【E#275】自分の中で「面白い」という基準を作る──自分の個性を知る意味
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はじめに
こんにちは、渋谷でロルフィング・セッションや脳科学をベースにした講座を提供している大塚英文です。
2001年、私は無事博士号(PhD)を取得した。博士号は、日本でとる場合には、最低でも大学4年と、修士2年、博士3年の合計9年かかる(ちなみに私は合計で11年かかった)。

その後、製薬業界で11年。開発・マーケティングを経験した後に、1年間、世界一周を体験。現在、手技を使ったボディワーカー(ロルフィング)としてセッションおよび、脳科学をベースとした講座を提供している。
今回は、博士課程で学んだことについて触れたいと思う。私は、東京大学大学院医学系研究科の博士課程に進み、指導教官が主催する研究室は、一流医学雑誌に投稿する部屋として知られていた。
そこでは、30代以降、私の人生に大きな影響を与えてくれたことがたくさんあったが、私の中で、今でも鮮明に印象に残っていることがある。のは、指導教官から何度も繰り返し投げかけられた一言である。
「自分の取り組んでいる研究内容、なぜやっているの?何が面白いのか?」
繰り返し、繰り返し、聞かれていたことだった。今回はこの点について深掘りしたい。
博士課程で突きつけられた「問い」
私が博士課程の4年間、研究を進めるとき、指導教官は常に「それは面白いのか?」と問うてきた。この問いに答えられないと、プロジェクトは容赦なくつぶされる。実際、私は何度もその壁にぶつかり、必死で自分の研究の意義を言葉にしようとしていた。
うまく説明できないときには、
「なんでそれをやっているんだ。やめろ!」
と突き放され、振り出しに戻されることもあった。
最初は全く答えられず、厳しく叱咤された記憶が残っている。4年間を通じて、少しずつ説明の仕方が洗練され、先生のトーンも和らいでいったのを覚えている。
この経験から、私は3つのことを学んだ。
- 物事を簡潔に説明するには論理が不可欠であること
普段の会話の言葉は意外と論理に適さず、研究を通して論理的に説明する力を鍛える必要があると痛感した。 - 「面白い」という基準を意識すること
当時はわからなかったが、実はこれは自分の感性を養う訓練だったと後から気づいた。 - 「何をやらないか」を考えること
面白さを突き詰めると、不要なものをそぎ落とす視点も磨かれる。これは現在マーケティングの仕事をするときにも役立っており、戦略とは「やらないことを決める」ことだと今では思っている。
自分の感じる「面白さ」を知ることは、自分の個性がわかる
博士課程での問いかけは、今も私の中に生きている。仕事をしているときも、趣味の茶道や書道をしていたときも、ふと立ち止まって「これは面白いのか?」と自問する。
ここで大切にしているのは、他人がどう思うかではなく、自分の感性や直感がどう動いているかである。本を読むときも「自分にとってどの箇所が面白かったか」を基準にしている。他人の評価に流されず、自分が心から動かされた瞬間を拾い上げることが、面白さを深める唯一の道であると思う。
そして気づいたのは、面白さは、個性に繋がっていくということである。
人は「これが面白い」と感じるポイントがそれぞれ異なる。その違いこそが、その人の感性の色合いであり、独自の視点をつくり出していくのだ。科学者にとっての面白さ、芸術家にとっての面白さ、経営者にとっての面白さ。それらは異なるようでいて、その人の個性の核を形づくる共通の源泉なのではないかと感じる。
芸術と科学に共通する“面白さと個性”
興味深いのは、芸術と科学という一見異なる領域にも、面白さと個性が共通して流れている点である。
科学の世界では「何が新しいのか」「何がまだ分かっていないのか」という問いが探求の中心にある。その中で「面白い」と感じる発見こそが、研究者の個性を形づける。
一方で芸術の世界でも、創造の原点は「面白さ」にある。画家が色彩や形に心を動かされる瞬間、詩人が言葉を紡ぐときに覚える高揚感。そこには必ず「自分が心から面白いと思うもの」がある。芸術作品に独自性が宿るのは、まさにその人ならではの「面白い」の基準が込められているからである。
つまり、科学者が新しい現象を発見するときも、芸術家が作品を生み出すときも、その背後には「これは面白い」という直感が働いている。そしてその直感を信じて突き詰めることで、結果としてその人の個性が強く表現されるのである。
まとめ──面白さを生き方の軸に
こうして振り返ると、「面白いとは何か?」という問いは、単なる研究室での話ではなく、人生の軸を与えてくれたものである。
面白いことを探す。
面白いことを深める。
面白くないことをやらない。
そして、面白さを通して自分の個性を磨いていく。
この姿勢を、私は今後も仕事や趣味において大切にしていきたい。そして、自分が本当に心から面白いと思えることを問い続けることこそが、独自の視点や創造性につながるのだと信じている。