1. HOME
  2. ブログ
  3. 視点のOS(辿る)
  4. 創造性・組織
  5. シリコンバレー
  6. なぜ深層学習革命の研究者は全員カナダにいたのか ── 傍流が認識のOSを書き換える30年
BLOG

ブログ

シリコンバレー

なぜ深層学習革命の研究者は全員カナダにいたのか ── 傍流が認識のOSを書き換える30年

【シリーズ】生成AIの歴史 ── 2012年からの14年間とその前史【第1回/全7回】

※本記事では、登場する作家・著者の敬称は省略しています

2012年から2026年までの14年間、生成AIをめぐって何が起きていたのか。だが、その物語を辿り始めると、すぐに気づくことがある ──「14年史」の前に、30年の前史がある。1987年から2012年まで、米国の主流から離れた地点で、傍流の研究者たちが認識のOSを育てていた30年である。本シリーズ第1回は、その前史を辿る。先に公開したDemis Hassabisシリーズ全3回(神経科学者のAGI観)とElon Muskシリーズ全5回(物理工学者の人工知能観)の、歴史的共通基盤となる全7回。

全7回構成

  • 第1回:なぜ深層学習革命の研究者は全員カナダにいたのか ── 傍流が認識のOSを書き換える30年(1987-2012) ★ 本記事
  • 第2回:哲学的足場の形成(2012-2014)── 個人の不安が言語を得る
  • 第3回:組織の誕生(2015-2016)── 不安が制度化される
  • 第4回:技術の革命(2017-2022)── 機械が言葉を獲得する
  • 第5回:AGIレースの形成(2023-2025)── 業界が分裂・再編する
  • 第6回:現在の地形(2026)── 三つの認識のOSが決めている世界
  • 第7回:帝国の影 ── サイエンスとビジネスの二つの認識のOSが見せる業界の風景

はじめに:1987年、Hintonはなぜ CMU を離れたか

2026年春、私はCade Metz『Genius Makers』を読み進めていた。半分を読み終えたあたりで、ある共通項に気づいた。

Geoffrey Hinton(英国出身、1987年に Carnegie Mellon University を離れトロントへ移住)。Yoshua Bengio(フランス出身、12歳でカナダへ移住)。Richard Sutton(米国オハイオ州出身だが、2003年にアルバータ大学へ移り、2015年にカナダ市民権を取得して2017年に米国市民権を放棄した)。Demis Hassabis(英国生まれ、シリコンバレーに行かず2010年にロンドンで DeepMind を創設)。

2010年代のディープラーニング革命を起こした研究者たちは、全員、米国の主流から離れた地点で30年を凌いだ傍流だった。彼らがなぜそこにいたのか ── これは Metz の本では正面から論じられない問いとして残されている。

この問いに、私はある別のシリーズで立てた仮説を重ねたい。

生命観の変遷シリーズ第1回で、私は19世紀から21世紀の生命科学史を辿りながら、ある仮説を立てた ──「主流の認識のOSを書き換えるのは、いつも傍流の研究者だ」。Charles Darwin(医学校中退の素人博物学者)、Gregor Mendel(修道院の傍流、論文は35年間無視された)、利根川進(化学出身で免疫学に侵入)、山中伸弥(手術の下手な整形外科医、辺縁の奈良先端大学院でiPSを発見)、Jennifer Doudna(細菌の免疫機構という辺縁分野出身)、Katalin Karikó(30年無視されたmRNA研究)── 生命科学史の傍流リストから導かれた仮説だった。

本記事は、この仮説の AI 業界版検証編 として書かれる。生命科学と AI、領域はまったく違う。しかし、構造は驚くほど同じである。米国の主流の AI 研究は、1980年代後半に「冬」を迎え、ニューラルネット研究者は「変わり者」として周縁に追いやられた。その周縁で30年を凌いだ人々が、2012年以降、世界の AI を書き換えていく。

ここで言う「認識のOS」とは、私たちが世界をどう切り取り、何を当然と見なし、何が見えにくいかを決める、深層の認識枠組みのことだ。コンピュータのOSのように、すべての判断・思考・行動の土台で動いているが、当人にはほとんど見えない。MBLでは身体・対話・哲学を通じてこのOSを観察し、必要に応じて書き換えていく試みを続けてきた。

