【P#70】幻覚剤の歴史⑤〜DMT、臨死体験、宇宙人、アヤワスカ、ペルーの国家文化遺産
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はじめに
東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。
幻覚剤とは何か?以前、LSD、サイロシビン、メスカリン、MDMAの歴史を紹介してきた。その後、なぜ禁止されたにもかからず、現在ルネサンスを迎えたのか?ブログにて紹介している。今回は、唯一人間でも作られるDMT(N, N-dimethyltriptamine)について取り上げたい。
DMTとは何か?
DMTは、他の幻覚剤と違い、人体に存在するユニークな物質だ。構造的にはセロトニンに非常に似た構造を持つ。自然界にある幻覚物質であり、植物、ヒキガエル、哺乳類、ヒトの脳細胞、血球、尿中に存在する。生体内では、アミノ酸のトリプトファンから3段階、2つの酵素に合成できる。
リック・ストラスマン(Rick Stassman)は「DMT・精神の分子〜臨死と神秘体験の生物学についての革命的な研究(DMT Spirit Molecule)」に、長年にわたって行っているDMTの研究についてまとめている。
この本をベースに、ドキュメンタリー(DMT:The Spirit Molecule)もYoutubeで公開されているので、ご興味のある方はチェックいただきたい。
ストラスマンは、幻覚剤のルネサンスのきっかけを与えた医師として知られている。ポッドキャストの世界一視聴者数の多い「Joe Rogan Experience」に出演。どのように幻覚剤の研究に関わるようになったのか、詳しく話している。
規制物質法の制定(1970年以降)
ストラスマンは、若い頃に、大麻を経験したことで、脳の働きや幻覚体験に興味を持つようになる。大学で化学を専攻後に、幻覚剤を研究したいと思い、精神科医になることを決断した。
残念なことに、ストラスマンが大学に入学した頃の1970年。米国の連邦政府が「Controlled Substance Act(CSA、包括的医薬品濫用防止及び管理法、規制物質法)」を可決。特定の薬物の製造、輸入、所有、流通を米国政府によって規制されるようになった。薬物の分類をスケジュールI〜IVに分類した。
最も厳しいスケジュールIは、高い濫用の危険性、治療のための医学的用途がない、医療管理下で使用しても安全性のデータが不足していると定義される。薬物として、大麻、マリファナ、LSD、ヘロイン、MDMA、サイロシビン、メスカリン等が含むようになったことから、完全に幻覚剤が使われなくなってしまったのだ。
1970年以降、大学で幻覚剤の研究を行うことが一部の例外を除いて不可能に。ストラスマン曰く、心理学(フロイト学派)、薬理学、禅仏教(鈴木大拙さんや鈴木俊隆さんの著作に影響を受ける)を組み合わせれば、幻覚剤の研究は可能だ!という信念の下、1990年までに幻覚剤の研究の準備のためのトレーニングをしたという。
その間、幻覚体験は、脳の松果体の部位によって起こるのではないかと仮説をたて、研究を進める。松果体から出るメラトニンを、ニューメキシコ大学で研究開始。体温調節や鎮痛剤としての働きは解明できたが、幻覚作用はほとんどないことが明らかとなった。肺、心臓や脳の松果体でも作られるDMTへ研究を移すことになる。
FDAがDMTの研究を承認(1990年〜95年)
そのタイミング(1980年代の後半)に、FDAの新任検査官のカーティス・ライトが、幻覚剤の研究計画について、有用性から考えて、他の薬品と同様に検討する方針を打ち出す。そこに、ストラスマンは目をつけ、FDAと薬物を規制するDEAと2年間交渉をし、DMTの生理的効果に関する研究(1990年〜1995年)が承認された。
