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【B#156】映画・オッペンハイマーを鑑賞して〜一人の人間の内面を垣間見る

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

2024年3月29日に本邦で公開された、クリストファー・ノーラン監督の「オッペンハイマー」。全米では昨年(2023年7月21日)公開され、今年のアカデミー作品賞・監督賞・主演男優賞をはじめ7部門を受賞した話題作。

過去に、広島の平和記念資料館と長崎の原爆資料館をぞれぞれ訪れ、東京大空襲の被害を展示している東京大空襲・戦災資料センターに伺う機会もあった。いずれも、第二次世界大戦について日本の立場から学ぶ機会が得られた感じだった。

今回は、米国の立場から見た、原子爆弾の製造を指揮したロバート・オッペンハイマー(以下オッペンハイマー)が主人公の映画だ。しかしながら、登場人物の多さや、政治的な駆け引きの複雑さもあり、ある程度予習していないと分かりにくい作品になっている。

そこで、まず初めに「原子力発電」「原子爆弾」で発生するエネルギーについて語ったのちに、作品に入りたい。

原子力発電と原子爆弾で発生するエネルギー

高エネルギー加速器研究機構の多田将(ただまさる)博士の「ミリタリーテクノロジーの物理学<核兵器>」だ。この本では、量子力学の基本的な知識を中心に、原子の構造から入り、原子爆弾(原爆)の原理について、核分裂と核融合の二つの視点から語っている一冊だ。

参考に、広島に投下された原爆の原料であるウラン(235)・1キログラムに中性子を当てて、核分裂を起こすと、ガソリン1キログラムを燃焼させた時のエネルギー(40-50MJ)に比べ、6桁の100万倍のエネルギー(80TJ程度)が放出されることが計算できる。

一般に作られる爆薬(TNT(トリニトロトルエン))によって取り出せるエネルギーは4MJなので、上記のウランによる核分裂によって、その1000倍近くのエネルギーになるのだ。この巨大なエネルギーが原爆に使われていたのだ。

参考に、ウラン(235)を原子炉で使うとすると、発電量は1GW。人間は一人当たり1kWを使うので、発電1GWだと、100万人分を養うことができる。しかも、原子力の場合は、二酸化炭素を排出しないという特徴があるので、クリーンなエネルギーと言われている。

東日本大震災で起きた福島原発の事故により、その危険性について語られるようになったが、知識として、原爆や原子力発電は何ができるのか?知る価値はあると思っている。そして、なぜ、人類が、原子力を利用しようと考えるのか?わかっていただけるかと思う。

さて、2024年4月8日(月)、午後7時50分に109シネマズ・二子玉川のIMAX版で「オッペンハイマー」を視聴したので、それについてまとめたい。

映画・オッペンハイマーを見て感じたこと(ネタバレも含む)

映画・オッペンハイマーを知るためには「生い立ちから留学時代」「マンハッタン計画のプロジェクト責任者の時代」「「赤狩り」と失職の時代」の3つを知っておく必要がある。なぜならば、三つの話がお互い影響しながら話が進むからだ。その三つを中心にまとめてみたい。

生い立ちから留学時代

原子爆弾を初めて開発したオッペンハイマーは、ドイツ系移民の子として、ニューヨークにて誕生(1904年7月)。弟のフランクと一緒に育ったが、彼も同業の物理学者だ。関心範囲が広く、数学、化学のみならず、インドの古典「バカヴァート・ギーター」や、18世紀の詩に興味を持ち、6ヶ国語の言語を操ったそうだ。

頭が非常によく、ハーバード大学を飛級で首席卒業(21歳の時、1925年)。英国のケンブリッジ大学に留学し、当時、物理学の世界最先端をいくキャヴェンディッシュ研究所で研究に勤しんだ。

実験が苦手で、理論中心の物理学へ入っていくよう、量子力学の創始者の一人、デンマーク人のニールズ・ボーア博士から勧められる模様が描かれている。ボーアからの勧めもあり、理論物理学のメッカのドイツのゲッティンゲン大学のマックス・ボルン教授(後にノーベル賞を受賞)の研究室に移り、博士号を取得した。

欧州在住中には、量子力学の創始者のもう一人、ウェルナー・ハイゼンベルグやアルバート・アインシュタインとも交流を深めている。欧州で発展した量子力学を米国に導入することを進めるため、1929年、若くしてカルフォルニア大学バークレー校と、カルフォルニア工科大学の助教授に就任。量子力学を教えるようになる。

