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【B#210】思考の仕組みを知れば、意思決定が変わる──ダニエル・カーネマン「ファスト&スロー」

はじめに

こんにちは。渋谷でロルフィング・セッションと脳科学ベースの講座を提供している大塚英文です。

私たちは日々、無数の意思決定を繰り返している。朝何を食べるか、誰にメッセージを送るか、そして仕事でどんな判断を下すか──。こうした「選択」の裏側で、実は私たちの脳は2つのモードを使い分けている。

このメカニズムを明快に示したのが、心理学者ダニエル・カーネマンによる名著『ファスト&スロー──あなたの意思はどのように決まるか?(原題:Thinking, Fast and Slow)』だ。

今回は、この本の中核となる「システム1(速い思考)」と「システム2(遅い思考)」の違いを説明しながら、各章の重要なエッセンスと、実生活への応用方法を紹介していく。

第1部:二つのシステム──速く考える脳、遅く考える脳

第1部では、カーネマンが「人間の思考は、2つの異なるモードによって支配されている」という事実を提唱する。彼はそれらを「システム1(速い思考)」と「システム2(遅い思考)」と呼んでいる。

この2つのシステムは、人間がどのように情報を処理し、判断や行動を決定するかという意思決定の基盤をなしている。

システム1:速く、直感的、自動的な思考

システム1は、反射的かつ直感的な思考モードであり、ほぼ常に自動的に作動している。人間が何かを「考える」前に、すでにシステム1は何らかの結論を導き出している。

特徴

  • 高速かつ無意識に働く
  • 脳への負荷が少ない
  • 感情や印象に基づく判断を行う
  • 誤解や偏見に陥りやすい

  • 表情を見て「怒っている」と即座に感じる
  • 飛んできたボールを反射的によける
  • 簡単な計算「2+2=4」と即答する

便利ではあるが、システム1は誤りやすく、特に論理性を必要とする判断には不向きである。

システム2:遅く、努力を要し、論理的な思考

システム2は、注意と集中を必要とする意識的な思考プロセスである。複雑な問題や計算、計画の立案などにおいて活躍するが、同時にエネルギーを消費し、脳はなるべく使いたがらない傾向がある。

特徴

  • 意識的かつ分析的に働く
  • 高い注意力と集中力を必要とする
  • システム1の誤りを訂正する監視機能を持つ

  • 暗算で17×24を計算する
  • 法律文書を精読する
  • 自らの感情や行動を内省する

ケーススタディ:バットとボール問題

バットとボールは合わせて110円。バットはボールより100円高い。ボールはいくら?

多くの人が「10円」と答えるが、それはシステム1による直感的誤答である。正解は「5円」であり、システム2の論理的推論を必要とする。

まとめ

  • 人間は、直感(システム1)と熟慮(システム2)を使い分けて思考している
  • システム1は便利だが、誤判断の温床となる
  • システム2は正確だが、エネルギーを要し、怠惰に陥りやすい
  • 自身が今、どちらのモードで考えているかを認識することが、誤判断を減らす第一歩である

この本の5部構成と主要な概念

了解しました。以下に『ファスト&スロー』の第2部〜第5部の各章の主要概念について、用語を英語と日本語で併記しながら、より丁寧で明確な形に再構成してご紹介します。


本書の5部構成と主要な概念(第2部〜第5部)


第2部:ヒューリスティクスとバイアス(Heuristics and Biases)──思考の落とし穴にハマるとき

この章では、人間の脳が限られた情報や時間の中で素早く判断を下すために使う「思考の近道」=ヒューリスティクス(heuristics)と、それによって生じる認知の歪み=バイアス(biases)について説明している。

ヒューリスティクスは必ずしも悪いものではないが、自動的で直感的な判断(システム1)に依存するため、誤りを引き起こしやすい。

代表的なバイアス(Representative Biases)

  • 代表性ヒューリスティクス(Representativeness Heuristic)
    人や物事が“典型的”に見えるかどうかで、その確率や真実味を判断してしまう傾向。例:「リンダは独身で頭がよく、フェミニズムに関心がある」→ 多くの人が「銀行員でフェミニスト」である確率が「単なる銀行員」より高いと思ってしまう(論理的には誤り)。
  • 利用可能性ヒューリスティクス(Availability Heuristic)
    思い出しやすい情報や印象に基づいて、物事の頻度や重要性を判断する傾向。例: ニュースで飛行機事故が繰り返し報道されると、実際の確率よりも「飛行機=危険」という印象を持ってしまう。
  • アンカリング効果(Anchoring Effect)
    最初に提示された数値や情報(アンカー)が、その後の判断に無意識のうちに影響を与える。例:「この時計は定価10万円、今なら3万円」と聞くと、3万円でも「安い」と錯覚する。

ケーススタディ(Case Study)