Mendel が修道院の庭で、Darwin がガラパゴスの片隅で、利根川がカリフォルニアの片田舎で、傍流の認識のOS を育てたように ── AI 業界の傍流もまた、地理的・制度的・人的に「主流から離れた地点」で30年を凌いだ。その地点はどこだったか。なぜそこだったのか。本記事で辿っていきたい。


1. Genius Makers 四人の傍流の正確化

Metz が描く四人を、より正確に見ておきたい。彼ら四人の経路は、それぞれ違う。しかし、ある共通の構造を持っている。

Geoffrey Hinton は1947年、ロンドンで生まれた。父は Howard Everest Hinton、王立協会フェローの昆虫学者である。Cambridge で実験心理学の学位を1970年に取った後、Hinton は大学を離れ、ロンドンで約1年間、大工(carpenter)として働く。本人の言葉を借りれば「装飾的な大工仕事ではなく、生計を立てるための大工仕事」だった。家系の重圧からの一時的離脱でもあったが、この期間にカナダの心理学者 Donald Hebb の『The Organization of Behavior』を読んだことが、脳の働きへの関心を呼び戻す。1972年に Edinburgh の AI 博士課程へ戻り、1978年に PhD を取得。UCSD ポスドクを経て、1982年から Carnegie Mellon University に在籍する。

しかし1987年、Hinton は CMU を離れてカナダのトロントへ移った。理由は明確だった。米国の AI 研究予算の大半は国防総省経由であり、Hinton は自分の研究が軍事用途に転用されることを拒んだ。Reagan 政権下の1983年から、DARPA は Strategic Computing Initiative に10億ドル超を投じ、自律的反応兵器を含む軍事 AI の開発を推進していた。CMU では、ニューラルネット研究者を増やしたいという Hinton の提案は冷ややかに迎えられた。彼自身、本人の弁では「one eccentric individual(変わり者の一人)」と評された。利用可能だった米国の資金には、彼が望まない「ひも(strings)」が付いていた。

Yoshua Bengio は1964年、パリで生まれ、12歳で家族とともにモントリオールへ移住した。両親は1960年代のカウンターカルチャー的選択として、より包摂的な社会を求めてカナダへ渡った人々である。McGill 大学で学部から博士まで(1991年 PhD)を過ごし、MIT のポスドクを経て、1993年から Université de Montréal の教員になる。Bengio の専門領域は、ニューラル言語モデルと注意機構の先駆的研究である ── Sequence to Sequence モデル、Attention 機構。後の Transformer の系譜は、彼の数十年の研究の積み重ねの上に立っている。

Richard Sutton は、四人のなかで最も「意志的な」傍流選択をした人物である。1957年または58年、米国オハイオ州生まれ。スタンフォードで学士を、マサチューセッツ大学アマースト校で博士(1984)を取った。米国エリート教育を受けた典型的なキャリアの起点だった。しかし彼は2003年に米国を離れ、アルバータ大学へ移る。さらに2015年にカナダ市民権を取得し、2017年に米国市民権を放棄した。Sutton は強化学習(reinforcement learning)の世界的権威であり、エドモントンの Amii(Alberta Machine Intelligence Institute)を率いている。米国に残ることもできた。有利な選択でさえあったろう。しかし彼は意志的にカナダを選び、市民権まで変えた。

Demis Hassabis は1976年、ロンドンで生まれた。Cambridge でコンピューターサイエンスを学び、ゲーム会社 Elixir Studios を経て、UCL で神経科学の PhD(2009)を取った。MIT・Harvard のポスドク、Gatsby Computational Neuroscience Unit を経て、2010年にロンドンで DeepMind を創設する。シリコンバレーには行かなかった。意図的に、ロンドンに残った。米国主流の AI 業界とは別の地点で、AGI を目指す研究機関を立ち上げた。Hassabis の認識のOS の構造、そして神経科学から AI への越境がなぜ AlphaGo を生み、なぜ Transformer を見落とさせたかについては、Demis Hassabisシリーズ全3回で詳しく扱った。本記事では、彼が「シリコンバレーに行かなかった」という選択の構造的意味だけに焦点を絞る。

四人とも、米国の主流から離れた地点に立っていた。


2. Hinton 医療越境の三層構造 ── サイエンスのOSの核心としての越境

サイエンスの認識のOS には、地理的傍流性のほかに、もう一つの特徴がある。自分の専門の外へ越境する Open さである。Genius Makers の登場人物たちは、それぞれ違う方向から越境していた。Hassabis は、神経科学から AI へ越境した(外から AI へ)。後に登場する Chris Olah は、神経科学の方法論を AI モデルの解明に持ち込んだ(外から AI を解明する方へ)。そして Hinton は、AI から医療へ越境した(AI から外へ)。

