【Y#74】からだの学校(5)〜腎・膀胱について〜エネルギーを蓄える、ストレスに対応、血液の調整等
2019年7月7日(日)、「からだの学校【東洋医学】@Kei.K Aroma Studio(神奈川)」(開催は、Kei.K Aroma Studio)の講座(講座は全6日間)の4回目を受講した。講師は札幌在住の風の音の治療院・安部雅道先生(鍼灸師、以下安部さん)。
毎回、東洋医学の本質はどこにあるのか?どのようなイメージ・言葉で捉えたらいいのか?生活の中での疑問一つ一つ真摯に回答していただくこともしばしば、そして脱線があるのだが、どういうわけだが、時間内に終わるという、毎回刺激的な時間になっている。
特に、東洋医学の五行論を理解することは、ロルファーの佐藤博紀さんが提唱しているIMAC(Center of Integrative Movement Assessment)を活用していく上で有用。IMACは、目の見えない五行や経絡について、目の見える(身体関節の可動域を取ること)もので判断できるので、五行の理解が不可欠だと思う(「解剖学と東洋の経絡の接点:可動域から何がわかるのか?」参照)。
今回は、4回目を迎えた。五行論の最後の水と東洋医学の「氣」についての基本的な考え方について紹介したので、今回は水について取り上げたい。
水の五臓は、腎(副腎も含む)、五腑は膀胱。
今回も西洋医学から見た腎臓(副腎)と東洋の人の比較から見ていったほうが良さそう。
まずは、西洋医学から腎臓について見てみたい。参考にした本は「人体・神秘の巨大ネットワーク:臓器たちは語り合う」だ。
西洋医学における東洋医学の腎は、腎臓+副腎と考えられるので、腎臓と副腎について紹介したい。
腎臓の主要な働きは、尿を作ること。
人間の身体は、口から入った飲み物や食べた物の大半は胃腸を通過する間に吸収、吸収されなかったものは大便として出る。大便は胃腸を通過するのみだが、小便=尿は、必ず血液を経由して、全て血液から作られる。そして、腎臓によって濾過され、尿管を通り、膀胱へ。尿として排出される。
腎臓は、毎日180リットルもの尿(原尿)が濾過装置の糸球体(腎には約100万個)から作られる。そこで、赤血球や蛋白質などの成分を除く他の部分を全て尿として作られる。
その後、尿細管(近位尿細管、ヘレンループ、遠位尿細管、集合菅)が働き、原尿の99%が再吸収される。ここで、身体に戻す量を調整することで、血液の成分量(糖質、ミネラルの濃度)や血液の量(水分量)が調整される。
面白いのは、尿細管での働きに、他の臓器から出る物質によって影響を受けることだ。
例えば、
心臓から作られるANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)が原尿の再吸収する尿細管に働きかけてナトリウムの排出を調整すること。
血液中のカルシウム濃度が低下すると、副甲状腺からPTH(副甲状腺ホルモン)が作られる。
そのことで
1)骨に含まれるカルシウムを血液中へ放出
2)腎臓での、リンの再吸収を抑制
3)骨を溶かし、カルシウムを血液中に放出
お互いに影響しあって血液中のカルシウムの濃度を調整する。
PTHは他にも腎臓に働きかけ肝臓によって代謝されたビタミンDを活性化ビタミンD(カルシトリオール)にする。その結果、腸からのカルシウム吸収促進、される。
このように腎臓は、様々な臓器とのコミュニケーションをとることで、腎臓は血液成分の調整される。
西洋医学の腎臓のイメージは「血液全体を管理する」だ。
東洋医学の腎でも、身体の水の量を調整することで、陰陽のバランスをコントロールする働きがあるので共通してようにみえる。
また、腎臓は寿命との関係もある。腎臓の糸球体から分泌されるクロトー(血液のリン濃度を調整する)の遺伝子を無くしたマウスを作ると、早老症の症状が認められるようになる。このことから、腎臓は老化に関わっていると言われている。
東洋医学も腎臓と老化に関係があると考えているので、ここでも共通項があって面白い。
一方、副腎は、不安や恐怖を感じるとストレス反応が起きる。
ストレスについては、NHKスペシャル取材班編「キラーストレス:心と体をどう守るか」がわかりやすくまとまっているので、参考にしながら、少し副腎について紹介したい。
人間は不安や恐怖を感じると、脳の扁桃体が興奮を始める。そこから「不安や恐怖に対処せよ」という指令が脳の視床下部へ伝えられ、その指令が副腎に届く。副腎ではストレスホルモンと呼ばれるコルチゾール、アドレナリン、ノルアドレナリンが作られ、血液中に放出される。
ストレスホルモンは、体内の様々な臓器に影響を与えるが、心臓では、心拍数が増えて血圧を上げる。
自律神経系では、交感神経が優位に、血小板同士が結合し、血が固まりやすくなったり、肝臓で溜まっているグリコーゲンがブドウ糖に分解され血液中に放出することになる。
アドレナリンは「闘争・逃走反応」を起こすホルモンで、比較的即効性があるのに対して、コルチゾールは、日内変動もあり、もう少し穏やかに長期に作用することが知られている。
東洋医学では、腎が不安・心配に関わると考えられるので、共通している。
さて、東洋医学は腎・膀胱をどうみているのか?
