うことで、常在菌、特に腸内細菌のバランスが崩れ、慢性疾患(食物アレルギー、喘息、糖尿病、肥満、花粉症、アトピー性皮膚炎)を引き起こしている可能性が指摘されている。

もちろん、抗生物質を全否定する必要はなく、使われるところに使われるべきだが、現状では、大量に使われているところに問題がある。薬とうまく付き合っていくためにはどうしたらいいのか?他の選択肢はないのか?を含め検討する時期にさしかかっているように思う。
次回、抗生物質とは切っても切れない関係にある腸内細菌について紹介したい。

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