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【P#76】幻覚剤の歴史⑩〜がん患者の実存的変容、うつ症状、不安症

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

幻覚剤の歴史については、LSDサイロシビンメスカリンMDMADMTを取り上げた。法律で禁止される前に、どのような歴史を辿ったのか?IT業界のメッカ、シリコンバレーとの関係や、最終的に法規制がどのように入り、現在のルネサンスを迎えたのか?についてまとめた。

ルネサンスを迎えた今、幻覚剤はどのように使われることが予想されるのか?末期がん、依存症、うつの3つの患者を対象に、幻覚剤の臨床試験が進んでいるので、ご紹介できればと考えている。今回は、末期がん患者について取り上げたい。

今回も、マイケル・ポーランの「幻覚剤は役にたつのか?」を参考にまとめている。

サイロシビンの神秘体験をどう活用するか?

サイロシビンを一回使用するたけで、末期がん患者に襲う「不安症」「抑うつ症状」を楽にできないかどうか、について、ニューヨーク大学とジョンズ・ホプキンズ大学を中心に臨床研究が進んでいる。

なぜ、サイロシビンだったのか?実は、国立薬物乱用研究所のボブ・シュスター(Bob Schuster)は、MDMA、LSDは評判が悪いのでやめた方がいい。知名度がはるかに低いサイロシビンを研究することを提案したのだ。

なぜならば、LSDは、疑惑つきの幻覚剤で、政治的・文化的イメージが与える偏見に惑わされずに済むからだ。この結果、2006年のサイロシビンと神秘体験に関する共同研究につながっていく。

再評価の動き、エサレン研究所、最高裁の判決、臨床試験」に書いたように、ジョンズ・ホプキンズ大学のローランド・グリフィス(Roland Griffith)とビル・リチャーズ(Bill Richards)が中心となり、サイロシビンを使った臨床試験の結果を2006年に報告した。

被験者は、アイマスク・音楽をかけながら、意識を内側に向けつつ、幻覚剤を摂取するという条件で臨床試験が行われたが、神秘体験が精神面で人を変身させ、余命宣告された人をしばしば衰弱させる実存的苦痛の治療に有効であるのではないかと強い関心が持たれるようになる。結果、様々なパイロット試験も行われるようになる。

二重盲検の難しさ、環境、ガイド役、期待

2011年、カルフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の精神科医・チャールズ・グロブが末期がん患者に対し、不安症をサイロシビンで解消できないかどうか、パイロットの試験を実施、報告される。それが、ニューヨーク大学とジョンズホプキンズ大学の研究につながっていく。

サイロシビンの臨床試験の問題点として、二重盲検ができない(幻覚剤の効果が強いので、偽薬と区別できない)のと、試験が行われる環境(「セット」と「セッティング」)、ガイド役、患者の期待によって変わるのだ。このように、西洋医学で効果測定するのが難しいのだ。

現代の米国では、10人に1人がうつ病で苦しんでいるが、SSRIを含めた西洋の治療薬が今や手詰まり状態。新薬の開発も進まず、製薬会社も中枢神経系の薬に投資することを控えるようになってきている。このような時代の流れがあったのか、2015年以降、幻覚剤に目を向ける機運が高まってきた。

死を目の前にした人に幻覚剤を与えるというアイデアを公表したのは、作家のオルダス・ハクスリーだった。マイケル・ポーランによると、オズモンドへの手紙の中で
「死を厳密に生理学的なプロセスとして捉えるのではなく、もっとスピリチュアルなものにするため、LSDを末期のがん患者に与える」
ことを含め提案しているのだ。

しかも、ハクスリー自身、1963年11月22日に死去する寸前に、妻のローラにLSDを注射させ、安らかに死を迎えることができたという。

興味深いことに、幻覚剤の投与を受けた患者は、今起きていることにを身を任せれば(「信じ、身を任せ、心をひらく」あるいは「力を抜いて、流れに身を任せる」)、最初は恐ろしく思えたものが、まもなく変化していくのだ。

実際、臨床試験を受けたがん患者の多くは、死の恐怖がなくなった、少なくとも和らいだと報告している。現実だと思えるもの全てが消えて無くなり、自我も体も失う、それが臨死体験のプロセスの感じに似ているらしい。

サイロシビンによるがん患者の実存的変容

2016年、ジョンズ・ホプキンズ大学ニューヨーク大学によるがん患者に対するサイロシビン研究の劇的な結果を、別々に「ジャーナル・オブ・サイコファーマコロジー」に発表した。

ジョンズ・ホプキンズ大学の臨床試験は、対照薬として、サイロシビンの低用量(1 or 3 mg/70 kg) が使われ、高用量との比較(22 or 30 mg/70 kg)(51例)、ニューヨーク大学の臨床試験は、対照薬として、ナイアシン(ビタミンB3)が使用された(29例)。

60-80%のがん患者について、不安障害、うつ病の一般基準で臨床的に有意な現象を示し、少なくとも6ヶ月継続したことが明らかとなった。特徴的だったのは、孤立感から、愛する人々への強い絆の感覚へと変化したこと。歓喜、至福、愛の気持ちの高まりと共に、恐怖が消えていくことが明らかとなった。

患者数は合計80例と少なかったため、更なる臨床試験が必要とされた。そこで、2017年にがん患者に対するサイロシビン試験をより大規模な第三相試験へと進むため、FDAと相談した際、予想外のことが起きた。データに感心したFDAは、うつ病対策として、サイロシビンが使えないかどうかと提案してきたのだ。

現在、うつ病を含めた検証を進めている。

まとめ

今回は、ルネサンスを迎えた今、幻覚剤はどのように使われることが予想されるのか?末期がん、依存症、うつの3つの患者のうち、最も進んでいる、がん患者についての臨床試験についてご紹介させていただいた。

少しでもこの投稿が役立つことを願っています。

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