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第3回|腸で考える経営──直感力と身体感覚の神経科学+暗黙知の再発見

はじめに

こんにちは、渋谷でロルフィング・セッションや脳科学ベースの講座を提供している大塚英文です。

今回は、《経営者のための脳活講座》第3回のテーマとして、「直感」と「身体感覚」の関係に加え、野中郁次郎氏の「暗黙知と形式知(SECIモデル)」の視点からも深掘りしていきます。

脳だけではなく、身体でも考えている?

「直感で決めたらうまくいった」「理屈では割り切れないけど、なんとなく違和感があった」──
このような“感覚による判断”を、私たちは日常的に行っています。

特に、経営の現場では「数字やデータには現れないもの」に気づく力が求められます。
これは“勘”でも“運”でもなく、脳と身体の連携によって生まれる知性です。

腸は第二の脳──臓器も意思決定に関わっている

腸には、1億個以上の神経細胞が存在し、独立して情報処理を行う「腸管神経系(Enteric Nervous System)」があります。
このため腸は「第二の脳」と呼ばれ、感情や意思決定に大きな影響を及ぼしていることがわかっています。

また、心臓もまた“第三の脳”とも言える働きを持ち、移植患者の感情や好みの変化をめぐる研究から、臓器が記憶や感情に関与している可能性が示唆されています。

身体は、単なる“脳の乗り物”ではなく、意思決定の情報源そのものなのです。

身体感覚はどこで判断しているのか?

  • 初対面で「信頼できそう」と感じる
  • 会議の場で「今はまだ話すべきでない」と直感する
  • プレゼンの最中、「このまま進めるのは危ない」と気づく

これらは、すべて身体(内臓、筋肉、皮膚など)から発信される無意識的なシグナルです。
実際、意思決定の多くは「考える前にもう身体が反応している」状態から始まっています。

これらは、すべて暗黙知(Tacit Knowledge)に基づく判断です。

暗黙知とは何か?

暗黙知とは、「言葉で明確に説明できないが、経験や身体感覚として深く理解している知識・判断」のことです。
ポランニー(Michael Polanyi)は、「私たちは語りえぬことを知っている(We know more than we can tell)」という言葉で、暗黙知の本質を表現しました。

たとえば、熟練の職人が「このタイミングだ」と感じて手を動かすとき、
あるいはリーダーが「この場は静観すべきだ」と即座に判断する背景には、
言語では表現しきれない“身体的な知性”が働いています。

つまり、暗黙知とは身体や感覚に根ざした知のかたちであり、
その入り口には「身体で気づく力=身体知(Body Intelligence)」があります。

暗黙知としての身体知──SECIモデルとの接続

ここで、経営学者・野中郁次郎氏が提唱した知識創造理論「SECIモデル」を紹介します。
このモデルは、暗黙知と形式知を相互に変換しながら、新しい知を生み出すプロセスを示しています。

SECIモデルの4つのプロセス:

  • S:Socialization(共同化)…身体的感覚や経験を他者と共有する
  • E:Externalization(表出化)…直感・気づきを言語や図に変換する
  • C:Combination(連結化)…理論・知識を整理し体系化する
  • I:Internalization(内面化)…実践を通して新たな身体知として定着させる

この循環の起点にあるのが、暗黙知=身体で感じ取る知です。
たとえば:

  • 腸のざわつきから「何かおかしい」と感じる(共同化)
  • その感覚を「違和感」として共有する(表出化)
  • 過去の事例やデータと照合して考察する(連結化)
  • 実行を通じて、新たな感覚を身につける(内面化)

このように、身体の知覚→気づき→共有→実践というプロセスは、
経営や組織開発の現場における意思決定の質を深める源泉となるのです。

身体全体が連動して判断している〜「身体知」

脳科学においても、判断や感情は脳だけでなく、腸、心臓、筋肉、皮膚などの“身体全体”と連動していることが明らかになってきました。

意思決定の質を高めるには、言語や論理の訓練だけでなく、「自分の内側で何が起きているか?」に気づく力が必要です。

この“内なる感覚に気づく力”こそが、変化の時代を生き抜くためのリーダーシップの源であり、「脳と身体の統合的アプローチ」でもあります。

なぜ今「身体知」が必要なのか?

現代の経営において、AIやデータ分析による意思決定支援が普及しています。
しかし、最終的な判断を下すのは、常に「人」です。
そしてその判断は、数値や情報の積み上げだけでなく、“自分の感覚”という深層の判断軸に依拠しています。

だからこそ、その“感覚”の質を整えること=身体知を育てることが、リーダーにとって極めて実践的な能力になるのです。

脳活講座とのつながり:脳と身体の統合的リーダーシップ

《経営者のための脳活講座》は、単に脳科学を学ぶだけではありません。
こうした「身体と脳のつながり」や「暗黙知と意思決定」といった観点を取り入れることで、より現実的で実践的な判断軸を育てることを目的としています。

本講座では、以下のような問いに取り組みます:

  • 直感とは何か? それは再現可能な“技術”にできるか?
  • どのようにすれば、自分の身体のサインを判断に活かせるか?
  • 感覚や違和感を言語化し、組織内で共有できる知にするには?

「身体を整えることで、思考と判断の質が変わる」──
この体験こそが、経営のリーダーシップを“芯から変える”ための原点になります。

本講座の詳細は、こちらまで!

次回予告|共鳴する心──空間・関係性・レゾナンス

第4回では、「共鳴(レゾナンス)」をキーワードに、空間や他者との関係が私たちの脳と身体にどんな影響を与えるのかを、神経科学の視点から読み解いていきます。
“感じる力”が高まることで、場の空気も、関係性も変わっていく──そんな視点で探究を続けていきます。

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