映画ではケンブリッジ大学への留学から始まり、1929年の助教授就任するところまで、大学のキャンパスの映像が素晴らしく描かれており、監督の映像に対するこだわりを感じた。

マンハッタン計画のプロジェクト責任者の時代

その後、ブラックホールの研究や講義の模様、第二次世界大戦のニュースとナチスの台頭。1942年に開始した原子爆弾の開発を目指す「マンハッタン計画」の開始等。オッペンハイマーが時代に飲み込まれている模様も描かれている。マンハッタン計画の総責任者は、米国陸軍のレズリー・グローブス准将だった。

グローブスは、オッペンハイマーをプロジェクトの責任者に指名する。リクルート活動が開始され、超優秀な頭脳を全米から集められた。

例えば、水爆開発者のエドワード・テラー、世界初の原子炉を開発したエンリコ・フェルミ、朝永振一郎博士と共にノーベル賞を受賞するリチャード・ファインマン(映画では太鼓を叩いている)、加速器を発明したアーネスト・ローレンツ博士(オッペンハイマーの隣に研究室を構える)、コンピューター開発の父のジョン・フォン・ノイマンらが集められた。

参考に、米国、カナダ、英国が、ナチスの原爆の開発を恐れ、科学者が総動員してマンハッタン計画が立案されたが、1939年の亡命ユダヤ人のレオ・シラードらが、アルバート・アインシュタインの署名を借りて、フランクリン・ルーズベルト大統領に信書が送られたところから計画が始まっている。

秘密裡に行われたマンハッタン計画は、全米の各地で分業体制で行われた。しかも、お互いに何がおこなわたのか、知られることなくだ。ウラン濃縮を生産したオークリッジ、プルトニウム濃縮を生産したハンフォードと、砂漠地帯で、原爆が製造され実験が行われたロスアラモスの3箇所が中心だった。

ロスアラモス研究所の場合は、一から都市が作られ、研究者が家族と共に住めるような環境が整えられた。最終的に、4,000人、3年の合計20億ドルが使われたという。

絶対に成功することが求められるプレッシャーの中、1945年7月16日に初めての原爆実験(トリニティ実験)が行われ、成功する。当初予定していたナチスも降伏したこともあり、交戦中の日本に使われることになってします。その模様も映画で描かれ、最終的に、広島、長崎と原爆が落とされ、終戦を迎える。

ロスアラモスでの成果が認められ、アインシュタインが所属するプリンストン高等研究所の所長に就任し、1960年代までこの職に勤めることになる。しかし、この映画では、これだけでは終わらなかった。ソ連との冷戦が始まり、共産主義の脅威が全米で猛威を振るようになるからだ。

「赤狩り」と失職の時代

後に、マンハッタン計画では、クラウス・フィクス博士の原爆開発に貢献したが、スパイとしてソ連に機密情報を流し続けたことが判明する。更に、オッペンハイマーの妻・キティ、弟フランク、フランクの妻ジャッキー、恋人のジーンが、米国共産党員で、オッペンハイマー自身も共産党集会に参加した過去があった。

1953年には、ジョセフ・マッカーシーにより「赤狩り」、共産党と関わった人たちを追放する運動が米国で始まる。オッペンハイマーは、原爆を開発し、使われることにより、原爆の開発に対し、慎重な姿勢へ。それが、米国の国家政策に対立するようになっていく。

オッペンハイマーは影響力のある人物だったので、政争に使われ、水爆の開発を進めていたエドワード・テラーと対立する際に仇となっていく。政争の中心となったのが、映画のもう一人の主人公のルイス・ストロース

米国原子力委員会の創始者の一人で、オッペンハイマーの個人的な恨みや反共主義の影響もなり、映画の後半ではこの闘争を中心に描かれている。その緊迫した模様については、脚本が素晴らしく、緊迫感が伝わってくる。

最終的にオッペンハイマーは公職を追われることになるが、原爆の開発者の成功・葛藤・挫折を含め、人間の内面が描かれており、非常に考えさせられる映画となった。

まとめ

今回のブログでは、映画・オッペンハイマーについて、内容と感想を含めご紹介させていただいた。量子力学の背景や、人物を少しでも知っていれば、より映画の内容の理解が深まると思い、今回は背景も含めまとめさせていただいた。

少しでも、この投稿が役立つことを願っています。

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