【B#190】思考整理で脳を整える──『The Organized Mind』に学ぶ7つの戦略
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はじめに
こんにちは。渋谷でロルフィング®セッションと脳科学を活用したコーチングを提供している大塚英文です。
脳を整えれば、決断・集中・創造が変わる
今回ご紹介するのは、神経科学者ダニエル・J・レヴィティン(Daniel J. Levitin)による著書『The Organized Mind』(未邦訳』)だ。

この本は、私たちが日々直面する「情報過多」「決断疲れ」「集中力の低下」といった問題に対し、脳科学の観点から整理と構造化の技法を提示している。
とりわけ重要なのは、以下のような洞察に貫かれている点である。
「まず、脳の中の情報を整理せよ」
これは思考整理の本質を突いた、実用的かつ根源的なメッセージと言っていい。
以下、7つの視点から、本書を迫っていきたい。
🧠1. 脳は一度に一つのことにしか集中できない──DMNと集中モードの切り替え
“Your brain isn’t built to multitask.”
“Mind wandering is not necessarily a bad thing.”
― Daniel Levitin
私たちはつい複数の作業を同時にこなそうとするが、脳の構造は本来「シングルタスク」に最適化されている。タスクを切り替えるたびに認知的コストが発生し、生産性はむしろ低下する。
加えて、脳には「集中モード(Central Executive Mode)」と「デフォルトモードネットワーク(DMN)」というふたつの異なる神経活動状態が存在する。DMNは、意図的な作業から解放されたときに活性化し、過去の記憶を整理し、未来の計画を立て、創造的なアイデアを生む。この切り替えの意識化が、戦略思考や長期的視野を必要とする経営者にとって極めて重要である。
対策:
散歩、瞑想、移動時間を活用し、DMNを意識的に働かせるブロックする。
「今やるべきことを一つだけに絞る」ことが、結果として最大の効率を生む。
タスクを常にひとつに絞り、マルチタスクを避ける
通知や割り込みを遮断し、集中時間を確保する
🗂2. 情報は「脳の外」に出すべきである──外部化が思考を助ける
“Externalize your memory.”
“Organizing your mind begins by organizing what’s outside your mind.”
私たちの脳は、記憶を保持し続けるのに適していない。むしろ、判断・創造・問題解決といった高度な処理に集中するためには、記憶すべき情報は外部に「預ける」必要がある。メモ、カレンダー、ToDoリスト、ホワイトボードといった外部化のツールを活用すれば、脳の負荷は劇的に軽減され、クリアな思考が可能となる。
対策:
情報の“置き場所”を固定し、「思考の土台」として活用する
頭の中にあることはすぐに書き出す習慣をつける
メモアプリや手帳など、信頼できる外部記憶装置を構築する
🧹3. 環境の乱れは思考の乱れにつながる
“Clutter is a productivity killer.”
脳は常に周囲の情報をスキャンしているため、視覚的ノイズが多いと、無意識にストレスが蓄積する。
デスクやPC画面、メールボックスの乱雑さは、脳にとって不要な負荷である。
対策:
日常的に物理的・デジタル環境を整理し、「視界に入るもの=重要なもの」に限定する。環境を整えることが、脳の最適化に直結する。
⏳4. 決断疲れを予防するには、仕組みが必要である
“Decision fatigue is real.”
“Create routines to conserve brainpower.”
選択の数が増えるほど、脳の判断力は確実に低下する。
だからこそ、日々のルーティンや手順を構造化し、「考えなくても済む仕組み」を導入することが不可欠である。
対策:
服装・食事・朝の行動などを定型化し、重要な意思決定はできるだけ午前中に行うようにする。
脳のエネルギーは限られている。それを温存し、最も大切なことに使うべきである。
🧩5. 分類することが、思考を整える
“Categorization helps you stay sane.”
人間の脳は、バラバラな情報よりも、体系化された構造を好む傾向がある。
情報のグループ化・分類ができていないと、処理速度が落ち、判断が鈍くなる。
対策:
プロジェクトごとに資料・メモ・タスクをフォルダ分けする。
書き出したアイデアや思考も、カテゴリやテーマで整理することで、脳はよりスムーズに動くようになる。
📵6. 注意力は「有限の資源」として扱うべきである
“Attention is a limited resource.”
通知や雑音は、脳にとって利息の高い「認知的借金」のようなもの。
本来集中すべき対象への投資を阻害し、思考の精度を損なう。
対策:
スマートフォンやPCの通知を一括で無効化し、集中したい時間帯には「遮断のルール」を設ける。
注意力は通貨であり、意識的に管理・投資するべきものである。
💤7. 睡眠は、情報の整理と統合の時間である
“Sleep is essential for memory and organization.”
睡眠中、脳は情報を整理し、記憶を定着させ、不要な情報を削除している。
つまり、睡眠とは「翌日の思考力を準備するための整理時間」でもある。
対策:
睡眠の質を重視し、寝る前の情報入力(スマホやニュースなど)を減らす。
十分な休息を取ることは、最高の「思考整理法」である。
✅まとめ:脳を整える7つの戦略
7つの視点を以下のようにまとめると、
戦略 | 要点 |
---|---|
1. 脳は一度に一つのことにしか集中できない | DMNと集中モードの切り替えを意識し、シングルタスクに徹する |
2. 情報は外部化する | メモ・ToDoなどを活用して、脳の記憶負荷を減らす |
3. 環境を整える | 物理・デジタルの空間を整理し、思考を明晰にする |
4. 決断は仕組み化する | ルーティンで脳のエネルギーを節約し、本質に集中する |
5. 情報は分類する | カテゴリごとにまとめて、判断力と行動力を高める |
6. 注意力は守るべき資源である | 通知管理と遮断時間で集中を取り戻す |
7. 睡眠で脳をリセットする | 記憶と情報の整理を助け、翌日の思考を整える |
まとめ
『The Organized Mind』は、単なる生産性向上のハウツーではない。それは、「脳の構造と働きに即した生き方・働き方」への提案と見ていい。
日々の思考の質を高め、複雑な環境下でも本質的な判断を下したいと願う方に、ぜひ手に取っていただきたい一冊である。