【N#203】集中力を高める「3本の矢」──脳科学と瞑想の力で“今ここ”に戻る
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はじめに
こんにちは、渋谷でロルフィング・セッションと脳科学に基づいた講座を提供している大塚英文です。
仕事や学習の最中、「やる気が出ない」「始めても集中が続かない」「SNSが気になって思考が散る」といった悩みを感じたことはないだろうか。

集中力は意志の力や根性だけで作られるものではなく、脳の神経伝達物質の働きによって支えられている。特に、ドーパミン、ノルアドレナリン、アセチルコリンという3つの神経伝達物質が鍵を握る。これらを「集中の3本の矢」として捉えることで、集中状態を科学的に整えることが可能となる。

集中の「3本の矢」モデルとは
集中力は、以下の3つの神経伝達物質によって支えられている。
神経伝達物質 | 主な役割 | 特徴的な効果 |
---|---|---|
ドーパミン | やる気・モチベーション | 目標への意欲、達成感、報酬系の活性 |
ノルアドレナリン | 覚醒・緊張感 | 注意力の持続、警戒状態の維持 |
アセチルコリン | 選択的注意 | 意識のピント合わせ、特定対象への集中 |
この3つが同時に機能することで、いわゆる“フロー状態”に入ることができる。
スタンフォード大学の神経科学者Andrew Hubermanは「Tools to Improve your Focus & Concentration」の動画で次のように述べている。
“To get into a deep focus state, we need dopamine for motivation, norepinephrine for alertness, and acetylcholine to anchor our attention.”
「深い集中状態に入るには、ドーパミン(やる気)、ノルアドレナリン(覚醒)、アセチルコリン(注意の固定)が必要である」
ドーパミンとノルアドレナリンを整える生活習慣
集中力を整えるには、1日のスタートである朝の過ごし方が重要である。
朝のルーティン
- 起床後すぐに日光を浴びることで、セロトニンが活性化し、ドーパミン系のスイッチが入る
- 軽い運動(スクワットやウォーキング)を取り入れることでノルアドレナリンが分泌される
- カフェイン摂取は午前中にとどめると覚醒効果を得られやすい(ただし過剰摂取は逆効果)
食事のタイミング(TRE)
近年の研究では、「何を食べるか」よりも「いつ食べるか(Time Restricted Eating)」の方が重要であることが示されている。
- 起床から1時間は断食状態を保ち、セロトニンや代謝機能を安定させる
- 食事時間は8~12時間以内に収める(例:朝8時〜夜8時)
- 夕食は就寝の2〜3時間前までに終えることで睡眠の質が向上する
- 食後は20分の軽いウォーキングを行うと血糖値の急上昇を防ぎ、脳の安定性を保てる
第三の矢「アセチルコリン」と“ピント合わせ”の重要性
ドーパミンとノルアドレナリンが「やる気」と「覚醒」に関わるのに対し、アセチルコリンは「どこに意識を向けるか」「それを持続させるか」という選択的注意を司る。
このアセチルコリンの分泌を促す効果的な手法として、「トラタカ瞑想」が挙げられる。
トラタカ瞑想──視線の静止が集中を作る
トラタカ(Trataka)とは、ヨガにおける集中のための視覚瞑想法である。対象を見つめることで内的な静寂と集中を育てる。
実践手順(5〜10分)
- 背筋を伸ばして座り、呼吸を整える
- 視線の高さにロウソクの炎や黒い点を設置する
- まばたきを抑えつつ、対象を静かに見つめ続ける
- 目が疲れたら閉じて、その像を内側で思い浮かべる
このような視線の固定は、脳内でアセチルコリン系の神経回路を活性化させる。
Hubermanは、視線の安定が集中力の鍵になると強調している。
“Sustained visual focus engages the cholinergic system and enhances focus.”
「視線を一点に固定することは、アセチルコリン系を活性化し、集中力を高める」
日常生活への応用:トラタカ瞑想+リズムのある習慣
時間帯 | 実践内容 | 期待される効果 |
---|---|---|
朝 | トラタカ瞑想+日光浴 | セロトニンとアセチルコリンの活性化、集中状態の立ち上げ |
午後 | 深呼吸+1点集中(ペンの先など) | 情報の整理、脳の再起動 |
夜 | ロウソクの炎でトラタカ瞑想 | 神経のクールダウン、睡眠への移行サポート |
このように、トラタカは単なる瞑想ではなく、科学的にもアセチルコリン活性を促す実践的な方法といえる。
まとめ──集中力は意志ではなく整えるものである
集中力を高めたいとき、私たちは「もっと頑張らなくては」と考えがちである。
しかし、必要なのは意志ではなく、「集中の3本の矢」が整う環境を作ることである。
- ドーパミン:目標設定、運動、朝の光
- ノルアドレナリン:呼吸法、軽い緊張、冷水シャワー
- アセチルコリン:視線固定、トラタカ瞑想、コリン食品
集中力とは、脳内で「やる気」「覚醒」「ピント合わせ」がバランスよく働いた状態に他ならない。
その状態を支えるのが、日々の生活習慣と内的静寂の時間である。
目をそらさず、ただ一点を見つめる。その静かな行為の中に、深い集中と自分自身とのつながりが芽生えてくる。