Hinton の医療への関心の起源は、1994年に最初の妻 Rosalind Zalin を卵巣がんで失った経験にある。本人は後年(2023年、Eric Topol との対話で)、当時、元門下生で放射線科医経験のある人物から病状の助言を受けたと語っている。その18年後の2012年、Hinton 門下の George Dahl が Kaggle の Merck Molecular Activity Challenge に勝ち、深層学習が創薬の活性予測で機能することを実証する。Hinton 本人は論文の共著者ではない。しかし、使われた dropout は彼の技術である。2016年、有名な放射線科医発言。2017年、Vector Institute 設立の記者発表で、Hinton が最初に掲げた応用領域は health care だった。2018年、二人目の妻 Jackie が膵臓がんで死去する。

医療への関心は、技術的可能性と個人的経験のあいだを、24年かけて深化していった。Dahl が「火を点けた」のではない。すでに点いていた火が、技術的に実装可能になった瞬間を見せたのである。

越境は、サイエンスの認識のOS の核心である。Cambridge 卒業直後の大工期間も、その最初期の表れと読める。家系の重圧から離れ、手仕事の具体性のなかで、抽象的研究の意味を問い直す時間。Hassabis・Olah・Hinton ── そして後に見る LeCun の物理から AI、学界から商業組織への越境も含めて、方向は違うが、構造としては同じ越境の系譜に立っている。


3. カナダ AI 生態系の構造 ── なぜカナダだったのか

では、なぜこの四人がカナダで(あるいは英国残留型として)凌げたのか。地理だけが理由ではない。地理を支える制度と人的ネットワークの構造があった。

Metz が『Genius Makers』で繰り返し描くのは、CIFAR(Canadian Institute for Advanced Research)という助成機関の存在である。CIFAR は1982年に設立されたカナダ独自の研究助成機関で、ある形容詞の組み合わせで自らの性格を語っている ──「patient, non-military, and free of short-term expectations(忍耐強く、非軍事的で、短期の成果を求めない)」。これは米国 DARPA と完全に対照的な認識のOS だった。

時系列を重ねると、ある決定的な重なりが見える。1983年から1993年まで、DARPA は Strategic Computing Initiative に10億ドル超を投じ、AI を軍事システムへ統合しようとしていた。1987年、Hinton は CMU を離れて CIFAR Fellow としてトロントへ移った。同じ1987年、LISP マシン市場が崩壊し、AI は「第二の冬」と呼ばれる予算削減期に入る。DARPA は AI 予算を、深く、容赦なく削減した。米国主流の AI 研究者の多くがフィールドから離れていく中、Hinton たちはカナダで研究を続けることができた。CIFAR の資金は大きくない。しかし、毎年途切れなかった。Hinton 自身、後にこう語っている ──「CIFAR がなければ、カナダは AI 研究のリーダーにならなかったし、私もここに来なかった」。

この生態系は、四極構造として育っていった。トロント(Hinton、深層学習)、モントリオール(Bengio、ニューラル言語モデル)、エドモントン(Sutton、強化学習)── 三拠点モデルが2004年の CIFAR「Learning in Machines & Brains」プログラムで形式化される。NYU の Yann LeCun(Hinton のポスドク経験者)を含めれば、四極が緩やかに連結した生態系だった。2017年3月、カナダ政府は世界初の国家 AI 戦略として1億2,500万カナダドルを CIFAR に委任し、トロント(Vector)、モントリオール(Mila)、エドモントン(Amii)の三拠点を制度化する。2022年には Phase 2 で追加2億800万カナダドル(10年間)。世界初の国家 AI 戦略は、米国(DoD/DARPA 経由)や中国(国家プロジェクト)とは構造的に異なる経路で立ち上がっていた。

「主流の認識のOSを書き換えるのは、いつも傍流の研究者だ」という生命科学史の仮説が、地理(米国を選ばない人々の集積)・資金(CIFAR の忍耐強い長期視野)・人的ネットワーク(Summer School による研究者コミュニティの密度)── この三層で実装された具体例。それがカナダ AI 生態系である。


