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第2回|「脳は変えられる」は本当か?──脳の可塑性(Neuroplasticity)から見る“変われる脳”の正体

はじめに

こんにちは、渋谷でロルフィング・セッションや脳科学ベースの講座を提供している大塚英文です。

このブログ連載では、2025年8月に開講予定の《経営者のための脳活講座》に込めた想いや構成の背景を、全7回にわたってご紹介しています。

今回は、第2回のテーマ「脳の可塑性(プラスティシティ)」について、取り上げます。

脳は年齢に関係なく“変われる”──それは科学的事実

「脳は、年齢や職業に関係なく、生涯にわたって変化できる」──
そう聞くと、なんだか“良い話”のように聞こえるかもしれません。

しかしこれは、ポジティブ思考や精神論ではなく、神経科学によって明らかにされている、生物学的な事実です。

その鍵となるのが、「脳の可塑性(neuroplasticity)」という性質です。

Neuroplasticity(神経可塑性)とは何か?

neuroplasticity(神経可塑性)とは、脳の神経細胞(ニューロン)が、経験や環境の変化に応じて構造的・機能的に再編成される能力のことです。

  • 「可塑性(plasticity)」とは、粘土や金属のように、外部からの刺激で形を変えられる性質を意味します。
  • 「神経可塑性」は、私たちの行動・思考・感情・環境の変化が、脳の神経回路のつながり方そのものに影響を与えるということを示しています。

つまり、「いまの脳の状態は“固定されたもの”ではなく、日々変化している流動的なプロセスである」というのが、現代神経科学の共通認識なのです。

脳はどんなときに変わるのか?

神経可塑性がもっとも発揮されるのは、次のような条件がそろったときです:

  • 意識的な注意が向けられているとき
  • 感情が動いているとき
  • 身体感覚と結びついているとき
  • 反復されるとき

つまり、ただ「知る」だけでは脳は変わりません。体験して、感じて、繰り返すことで、初めて神経回路は書き換えられていきます。

このとき、五感や運動感覚、内臓感覚といった“身体の知覚”が重要な“入力情報”として脳に送られます
ここに、「身体知(Body Intelligence)」の深い意義があります。

固定観念はどう形成されるのか?

「自分はこういう人間だから」「これは苦手だから」といった思い込み。

これらは、実のところ“脳の効率化”によって自動化された神経回路の産物です。

  • 同じような出来事で、毎回同じように反応し
  • そのたびに、同じような行動をとっていると
  • 脳の中にその“思考と行動のクセ”が太い回路として固定されていく

こうして生まれた「無意識の標準ルート」が、私たちの意思決定や習慣を縛っていくのです。

しかしその回路は、新しい経験や視点によって上書き可能です。

“身体からのアプローチ”がなぜ有効か?

脳の可塑性というと「認知の問題」に思われがちですが、実際には“身体からのアプローチ”が非常に効果的です。

たとえば、「自信がない」と思っていても──

  • 胸を張って立ち、深く呼吸することで
  • 自律神経が落ち着き、脳が「安全」と判断し
  • 前頭前野(意思決定や創造性に関わる部位)が活性化する

──こうした身体→脳へのフィードバックは、日常的に起きています。

つまり、「思考を変えるには、まず身体の使い方を変える」という方法は、
神経科学の視点から見ても、極めて理にかなっているのです。

身体知(Body Intelligence)の具体例

私がこの講座で重視している「身体知」は、次のような場面に表れます:

  • プレゼン前に呼吸が浅くなっていることに気づき、深く吐くことで緊張を整える
  • 判断に迷ったとき、身体の“ざわつき”や“静けさ”でYES/NOを感じ取る
  • 会議中に肩がこわばっていることに気づき、姿勢を変えることで発言内容まで変化する
  • 「なんとなく居心地が悪い」と感じるとき、実は空間の音・光・距離感に敏感に反応していた

こうした身体の感覚への気づきが、脳の回路に“新しい刺激”を送り込み、可塑性のスイッチを入れてくれます。

成人発達理論と「脳の再構築」

さらにこの「変わる力」は、成人発達理論(Adult Development Theory)とも深くつながっています。

心理学者のロバート・キーガン(Robert Kegan)は、
自分の思考や感情、信念を“主観”から“客観”に移行させる力
こそが、大人の発達であると述べています。

つまり、脳の再配線は、ただの“知識の更新”ではなく、「自分とは何か?」という構造そのものの再構築にもつながっているのです。

次回予告|「腸と直感」──意思決定は内臓でも行われている?

第3回では、「腸で考える経営──直感力と身体感覚の神経科学」をテーマに、
なぜ“身体を整えると判断が冴える”のか?という問いを、
神経系と内臓感覚、特に“腸と心臓”の知性に注目して掘り下げていきます。

どうぞお楽しみに。

なぜ、いま脳活講座なのか?

脳の可塑性を活かして「変われる脳」を育てるためには、単なる“知識の詰め込み”ではなく、体験・内省・行動・対話を通じた実践の場が必要です。

とくに、経営やマネジメントに携わる方にとっては──

  • 多様な価値観や予測不能な変化にさらされる中で
  • 思考の柔軟性と安定性をどう両立するか
  • 他者との関係性の中で、どのように判断し、信頼を築くか

こうした課題に日々直面しているのではないでしょうか?

本講座では、脳科学と身体知、そして成人発達理論の統合知をベースに、「考え方を変える」ではなく、「脳と身体の構えそのものを整える」アプローチを実践していきます。

だからこそ、自己流の試行錯誤では得られない気づきと、共に学ぶ仲間との相互作用によって、“神経レベル”の変化が可能になるのです。

「変化に巻き込まれる側」から「変化を創り出す側」へ──あなた自身の脳を、最高の資本として活かす第一歩を、ここから始めてみませんか?

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