安部さんは、役割として、
1)精を蔵す:生きるための活動するためのエネルギー(精)を腎(丹田)に蓄える。
2)水液を主る:体液(津液)を管理。身体の水の量を調整することで、陰陽のバランスをコントロールすることや尿の量を調整する。
3)膀胱は不要な水分の貯蔵と排泄に関わる。
4)作強の官:腎は身体を強固にして、肉体的・精神的なストレスに抵抗する。
・肉体面:体の中の堅い物(骨・髄・脳・歯)と、その中にあるものを管理する。例えば、腎が弱ると骨、髄が弱まり、歯が抜ける、姿勢が悪くなる等が起きる
・精神面(ストレス):驚き・不安の感情に関わる
5)腎は耳と二陰(尿道と肛門)に開竅(かいきゅう)する。
6)腎の華は髪にある(髪には腎精の状態が現れる)
等があることを説明した。
腎は基本的にエネルギーを蓄える、中で燃やす作用のイメージ、冬のイメージがある。
2)、3)、4)のストレスは西洋医学と共通点があるので、それ以外のところを取り上げたい。
面白いと思ったのは、腎は「氣」=「エネルギー」=「精」を蓄える臓器だということ。
腎は、
・先天の精(両親から受け継いだ精氣。生長、発育、生殖に必要なエネルギー)→亡くなった時に死を迎える
・後天の精(生まれてから脾・胃で作られる精氣。活動に必要なエネルギー)→動いたら減る
の2つが丹田に蓄えられていると考える。
ポイントは幼少の頃、腎はまだ完成していないので、子供や腎が弱いのが普通だが、老化にも関係しており、年齢を重ねるにしたがって腎の働きも弱まっていく。
東洋医学では、男性は氣の生き物、女性は血の生き物といわれ性差の違いもあると考える(東洋医学での女性の生理について「生理を西洋と東洋から見るとどうなるのか?ホルモンと氣・血・熱」参照)。
女性は7の倍数、男性は8の倍数で考えるとわかりやすい(参考に、安部さんの作った資料を以下に紹介。女性は下記のように発達する)。
女性は35歳、男性は48歳頃ピークを迎えることになる。
氣を使いすぎると、後天の精ではなく、先天の精を使ってしまうので、燃え尽き症候群にも繋がっていき、寿命も縮まる。結局は、脾・胃で作られる後天の精を補いつつ、先天の精への借金を少しずつ返済することで、改善していくのがいいと安部さんはいってた。
参考に、腎臓の氣には腎陽と腎陰の2種類がある。
腎陽は、臓腑や組織を動かし、暖めるという「活動するための熱を作る」役割を、腎陰が、臓腑や組織を栄養する役割「身体を回復させる」働きを担う。
ダニエル・キーオンの「閃めく経絡(ひらめくけいらく)―現代医学のミステリーに鍼灸の“サイエンス”が挑む! 」には、副腎皮質から出るコルチゾールは、腎陰として、副腎髄質から出るアドレナリンは腎陽として働いているのではないかという面白い考察があるので、ご興味がありましたら、チェックしてみてください。
興味深いのは、西洋医学では目の見えないホルモンと臓器間のコミュニケーションで腎を捉えるのに対して、東洋医学では、目に見える外見を見ているところだ。
例えば、骨(姿勢)、歯(虫歯)、脳(働きが落ちる)、耳(難聴)、髪(白髪)、肛門・尿道(頻尿、失禁)等が、腎臓の働きが弱まると、影響を受けるという。
安部さんによると、腎の精氣が弱まることで、虫歯、骨粗鬆症、老化、腰痛(姿勢)、耳、等に影響がある。
面白いのは、東洋医学では髪は余った血で作ると考える。そのため、血の生き物である女性は最後まで髪が残るというのは興味深かった。
姿勢との関係でいえば、腎は、「立」に関わる。適度な立位は腎にいいとのことだそうだ。参考に、肝は歩、心は視、脾は座、肺は臥とそれぞれ姿勢が割り当てられている。
毎回思うが、膨大な情報から本質的な部分を取り出す安部さんの能力にただただ素晴らしいの一言。五行の知識が一つ一つ整理されて、それがどう繋げていくのか?残りの講座では、繋げ方を取り上げていくので楽しみだ。
後半の「氣」の考え方も五行の知識をベースに話しているので、本コラムでもその説明に沿って取り上げたい。
参考に、過去に3日間、開催されたセミナーについては、本コラムに書いたので下記をご参照いただければ幸いです。
陰陽五行説:「東洋医学の基本的な考え方に触れる:陰陽説、五行説、自分で基準を作る」
五行論
木+火:「心・肝について:感情、生理、睡眠及び西洋医学との関係性」
土:「脾について:消化器の働きを管理し、食事による影響を受ける」
金:「肺について:バリアの役割と選択、腸内細菌、皮膚症状等」