4. LeCun と Olah ── 越境系譜の広がり

そしてもう二人、傍流の系譜に加えるべき人物がいる。

Yann LeCun はフランスの ESIEE で工学を学び、UPMC で博士(1987)を取った。物理から AI への一段目の越境である。1987-1988年にトロント大学で Hinton のポスドクを務める ── カナダ生態系を経由した越境である。AT&T Bell Labs(1988-1996)で LeNet を生み出し、2003年から NYU。2013年12月から Facebook AI Research(FAIR)を率い、2025年11月に Meta を退任、2026年3月に AMI Labs を独立企業として創設する。学界 → 商業組織 → 独立企業への組織越境。LeCun の越境は、組織形態そのものを跨いでいく。詳細は本シリーズ第5回および第7回で扱う。

そしてもう一人、カナダ生態系の影響を、現在の AI 業界の内部にまで運んでいる人物がいる。

Anthropic 共同創設者の一人、Chris Olah はカナダ人である。彼は Google Brain(2014-2016)で研究を始め、OpenAI(2016-2020、Clarity Team を主導)を経て、2021年に Anthropic 創設に参画した。三組織を順に渡り歩きながら、彼は「mechanistic interpretability(機構的解釈可能性)」という新しい研究分野を切り拓いている。

これは、ニューラルネットワークの内部構造を、神経科学・生物学のように解明する方法論である。「スケールすれば知性が湧き出る」と信じる Bitter Lesson の認識のOS とは、根本的に異なる。Olah の言葉を借りれば、「ニューラルネットワークの神経科学を、私たちが作った顕微鏡で行う」。カナダ生態系で育った姿勢が、Hinton や Bengio のような大物だけでなく、商業組織の内部でサイエンス的探究を保ち続ける個人を通じて、業界全体に息づいている。

組織は変わる。しかし、認識のOS は、個人を通じて、組織を超えて、生き残る。これは本シリーズ第5回・第7回で再び戻ってくるテーマである。


5. Bitter Lesson と Hinton の直感

最後に、もう二つだけ、Genius Makers が描く挿話に触れておきたい。

一つは、Sutton が2019年に書いた短いエッセイ「The Bitter Lesson(苦い教訓)」である。70年の AI 研究の歴史を振り返って、Sutton はこう書く ──「人間の知見をシステムに組み込もうとする試みは、長期的にはほぼ常に、計算力を活用する単純な手法に敗北する」。これは、ディープラーニング革命の理論的総括であり、同時に、その先の風景への予言でもあった。本シリーズの第4回・第5回では、この Bitter Lesson の認識のOS が、業界をどう書き換えていくかを追っていく。

もう一つは、Hinton の直感の鋭さである。Metz は描いている ── 2009年頃、Hinton はまだ AI 業界で広く受け入れられていなかった時期に、学生たちに「これからは GPU で計算するべきだ」と助言していた。ゲーマー向けのグラフィックカードを科学計算に転用するという発想は、当時、奇妙に響いた。しかし数年後、それは AlexNet を生み、業界全体の計算インフラを書き換えることになる。30年凌いだ傍流者の直感は、しばしば、主流が見落としているものを正確に見抜く。


6. チューリング賞三人の三角分裂 ── 傍流が主流になった後で

ここで、もう一つの観察を置いておきたい。本記事の閉じに向けて、傍流の系譜の「先」を覗いておく必要がある。

2018年のチューリング賞は、Hinton、Bengio、LeCun の三人が共同受賞した。深層学習革命の3人の父である。同じカナダ生態系で30年を凌いだ仲間たちだった。しかし2026年現在、三人は AI 安全性についての立場で公開的に分裂している。

Hinton は2023年5月に Google を退社し、AI による人類絶滅の確率を「2030年までに10-20%」と警告している。Bengio は2025年に LawZero を創設し、International AI Safety Report を主導する立場で、規制と国際協調の側に立つ。LeCun は一貫して「wildly overblown(誇張されすぎ)」「effectively zero(実質ゼロ)」と楽観論を維持する。2023年6月22日のトロント Munk Debate で、この三角分裂は公開の場で明示された。