セールスや価格交渉の場では、アンカーとなる最初の価格が印象を決定づける。実際の価値よりも「割引された額」の方に意識が引きずられてしまうのは、典型的なアンカリング効果である。

第3部:過信(Overconfidence)──私たちは、自分を信じすぎている

この章では、人間が自分の知識・判断・直感に過剰な自信(overconfidence)を持ちやすいという心理的傾向が明らかにされる。

この過信は、実際には不確実性が高い状況でも「自分は正しい」と信じてしまうことで、重大な意思決定ミスを生む可能性がある。

主な概念(Key Concepts)

  • 錯覚の錯覚(Illusion of Validity)
    自分の判断や予測が正しいと信じ込む傾向。たとえデータや根拠が不十分であっても、自分の直感に強く確信してしまう。
  • ハロー効果(Halo Effect)
    一部の印象(例:見た目が良い、話し方が落ち着いている)から、その人の他の要素(能力や信頼性など)まで過大評価してしまう。
  • ナラティブ・バイアス(Narrative Bias)
    人は「ストーリー性がある情報」に惹かれるため、複雑な出来事を因果関係のある“わかりやすい物語”に無理やりまとめようとしてしまう。

ケーススタディ(Case Study)

企業の経営者が、自社の成功を「自分の優れた経営判断」の結果と信じ込み、実際のところ市場の流れや偶然の要素を無視してしまう。このような“成功の物語”は、しばしばナラティブ・バイアスと過信が組み合わさったものである。

第4部:選択とリスク(Choices and Risk)──なぜ人は非合理に選ぶのか?

第4部では、カーネマンがノーベル経済学賞を受賞した理論であるプロスペクト理論(Prospect Theory)を解説している。これは、従来の経済学が想定する「合理的な人間像」に対して、「人は実際には感情に左右された非合理的な判断をする」ということを実証的に示した理論である。

核心概念(Core Concepts)

  • 損失回避(Loss Aversion)
    人間は同じ大きさの「利得(gain)」よりも「損失(loss)」に対して、約2倍強い心理的インパクトを感じる。
  • 参照点(Reference Point)
    人は絶対額ではなく、「ある基準点から見て得したか・損したか」を基準に判断する。つまり、「いくら儲けたか」ではなく「思ったより増えたか・減ったか」に敏感。

ケーススタディ(Case Study)

株価が下落した際、多くの投資家は「損失を確定させたくない」という心理から売却を先延ばしにする。これは、合理的判断ではなく「損失回避バイアス(loss aversion bias)」によるものである。

第5部:二つの自己(Two Selves)──記憶される人生と、経験される人生

この章では、人間の「幸福(well-being)」をめぐる体験と記憶のズレについて、「2つの自己」という視点から分析している。

主要概念(Key Concepts)

  • 経験する自己(Experiencing Self)
    「今この瞬間の体験」を感じている私。リアルタイムで快・不快を知覚し、日々の気分や体調に基づいて生きている存在。
  • 記憶する自己(Remembering Self)
    「物語としての体験」を編集し、記憶に残している私。人生の意味や価値を、過去の“印象深い出来事”で判断する存在。

人間は、将来の選択や評価において、「経験する自己」ではなく「記憶する自己」の視点を優先する傾向がある。

ケーススタディ(Case Study)

旅行の大半が快適だったとしても、最後に財布を失くすなど不快な出来事があると、「あの旅行は最悪だった」と記憶される。これは、「ピークと終わり」が印象を強く左右する「ピーク・エンドの法則(Peak-End Rule)」によるものである。

まとめ:思考のクセを知ることが、自分を守る第一歩

英語タイトル主なテーマキーワード(日本語+英語)
第2部Heuristics and Biases思考の近道とその罠代表性代表性ヒューリスティクス(representativeness)、利用可能性(availability)、アンカリング(anchoring)
第3部Overconfidence自信過剰と判断の誤り錯覚の錯覚(illusion of validity)、ハロー効果(halo effect)、ナラティブ・バイアス(narrative bias)
第4部Choices and Risk損失回避と選択の非合理性プロスペクト理論(prospect theory)、損失回避(loss aversion)、参照点(reference point)
第5部Two Selves幸福の二重構造経験する自己(experiencing self)、記憶する自己(remembering self)、ピーク・エンドの法則(peak-end rule)

まとめ

『ファスト&スロー』は、人間の思考がいかに非合理であり、同時に驚くほど一貫して「間違える」存在であるかを示してくれる。

重要なのは、これらのバイアスや誤りを「なくす」のではなく、「知ること」である。自らの判断に対して、一度立ち止まって問い直す姿勢こそが、よりよい意思決定をもたらす鍵となると思う。

この本は非常に長いが、事例が多く、意思決定していく上で、何に注意したらいいのか?理解が深まると思っている。ぜひ、経営者には読んでいただきたい一冊だ。

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