【P#92】向精神薬とは何か?①〜抑制薬・鎮痛薬
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はじめに
東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。
「向精神薬(Psychoactive drug)」とは、脳の中枢神経系に作用し、人間の精神活動に何らかの影響を与える薬物の総称。個人的には、脳科学の理解には、「向精神薬」の知識が不可欠と考えている。
「向精神薬」には、精神刺激薬・興奮薬(stimulant、upper、アッパー)、抑制薬・鎮静薬(depressant、sedatives、downer、ダウナー)、幻覚剤(psychedelics、hallucinogen)の3種類がある。
抑制薬・鎮静薬には「イライラや興奮といった神経系の過活動を抑制」する薬剤のことをいい、アルコール、ベンゾジアゼピン(睡眠薬)、オピオイド(ヘロイン、アヘン、モルヒネ、フェンタニル、オキシコドン)、大麻(CBD、THC)等が知られている。
今回は、抑制薬・鎮静薬について紹介したい。
アルコール〜脳への影響、急性アルコール中毒
アルコールは、水と油の双方に溶けるため、血液脳関門を突破しやすい。脳に到達すると、脳の思考、計画、衝動的行動の抑制を司る「前頭葉」が軽度に抑制。記憶形成・保管に関わる脳の神経回路を強力に抑制する性質もあるため、忘れやすくなる。
一気飲みで、急性アルコール中毒になると、意識レベルが低下し、嘔吐、呼吸状態が悪化するなど危険な状態に陥る。通常、血中のアルコール濃度が0.02%から0.1%程度でほろ酔いと呼ばれるリラックスした状態になるが、0.3%を超えると泥酔期(もうろう状態)、0.4%を超えると昏睡期(生命に危険を生じうる)になる。
アルコールの脳の作用部位については、辺縁系や側坐核におけるドーパミンの放出の増加が知られているが、他にも興奮性アミノ酸受容体(NMDA)や抑制系(GABA)の受容体などがアルコールの影響を受けるとされているが、明らかになっていない。
二日酔いのメカニズムについてはわかっていないことや、アルコールと脳萎縮、ストレスホルモンとの関係について「アルコールと心」にまとめているので、ご興味のある方、チェックくださいね。
2つの睡眠薬〜睡眠導入薬+睡眠改善薬と課題
通常、不眠症に使われるのは「睡眠導入薬」と「睡眠改善薬」の2つだ。医師によって処方される処方箋医薬品が「睡眠導入薬」、一時的な眠れない症状に対し、薬局で購入できる一般医薬品が「睡眠改善薬」と呼ばれる。神経活動を抑制する神経伝達物質(GABA)に働きかけることにより、生理活性を発揮する。
「睡眠導入薬」として、一番古くから使われていたのがバルビツール(barbiturate)で「麻酔薬」に近い薬物だった。1903年に合成され、1920年代から1950年代唯一の睡眠薬として席巻したが、依存、耐性、過剰摂取によって死亡リスクが高まること、自殺手段として使用されていたことを「睡眠薬とは何か?」に書いた。
1960年代以降に、ベンゾジアゼピン(benzodiazepines)が登場。鎮静薬、睡眠導入薬(催眠)、抗不安薬、抗痙攣、筋弛緩等として使用されている。ベンゾジアゼピンも長期的に使用すると、依存性、反跳性不眠、一過性前向性健忘、筋弛緩作用等の副作用を示す。
一方で、睡眠薬については、どのような課題があるのか?