同じカナダ生態系で30年凌いだ三人が、業界が主流化した後で、もう一度三つの異なる認識のOS に分かれていく。傍流が主流になった後の、必然的な分岐構造である。

「傍流が主流になった先で何が起きるか」── この問いは、本シリーズ第2回以降で繰り返し戻ってくる。


おわりに:30年凌いだ傍流性が、一夜にして主流の標的になる

2012年12月、Genius Makers のなかで Metz が「小説のような展開」と描写する出来事が起きる。

その3ヶ月前、Hinton の研究グループ ── Alex Krizhevsky、Ilya Sutskever、Hinton 自身の三人組 ── が、ImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge で圧倒的な成績を残した。第2位を10%以上引き離した。後に AlexNet と呼ばれるシステムだった。

そして12月、Hinton は異例の決断をする。自分の研究グループ DNNresearch を、メール越しのオークション形式で売却することにしたのである。入札に参加したのは、Google、Microsoft、Baidu(中国)、DeepMind の四社。最終的に Google が4,400万ドル(内訳非公開)で落札した。30年の傍流性が、一夜にして主流の標的になった瞬間だった。

本シリーズ第2回は、その瞬間以降の物語から始まる。

ここまで本記事で辿ってきたのは、生命観の変遷シリーズ第1回で立てた仮説 ──「主流の認識のOSを書き換えるのは、いつも傍流の研究者だ」── の AI 業界版検証編だった。1987年から2012年までの30年間、Hinton・Bengio・Sutton・Hassabis・LeCun・Olah という傍流の系譜が、米国の主流から離れた地点で認識のOS を育てた。地理(カナダ、英国)、資金(CIFAR)、人的ネットワーク(Summer School と四極構造)── 三層で実装された生態系の中で。

仮説は、AI 業界でも検証された。生命科学史と同じく、主流の認識のOS を書き換えたのは、主流の中の優秀な人ではなかった。主流から離れた地点で、別の認識のOS を育てている人々だった。

そして、この検証編から立ち上がる、もう一つの問いがある。

傍流が主流になった先で、業界という集団は何を見て、何を見落としていくのか。30年凌いだ仲間たちが、なぜ AI 安全性で三つの認識のOS に分裂していくのか。「scale すれば知性が湧き出る」と信じる Bitter Lesson の認識のOS と、「ニューラルネットワークの神経科学」を商業組織の中で保つ Olah のような認識のOS は、これからどう張り合っていくのか。

これらの問いを、本シリーズ第2回以降の14年史を通じて、辿っていきたい。


本シリーズの読み解きの骨組み

過去のMBL記事を縦糸に使う:

これは単なる本の感想ではなく、Cade Metz『Genius Makers』を縦糸に、生命科学史の傍流仮説を補助線として、AI 業界14年史の前史を読み解くための地図として、この物語を使う試みである。


▶ 次回:哲学的足場の形成(2012-2014)── 個人の不安が言語を得る ── 生成AIの歴史シリーズ第2回/全7回


関連記事

シリーズ・テーマ記事つながり
理論的基盤生命観の変遷シリーズ第1回 プロローグ──認識のOS から読む生命科学史「主流の認識のOSを書き換えるのは、いつも傍流の研究者だ」── 本記事の理論的基盤
理論的基盤生命観の変遷シリーズ第8回 プログラマーたち──CRISPR・AI・自己規律の系譜Hassabis を「知能のOS の傍流」として位置づけた先行記事
個人OSDemis Hassabis編「認識のOSの諸刃」全3回神経科学者のAGI観の深掘り、本記事の Hassabis の傍流性の構造的展開
個人OSElon Musk編「認識のOSを物理に翻訳する」全5回(追って公開予定)物理工学者の人工知能観の深掘り
認知科学基盤認識のOSにバグがある──「直感」と「熟慮」という2つの回路KahnemanのSystem 1/2、Siegelの「蓋が開く」、Barrettの「予測の固着」── 本シリーズ全体の認知科学的基盤
書評【B#186】生成AIの覇権をめぐる物語:DeepMindとOpenAI、2つの道Parmy Olson『Supremacy』、Hassabis vs Altman 二項対比の入門

関連サービス


参考文献

  • Cade Metz『Genius Makers: The Mavericks Who Brought AI to Google, Facebook, and the World』Dutton, 2021年刊行
  • Karen Hao『Empire of AI: Dreams and Nightmares in Sam Altman’s OpenAI』Penguin Press, 2025年5月刊行

著者:大塚英文(Ph.D.)|渋谷を拠点に、ロルフィング・コーチング・脳活講座を提供。神経科学・哲学・身体知の交差点から、個人と組織の「認識の変容」を扱っている。

関連記事