【B#218】「代謝力」に注目すること──代謝を良くすることが健康長寿に結びつく
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はじめに
こんにちは。渋谷でロルフィング・セッションや脳科学に基づいた講座を提供している大塚英文です。
今日は、最近話題になっている一冊、Dr. Casey Means(妹、医師)とCalley Means(兄、ロビイスト)による『Good Energy: The Surprising Connection Between Glucose, Metabolism and Limitless Health』を取り上げたい。


この本の背景には、兄妹それぞれのキャリアを通じて得た「医療の仕組みへの深い疑問」がある。
それぞれの分野から見た「医療の矛盾」
- Calley Meansは、かつて製薬業界や食品業界のロビイストとして働き、巨大産業がどのように世論や政策、医療の方向性を動かしているのかを間近に見てきた。薬や加工食品のマーケティングが、根本的な健康改善ではなく「病気の管理」へ人々を誘導している現実に直面したのである。
- Casey Meansは、スタンフォード大学医学部を卒業し外科医として臨床に携わっていた。しかし、多くの患者が「代謝の不調」を抱え、それが糖尿病や心疾患、がん、神経疾患といった慢性病の土台になっているのに、医学教育や現場ではほとんど扱われないことに疑問を抱いた。
この二人の視点が合流したとき、浮かび上がったのは「現代医療が症状や病名に偏り、根本原因である代謝の不全を見ていない」という構造的な問題であった。そして、この問題意識こそが本書執筆の原点になっている。
代謝(Metabolism)とは何か?
「代謝」とは、体内で行われるすべての化学反応を指す。大きく分けて二つの側面がある。
- 同化(どうか、アナボリズム、anabolism):食べ物から得た栄養素を材料にして、体をつくる反応(筋肉やホルモンの合成など)。
- 異化(いか、カタボリズム、catabolism):栄養素を分解してエネルギーを生み出す反応。
この両方のバランスがとれている状態が「健康な代謝」である。そして、細胞内でエネルギー(ATP)を作り出すのがミトコンドリアの役割であり、ここが滞ると体も心も機能不全に陥ってしまう。
つまり、代謝とは「生きる力そのもの」と言っても過言ではない。
なぜ「代謝」と「ミトコンドリア」が重要なのか?
本書が繰り返し強調するのは、健康の基盤は「細胞のエネルギー代謝」の中心にあるミトコンドリアにあるということ。
- ミトコンドリアがうまく働き、ブドウ糖や脂質から効率的にエネルギー(ATP)を生み出せる状態が「Good Energy」。
- 逆に、エネルギー産生が滞り、炎症や酸化ストレスが慢性的に高まる状態が「Bad Energy」。
現代人の多くが、睡眠不足、加工食品、ストレス、環境毒、運動不足といった要因によって「Bad Energy」に傾き、それが生活習慣病からメンタル不調まで幅広い疾患の根源となっている。
健康との関係:代謝を整えることで得られる恩恵
代謝を健全に保ち、ミトコンドリアの働きを取り戻すことで、私たちは多方面で恩恵を受けることができる。
- 慢性疾患の予防と改善
糖尿病、心疾患、肥満、アルツハイマー病など、現代人を苦しめる多くの病気の根本には代謝異常がある。代謝を整えることで、病気の「芽」を早い段階で摘み取ることが可能になる。 - 心の安定と集中力
エネルギー産生が安定すると脳の働きも安定し、気分の落ち込みや不安の軽減、集中力や創造力の向上につながる。 - 体力と回復力の向上
運動のパフォーマンスが上がるだけでなく、疲労からの回復も早まる。結果として「若々しさ」を長く保つことができる。 - 生活全体の質の向上
良質な睡眠、安定した血糖、ストレス耐性の強化は、毎日の仕事や人間関係にも好影響を与える。
要するに、「代謝を整えること=健康寿命を延ばす最も確かな道」である。
代謝をどのように測ったらよいか?
本書『Good Energy』では、代謝の状態を理解し、改善の手がかりを得るために、以下のような具体的な測定方法を紹介している。
1. 連続血糖モニター(CGM: Continuous Glucose Monitor)
- 英語引用: “continuous glucose monitors”
- 日本語訳: 「リアルタイムの血糖トラッキングが可能な連続血糖モニター」
血糖値の変動をリアルタイムで把握することで、食事やストレス、睡眠の影響を即座に確認できる。
2. 遺伝子検査(Genetic Testing)
- 英語引用: “Genetic testing for understanding individual predispositions”
- 日本語訳: 「個人の体質傾向を理解するための遺伝子検査」
病気リスクや体質を把握することで、よりパーソナライズされた健康戦略を立てることが可能になる。
3. マイクロバイオーム検査(Microbiome Testing)
- 英語引用: “Microbiome testing for gut health insights”
- 日本語訳: 「腸内環境に関する洞察のためのマイクロバイオーム検査」
腸内環境のバランスが代謝、免疫、メンタルヘルスに及ぼす影響を分析する。
4. ウェアラブルデバイス(Wearables)
- 英語引用: “Wearable devices for tracking sleep, activity, and stress levels”
- 日本語訳: 「睡眠、活動量、ストレスレベルを測定できるウェアラブル機器」
日常の活動や休養の質を定量化することで、代謝の改善に活かせる。
5. 高度な血液検査パネル(Advanced Blood Panels)
- 英語引用: “Advanced blood testing panels including HbA1c, Apo-B, triglycerides, insulin, CRP, vitamin D, and more”
- 日本語訳: 「ヘモグロビンA1c、アポリポ蛋白B、中性脂肪、インスリン、CRP、ビタミンDなどを含む高度な血液検査パネル」
血糖コントロール、炎症、脂質代謝、肝機能などを包括的に評価することで、代謝状態を精密に把握できる。
これらの方法を組み合わせることで、代謝を“見える化”し、自分に合った改善アプローチを設計できると本書は強調している。
まとめ──「Good Energy」を取り戻すために
CaseyとCalley Meansは、それぞれ製薬業界と医療現場という対極的な立場から同じ結論に至った。
“What we truly need is not just better management of disease, but the restoration of our cells’ ability to produce energy.”
「本当に必要なのは、病気を“管理”することではなく、細胞がエネルギーを生み出す能力を回復させることである」
代謝とミトコンドリアの健康を取り戻すことは、単なる病気予防にとどまらない。日々の集中力、感情の安定、創造性、そして人生全体の「活力」に直結する。
いま私たちに求められているのは、医療や産業に委ねきるのではなく、自ら「Good Energy」を選び取る生き方である。本書はそのための強力なガイドになるだろう。