睡眠学者のマシュー・ウォーカー「睡眠こそ最強の解決策である」に「睡眠薬」について詳しくまとまっている。
睡眠薬は、脳の外側を眠らせるに過ぎないことが知られており、最新の睡眠薬(ゾルピデム(アンビエン)、エスゾピクロン(ルネスタ、非ベンゾジアゼピン薬剤))を使って脳波測定を行うと、通常の睡眠に比べ深い脳波が欠けることが明らかになっている。
結局、翌朝も疲れが取れない、夜に自分が意識していない行動や、日中に反応速度が鈍くなり、運転に支障が出るといった副作用も出る等が知られている。
詳しくは「睡眠薬の改良、問題点」に書いたのでご興味のある方はチェックくださいね。
オピオイド危機〜米国製薬会社が引き起こした「薬害問題」
オピオイドとは、痛みを感じる中枢神経にある「オピオイド受容体(μ(ミュー)とκ(カッパ))」に作用することで、鎮痛効果が期待できる化合物の総称して知られている。強力な痛み止めだが、依存症の問題がつきまとい、慎重に使用されることが大切になる。
製薬会社によって引き起こされた史上最悪な「薬害問題」として「オピオイド」は、全米で社会問題になっている。ディスニー・ドラマ「DOPESICK」、ネットフリックス・ドラマ「Painkiller」に描かれているので、ご興味がる方はチェックいただきたい。
パーデュー・ファーマ社(Purdue Pharma)は、サックラー(Sackler)家が経営する製薬会社。痛み止めのオピオイドを製造する会社として、1984年にモルヒネの徐放製剤「MSコンチン」。徐々に水に溶かして効果を発揮し、がんの疼痛に使われていた。MSコンチンの特許切れに伴い、新たな新薬の開発が必要となる。
同社が注目したのが、モルヒネよりも効果が1.5倍を示すオキシコドン。MSコンチン同様、オキシコドンの徐放製剤である「オキシコンチン」を開発・発売する。オキシコンチンは、1996年に承認されたが、その過程で様々な問題点が指摘されたのだが、審査当局により依存症は問題ないことが認められ、軽度の痛みに処方された。
2000年頃から、依存や関連犯罪が急増していく。パーデュー社の内部文書によると、販売される前から、依存性や医師の懸念があったことを知りながら、金儲けのため、販売戦略を進めていく。
オキシコンチン処方によって大きな問題となったのは「過剰摂取(overdose)」による死だった。オピオイドは呼吸中枢に働きかける。予想できない摂取量(特に闇で入手できるオピオイド)でも、呼吸停止を促すことがあり、突然死につながるのだ。
2019年には、過剰摂取による死亡者数は70,630人のうち7割がオピオイドとなり、自殺、銃殺、交通事故よりも多くなった。過剰摂取による死亡者は、1999年に比べ6倍に及んだ。
オピオイドの歴史を含め、ご興味のある方は、「米国と「オピオイド危機」」にまとめたのでチェックください。
大麻〜取り締まりの対象から合法化の動きへ
大麻はルネサンスを迎えており、合法化に向かって進んでいる。主にイスラエルで研究が進み、大麻から精神作用を持つTHC(テトラヒドロカンナビノール)やCBD(Cannabidiol、カンナビジオール)がの構造が明らかになった。
CBDには、抗痙攣作用、抗炎症作用、抗不安作用、降圧作用、癌の細胞死を誘導する作用がわかってきた(詳しくは参照)。
大麻が麻薬指定となったのか?この謎をわかりやすくまとめた本が、佐久間祐美子さんの「真面目にマリファナの話をしよう」だ。
米国では、昔からカンナビス(大麻の英語名)は医療用や嗜好品として使われてきた。19世紀中盤には、綿、タバコに次いで、3番目に収穫量が多かったのがヘンプ。
1839年にカンナビスは、リウマチ、破傷風、痙攣の発作に対して、有用であるという報告もあり、1854年から米国で、医療用として使われるようになった。なんと、薬局で、アヘンも売られた時代もあったそうだ。
1917年に米国の財務省は、「カンナビスを嗜好品として使用するのは「メキシコ人、時にしてニグロ、そして白人の低所得層」として、ドラッグに触れていたマイノリティが白人の上流階級の特に女性に危害を加える可能性がある」と警告する報告書を出している。
1930年代に、捜査官のハリー・J・アンスリンガーが登場。ヘロインやアヘンといった危険なドラッグよりも、使用人口の多いマリファナに狙いを定め「マリファナは人を発狂させる!」「黒人たちがマリファナをやっている」というネガティブキャンペーンを展開。
ついに、1934年、統一州麻薬法令を制定する。詳しくは「ヘンプとカンナビスの歴史」にまとめたのでご興味のある方はチェックくださいね!
まとめ
今回は、抑制薬・鎮静薬の代表的な例である、アルコール、ベンゾジアゼピン(睡眠薬)、オピオイド、大麻(CBD、THC)について紹介した。
少しでもこの投稿が役立つことを願っています。