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【B#191】愛着とは“自立”の起点である──身体から読み解く癒しとつながり

はじめに

こんにちは。渋谷・恵比寿でロルフィングと脳科学ベースのセッションを提供している大塚英文です。

今回紹介するのは、ダイアン・プール・ヘラー(Diane Poole Heller、以下ヘラー)による著作『The Power of Attachment

彼女はSomatic Experiencing(SE)のInstructorであり、愛着理論を神経生理学・身体感覚の視点から深めてきたセラピストとして知られている。

この本との出会いは、以前ある愛着理論の研修に携わったことをきっかけに手に取ったことに始まる。研修の内容が面白く、本書を手に取ってみると、愛着・トラウマの深い理解が一貫して流れていることに興味を持った。

そこで、今回は、この本を基に、愛着理論および、自律神経系との関係についてまとめたい。

愛着とは何か──「依存から自立」への発達の地図

愛着理論(Attachment Theory)は、精神分析と発達心理学を背景に、ジョン・ボウルビィ(John Bowlby)によって体系化された。彼は第二次世界大戦後、孤児となった子どもたちの行動を観察し、安全な関係性が自律性と探索行動を支えるという発見に至った。

続いて、メアリー・エインズワース(Mary Ainsworth)が「ストレンジ・シチュエーション実験」を通して、子どもが親との再会時にどのように反応するかを観察し、愛着スタイル(安全型・不安型・回避型)の存在を明らかにしている。

最後に、メアリー・メイン(Mary Main)は、愛着のパターンが大人にも持続し、過去の経験が現在の人間関係に影響を与えること、そして「不安定型(Disorganized Attachment)」というカテゴリーを発見した。

このように愛着理論は、依存を経て自立へと向かう発達のプロセスを読み解くための地図ともいえる。愛着は「甘え」ではなく、「安全な基地」を得て、安心して世界と関われるようになるための出発点である。

愛着と神経系──“つながることの怖さ”をほどいていく

ヘラーは、愛着の質は心理だけでなく神経系の深層に記憶された身体的経験であると説く。たとえば、「人との距離が怖い」「見捨てられる不安が強い」といった反応は、思考ではなく自律神経の学習されたパターンとして現れる。

“Our brain and nervous system are not isolated, but interconnected and social. At our core, we are social beings who regulate through connection with others.”
「私たちの脳と神経系は孤立しておらず、相互に結びつき、社会的である。私たちは本質的に、“他者とのつながり”によって調整される社会的存在である。」

この視点は、孤立の中で自分を変えようとする努力に限界があることを示している。つながりの中で神経系が安心を学び直すことが、癒しと成長の鍵なのである。


ポリヴェーガル理論──自律神経と愛着の生理学

本書では、スティーブン・ポージェスのポリヴェーガル理論が重要な理論的支柱となっている。この理論によると、ヒトの自律神経系は以下の3つの経路で働く。

  1. 背側迷走神経(Dorsal Vagal):凍りつき・無力・解離
  2. 交感神経(Sympathetic):戦う・逃げる・緊張
  3. 腹側迷走神経(Ventral Vagal):つながり・共感・安全

愛着が安定していると、腹側迷走神経が優位となり、他の二つが抑制されるため、安心した社会的関係を築きやすくなる。一方で、愛着に問題(例えばトラウマ)を抱える場合、この抑制が効かなくなってしまい、交感神経、背側迷走神経が不安定になり、対人関係に混乱や極端な反応が現れてくる。

愛着スタイルと脳・神経系のパターン

ポリヴェーガル理論から見ると、代表的な4つの愛着スタイルをどのような切り口で見ればいいのか?がよくわかる。そこで、以下まとめたい。

安定型愛着(Secure Attachment)

  • 特徴:自己と他者の双方を尊重し、関係性の中で安心・信頼を感じられる
  • :左右の統合が取れており、感情・思考・行動が協調している
  • 神経系:腹側迷走神経優位(共感・つながり)
  • 促進法:安全な関係性の中で、信頼と修復の体験を繰り返す

不安型愛着(Anxious Attachment)

  • 特徴:関係性への過剰な不安としがみつき
  • :右脳優位(感情過敏)
  • 神経系:交感神経優位(過覚醒)
  • 調整:呼吸法、関係における待機の体験、安全な間を体感する

回避型愛着(Avoidant Attachment)

  • 特徴:距離を取り、自己完結に偏る
  • :左脳優位(感情の切断)
  • 神経系:背側迷走神経優位(凍りつき)
  • 調整:非言語的ワーク、身体感覚への再接続、感情表現の安全な場

不安定型愛着(Disorganized Attachment)

  • 特徴:接近と回避の矛盾的行動、混乱
  • :左右の統合不全(断片化)
  • 神経系:交感・副交感の混合
  • 調整:リズムと一貫性のある体験、安全な接近・離脱の練習

Secure Attachment──「つながり」の力を育てる5つの実践

Secure Attachmentは、生まれながらに備わった可能性であり、あとから育て直すこともできる資質である。ヘラーはその実践として、本書で、以下の5つのポイントを挙げている。

1. Play and Unautomate

遊びや予測不能な行動を通じて、神経系を柔軟にすること。決まりきった反応を“自動化”から外し、自由度を取り戻す。

2. Repair, Repair, Repair

関係性の中で起こる小さな失敗やすれ違いに対し、意識的に修復する習慣を育てること。これが「安全なつながり」の感覚を支える。

3. Build and Expand Your Resources

安心できる人・場所・記憶・身体感覚を日常の中で育てること。リソースを広げることで、ストレス耐性と回復力が高まる。

4. Engage in Joint Attention

誰かと共に“今ここ”を共有する(例:景色を見る、感覚を言葉にする)ことで、社会的共鳴が活性化され、共感の回路が深まる。

5. Practice Presence

身体と心を「いま・ここ」に置く練習を重ねること。これにより、自己調整力が高まり、「見張り役」としての自己感覚が育つ。

おわりに──「つながり直す力」が生む自立

“We are fundamentally designed to heal. Even if our childhood was less than ideal, our secure attachment system is biologically programmed in us, and our job is to find out more about what’s interfering with it and learn what we can do to make those secure tendencies more dominant.”
「私たちは本質的に、癒されるように設計されている。たとえ理想的でない子ども時代を過ごしたとしても、安全な愛着のシステムは生物学的に私たちの中にプログラムされている。私たちの仕事は、それを妨げているものを見つけ、安定した傾向をより優位にする方法を学ぶことである。」

Secure Attachmentとは、「自分を保ちながら他者と深くつながれる力」である。自立とは、孤立ではない。他者と共にいながら「自分に戻れる」こと──そのための土台こそ、愛着の回復なのだ。

人間関係や、恋愛関係を含め、愛着理論と自律神経系にご興味を持っている方には、この本をお勧めしたい。

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