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【B#200】マインドセットが未来を決める──キャロル・ドゥエック『やればできる!』の心理学

はじめに

こんにちは。渋谷・恵比寿でロルフィング・セッションと脳科学をベースにした講座を提供している大塚英文です。

私たちの脳は、外からの刺激を受けてただ反応するだけの器官ではない。むしろ、「どのような意味づけをして受け取るか」「失敗や困難をどう解釈するか」といった「思考の枠組み」によって、脳の働きそのものが変わる(脳の可塑性とも呼ぶ)とされている。

この「思考の枠組み」と深く関係するのが、今回紹介する、スタンフォード大学の心理学者キャロル・S・ドゥエック(Carol S. Dweck)による世界的ベストセラー
マインドセット:成功が続く「やればできる!」の法則(原題:Mindset: The New Psychology of Success)』

で取り上げられているマインドセット(Mindset)という考え方だ。

マインドセットとは何か?

マインドセットという考え方、コーチングや教育、人材育成などあらゆる場面での問いの質、行動の方向性、自己イメージに影響を与える。脳の使い方=行動と認知のパターンの選び方という観点からも、本書は極めて重要な示唆を与えてくれる。

本書が問いかけるのは、「私たちの能力を決めるのは才能か?環境か?それとも、考え方(mindset)なのか?」というもので、内容自体すごく深い。

なぜ、同じ経験をしても、成長する人と停滞する人がいるのか?──この問いに、心理学と教育実践の両面から明確な答えを提示してくれる一冊と言っていい。

コーチングや教育、人材育成、そして“脳の使い方”を探究するすべての人にとって、本書は思考の根本に働きかける実践的なガイドとなる

2つのマインドセット〜固定(fixed)と成長(growth)

ドゥエックが提唱する「マインドセット(mindset)」とは、自分自身の能力や知性、性格に対してどのような信念を持っているかという、思考の枠組みである。

彼女は、人のマインドセットには大きく分けて2つの型があると説く。

表:2つのマインドセットの違い

観点固定マインドセット
Fixed Mindset
成長マインドセット
Growth Mindset
能力のとらえ方才能や知性は生まれつき決まっている能力は努力と経験によって伸びる
失敗への反応否定的に受け止め、避けようとする学びの機会ととらえ、改善に活かす
努力の評価努力は才能のなさの証と感じる努力は成長の手段であり、価値がある
他者との比較常に自分の能力を証明しようとする他者との違いより、自己の成長に関心を持つ
批判への態度防衛的になる、無視する自分を知る手がかりとして受け入れる

この2つの違いは、単なる性格の問題ではない。行動の選択、関係性の築き方、人生の可能性そのものに深く影響する

ビジネス:マインドセットの違い

ビジネスの現場において、どのようなマインドセットで物事に向き合うかは、組織文化と成果の質に決定的な違いをもたらす。

固定マインドセットのリーダーは「自分の能力を守ること」にエネルギーを使いがちである。他人の成功を脅威と感じ、部下のミスを責める傾向がある。結果として、チーム内に恐れが蔓延し、イノベーションや協働が停滞する

事例:エンロン社の破綻

ドゥエックは著書の中で、エンロン(Enron)という大企業の破綻を取り上げている。エンロンの経営者たちは「天才であること」を誇示し、間違いや問題を表に出すことを避けていた。その結果、社員たちは問題を報告できなくなり、企業全体が失敗を恐れる文化に染まり、最終的には崩壊に至った

一方、成長マインドセットの文化をもつ組織では、失敗が“学習の糧”として共有され、チャレンジに対してポジティブな姿勢が育まれる

GoogleやIDEOは「失敗から学ぶ仕組み」を制度化しており、ピアレビューやポストモーテム(振り返り)の文化を大切にしている。

パートナーシップ:マインドセットの違い

夫婦関係やパートナーシップにおいても、マインドセットの違いは如実に現れる。

固定マインドセットの人は、「相手に理解されて当然」「相性が悪ければ終わり」と考える傾向がある。衝突や誤解を関係の“失敗”と見なしてしまう。

事例:対話を避けるカップルと乗り越えるカップル

ある夫婦が喧嘩のたびに「あなたはいつもそう!」という決めつけを繰り返すうちに、相互理解のチャンネルが閉ざされていった。これは固定マインドセットの典型である。

一方、別のカップルは、口論のあとに次のような問いを共有していた。
「今回、私はどんな信じ込みにとらわれていた?」「相手の立場だったら、どう感じていたか?」
このようなリフレクション(内省)を通じて、関係性を“育てるもの”ととらえる成長マインドセットが機能していた

教育・子育て:マインドセットの違い

教育現場において、教師や親がどのようなマインドセットを持って子どもと関わるかは、学ぶ意欲や自己肯定感の形成に直結する

固定マインドセットの教師は、「この子は数学が苦手だ」「リーダーシップがない」とレッテルを貼りがちである。結果、子どもは失敗を避け、挑戦しない“安全な道”を選ぶようになる

事例:努力を認めるか、結果を褒めるか

スタンフォードの実験で、子どもたちに同じパズルを解かせたあと、「頭がいいね(結果)」と褒めたグループと、「頑張ったね(努力)」と褒めたグループを比較したところ、
後者のグループの方が、失敗しても再挑戦しようとする割合が有意に高かった

この実験は、「褒め方ひとつでマインドセットが分かれる」ことを示している。

先生・コーチが育む“問いの力”

固定マインドセットを刺激するのは、「すごいね」「頭いいね」といった結果に対する賞賛である。
一方、成長マインドセットを育てるのは、努力・プロセス・戦略に目を向けたフィードバックである。

以下に、対照的な問いかけをまとめる。

固定マインドセットを強化する声かけ成長マインドセットを育む声かけ
「やっぱり向いてないんだね」「まだできないだけ。続けてみよう」
「才能がある子はすぐできるよね」「工夫したやり方、ぜひ教えて」
「もう少し賢かったらできるのに」「どこでつまずいたか、一緒に見てみようか」
「100点じゃないとダメでしょ」「挑戦した内容のほうが大事だよ」

先生やコーチに求められるのは、正解を与えることではなく、成長する問いを投げかけることである。

マインドセットは“選ぶことができる”

ドゥエックの研究が伝える最大のメッセージは、「マインドセットは生まれつきの性格ではなく、“選択可能な信念”である」という点にある。

今どんなマインドセットであっても、問い方・受け止め方・努力への意味づけを変えることで、自らの枠組みそのものを再構築することができる

成長マインドセットとは、「できないこと」ではなく「まだできないこと(not yet)」に向き合う姿勢である。
固定された能力観から自由になったとき、学び、働き、関係を築くすべての場面で、自分の可能性は開いていく

本書をお勧めしたい人

本書は、コーチングに関わる人、教育者、リーダー、人間関係を深めたいと願うすべての人に強くおすすめしたい。
また、「脳の使い方」や「無意識の思考のクセ」に関心のある人にとっても、自分の認知スタイルを見直す手がかりになる一冊である。

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