DMTは、経口で摂取すると、モノアミン酸化酵素(MAO)により体内で急速に分解されてしまう。そのため、吸引か、注射(筋肉注射、静脈内注射)によって投与される。ストラスマンは、吸引で試そうとしたが、十分に肺に送り届けることができず、最終的に静脈内注射で実験を行うことを決める。
今回の臨床試験の特徴は、うつ病、統合失調症を含めた精神疾患に使われなかったことだ。あくまでも、健常人に対し、DMTが身体内にどのような影響を与えるのか?について調べたこと。そして、医師の管理下で、セットとセッティングに注意をしながら試験が行われたことだった。
60人の健康なボランティアの人に対し、約400回の静脈内注射によるDMT投与を行っている。「臨死体験」「宇宙人による誘拐」「啓示体験」等に関わっていることがわかった。現在、ストラスマンは「DMTは、現実をより現実に感じさせてくれる物質」であり、神経伝達物質として働くという仮説を持っている。
21世紀に入り、様々なエビデンスが蓄積され、うつ病に対して、DMTを医薬品とする臨床試験が2020年に開始。今後、医薬品として使用されるかどうか、注目していきたいところだ。
興味深いのは、DMTは古代から植物を通じて摂取していることだ。
アヤワスカとDMT〜ペルーの国家文化遺産
アマゾンの北西部で伝統的に使われる幻覚剤の一つが「アヤワスカ(Ayahuasca)」が知られている。驚く激ことに、紀元前2000年〜1500年前から使用されていたとのこと。ペルーでは、国家文化遺産に指定されている。
古代の人たちは、幻覚を引き起こすDMT(N, N-dimethyltriptamine)とDMTを分解するMAOを阻害する「ハルマラ」(MAOI、MAO阻害剤)を使うとDMTの作用を引き出すことが可能だということを経験的に知っていたことだ。
DMTとして使われるのが、カーピ、ヤヘと呼ばれる植物。現地人によると「植物が活用法を教えてくれた」と言ったらしいが、南米のアマゾン川域にあるキントラノオ科(Malgpiaceae)のバニステリオプシス・カーピ(Banisteriopsis caapi)が知られている。
「ハルマラ」として使われるのが、サイコトリア・ヴィリディス(Psychotria viridian)やディプロプテリス・カブレラナ(Diplopterys cabrerana)だ。
調製の仕方は、カーピの樹皮を削り取り、「ハルマラ」として使う植物の葉を混ぜて、10数時間から1日煮詰めて得られる褐色の液体がアヤワスカだ。DMTや、5-MeO-DMTが含まれる。服用すると、激しい嘔吐と幻覚作用が出る。危険なため、シャーマンの管理下で行われる。
アヤワスカについては、ドキュメンタリー映画「真実のアヤワスカ(2019年)」にまとまっている。ご興味のある方はチェックいただけると、プロセスを含め理解できると思う。
「真実のアヤワスカ」には、クランデロ(Curandero)が紹介されている。別名シャーマンであり、アヤワスカの儀式を行う。クランデロになるには、6〜8年にわたる修行が必要で、そこで、技術、知識等を身につける。
西洋社会にアヤワスカが報告されたのは、コロンブスによる2度目の航海の時。南米の先住民族によって使用されていることが文書で報告される。その後、人類学者たちよって理解が深まった。個人的には、テレンス・マッケナ(Terence Mckenna)とデニス・マッケナ(Dennis Mckenna)の報告が面白く、注目している。
科学的には、カナダ人の化学者のリチャード・マンスケ(Richard Manske)によってDMTが合成された。1946年に、植物の根からDMTが単離された。1957年、ハンガリーの精神科医、ステファン・ソラが自らに筋肉注射を行うことで幻覚作用が現れることを発見。1965年には、ヒトで作られることがわかった。
まとめ
今回は、唯一人間でも作られるDMTについて、古来から使われていた幻覚剤の一つであったこと、どのように研究が進み、うつ病に対する臨床試験として検証が進み始めたのか?を含め紹介している。
少しでもこの投稿が役立つことを願っています。