【N#190】【体温調節の新常識】暑いとき、首よりも「手のひら・足裏・額」を冷やすべき理由──パフォーマンスと睡眠を高める“放熱窓”とは?
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はじめに
こんにちは。渋谷でロルフィング・セッションと脳科学に基づいた講座を提供している大塚英文です。
夏になると「首を冷やす」ことに頼りがちだが…
炎天下の中、冷感タオルを首に巻いたり、保冷剤を首の後ろに当てたりする光景はよく見かける。
たしかに、首には太い血管(頸動脈や椎骨動脈)が通っており、ここを冷やすことで一時的な“涼しさ”を感じることはできる。

しかし、「体の奥の熱(深部体温)」をしっかりと下げるという意味では、首を冷やすのはそれほど効率的ではないことが、近年の神経科学の研究からわかってきている。
その理由は、私たちの体に備わっている“熱を逃がすための特殊な通り道”=動静脈吻合(AVA)にある。
深部体温と体温調節のしくみとは?
ここで少し、体の中の温度調節について整理してみたい。
まず、体の温度には大きく分けて2種類ある。
ひとつは、皮膚の表面温度。外気や汗などの影響を受けやすく、「暑い」「寒い」と感じるのは主にこの皮膚温度による。
もうひとつが、脳や内臓といった体の中心部の温度=深部体温(core body temperature)である。
この深部体温は、実は人間の集中力、運動能力、睡眠の質、免疫機能などと深く関わっている。

たとえば、以下のような日常的な現象は、すべて深部体温と関係している。
- 激しい運動をすると体の奥が熱くなり、パフォーマンスが落ちる
- 夜になると体温が自然と下がり、眠気が訪れる
- 入浴で体を温めたあと、湯冷めしながらリラックスすることで入眠しやすくなる
このように、深部体温は一日の中でゆるやかに変化しており、体はこの“熱のゆらぎ”をうまく活用しながら、自律的にコンディションを整えている。
その中心となって働くのが、脳の視床下部という部位である。ここは、体全体の“温度センサー”の司令塔のようなもので、皮膚や体内からの情報を受け取りながら、「熱をためるか?」「逃がすか?」の判断を下している。
AVA(動静脈吻合)──体に備わる“放熱ポート”
では、どうすれば深部体温を効率よく下げることができるのか?
ここで重要な役割を果たすのが、動静脈吻合(どうじょうみゃくふんごう)(AVA:arteriovenous anastomosis)である。
このAVAは、毛細血管とは異なり、動脈と静脈が直接つながる“ショートカット血管”のような構造を持つ。血流量も非常に多く、熱の放出と吸収がとても速いという特徴がある。
このAVAが体のどこに集まっているかというと、以下のような部位である。
- 手のひら(手掌)
- 足の裏(足底)
- 顔(特に額などの中央部)
これらは「グラブラススキン(毛のない皮膚)」とも呼ばれ、体の中でも特に熱の出入りに適した“放熱窓”として機能している。
スタンフォード大学の神経科学者アンドリュー・フバーマン(Andrew Huberman)も、自身のポッドキャスト「Huberman Lab」でこの仕組みについて詳しく解説している。
軍やスポーツ科学の分野では、AVA部位の冷却によってパフォーマンスが劇的に改善することが実験でも証明されており、ある事例では最大600%の持久力向上が見られたという。
首を冷やすと逆効果になることも?
首にはAVAがほとんど存在しないため、体の“放熱窓”としてはあまり機能しない。
さらに、氷のように冷たすぎるものを首に当てると、交感神経が過敏に反応し、血管がギュッと縮んでしまうこともある。
これは「冷えすぎに対する防御反応」であり、結果的に体が熱を逃がしにくくなってしまうという逆効果につながる。
したがって、体温を効率よく下げるには、「どこを、どのくらいの温度で冷やすか?」が極めて重要となる。
冷却に適した温度は15〜20℃前後。水道水や冷たい缶飲料、保冷ジェルなどがちょうど良い。
AVAを使って「睡眠の質」も整える
深部体温が下がると、人は眠くなる。これは生理的な現象であり、体の自然なリズム(概日リズム)に組み込まれている。
Huberman Lab では、睡眠に入るための準備として「AVA部位を冷やすこと」が非常に有効であることが紹介されている。
たとえば、次のような方法が推奨される。
- 就寝30分前に、手のひらを冷水に1〜2分ほど当てる
- 足裏を濡れタオルで拭いてから、扇風機に当てる
- 額に軽く冷えたジェルパッドを当てて、リラックスする
このようにAVAを活用することで、体の奥から自然に温度が下がり、入眠スイッチが入りやすくなる。
冷房の温度を下げすぎたり、寝苦しさで眠れない夜には、こうした「部分冷却」の工夫が大きな助けになる。
まとめ:実践方法として
暑さ対策や睡眠改善のために、すぐに取り入れられる冷却方法を以下にまとめる。
- 冷水で手のひらを洗う
- 冷たい缶やペットボトルを握る
- 足裏を洗って扇風機に当てる
- 額に冷却ジェルを当てる
- 運動後に手足を冷水につける
これらはいずれも、体の奥にこもった熱を逃がし、心身の回復を助ける手軽なテクニックである。
まとめ
- 首を冷やすより、手のひら・足裏・額を冷やす方が深部体温を効率的に下げられる
- AVA(動静脈吻合)は、体に備わった自然な“冷却装置”である
- 深部体温が下がることで、運動パフォーマンスも睡眠の質も向上する
- 強すぎる冷却は逆効果になるため、15〜20℃程度の優しい冷却が最適
参考エピソード(Huberman Lab Podcast)
Supercharge Exercise Performance & Recovery with Cooling
この夏は、「首を冷やす」よりも「手のひら・足裏・額を冷やす」ことで、体と心をクールダウンしよう。
日中のパフォーマンスも、夜の睡眠も、AVAの活用でぐっと快適になる。