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【B#132】哲学(3)〜「客観」から「主観」を迫れるのか?〜直接経験から身体図式へ

はじめに

こんにちは!東京・渋谷でロルフィング・セッションと栄養・タロットカウンセリングを提供している大塚英文です。

西洋の哲学がユニークなのは主観と客観と分けて考えること

欧米には根底に流れる思考の方法=世界観というものがある。
その世界観を追うものを彼らは「哲学」という学問を通じて体系化している。

超自然的原理と反哲学〜西洋独特な哲学はどのようにして生まれたのか?」では、
西洋の哲学の独自性というのは、
何からの超自然的原理を設定し、それを参照しながら、存在するものの全体を見る
といった思考様式を持っていることを紹介。

西洋哲学における「主観」「客観」の意味とその関係」では、「主観的」・「客観的」という西洋の思考様式があること、
近代に入ってから「科学」「論理的思考」という形で、発展していったことを紹介した。

科学は、仮説を立てて、実験を繰り返すことで確かめるという方法をとるが、
「仮説」=「主観」
「実験を繰り返して得られる確証」=「客観」
という形で主観的と客観的との関係による思考を確立したのだ。

おかげで、科学技術が発展し、世の中は大変便利になった。

一方で、哲学の前提として成り立っていく上で
「主観」と「客観」が一致している
ことが前提だ。

が、すでにこの考えは、19世紀末には破綻しているのだ。
科学は、主観と客観を前提に考えているので、その限界を知る上で、哲学はどのように考えているのか?
なぜ、今西洋医学は、東洋的な考え方に近付いているのか?知る上でも重要。

今回は、主観と客観が破綻した後の世界について、西洋の人はどのように考えているのか、について書きたい。

英国の経験哲学〜主観と客観は一致しない

そもそも
「一人一人が世界を同じように見ていない」
というのは直感的にわかるかと思う。

なぜならば、
「人間はありのままに物事を見るのではなく、見たいように世界を見るから」

そして
「視覚情報の大部分は記憶を頼り、自分の都合のいいように世界を作り上げている」
つまりは、主観がものの見方に大きな影響を及ぼすのだ。

哲学の世界では、ヨーロッパ大陸(ドイツ、フランス)が「理論」が強いのに比べ、英国は「経験」に基づいた考え方が盛んだ。

木田元さんの「反哲学入門」からの本の引用となるが、
イングランド人のディヴィット・ヒューム(David Hume、1711年〜76年)は「客観」については疑問に思っており、
「客観的真理は存在しない。主観的真理が存在するだけだ」
と書き残している。

人間の「知識」や「概念」は経験の産物(世の中の見方は「経験」から影響を受ける)
「〇〇を明晰に認識した、〇〇とはこういうものだ」
という考えは、経験に基づいて作られているが、
それが本当の現実と一致しているかどうかは、わからない!

「科学」も経験上の産物で、現実世界と一致しているとは限らない。
といっており、
さらに、人間の間で共有できる絶対的な概念はない!
までも語っている。

前回
西洋哲学における「主観」「客観」の意味とその関係」で、
ルネ・デカルト(René Descartes、1596年〜1650年)が、「人間は理性を持つ」といえ、
理性で持って、物事を考えていくという考え方を提唱した。

一見相反する、ヒュームの考え方と、デカルトの考え方をどう統合していったらいいのか?
そこで登場するのが、イマヌエル・カント(Immanuel Kant、1724年〜1804年)だ。

カントの哲学〜人間の認識できるものが「物体」

カントは、「人間」は「経験」を受け取る特殊な方法があり、
それは生まれ持ったもの(「アプリオリ(生まれつき、先天的)」)がある
と表現。

全て経験では説明できない何か(生まれ持ったもの)があると考えた。
生まれ持ったものがあるから、我々は経験したものを認識できるというわけだ。
これがあるからこそ、認識できる世界には「限界」があることも語ることになる。

カントは、
私たちが「見たり」「聞いたり」できる世界を「現象界」
モノ自体の世界を「英知界」
と定義。

重要なポイントとしては、
人間の認識能力では「英知界」を見ることができない
と指摘していること。

例えば、人間がリンゴを見たとしても、これはあくまでも「現実に見える現象」。
「実際の現象」と一致しているかどうか(りんごの物自体)は、わからないし、おそらく人間の認識能力では、全てを見ることができないのだ。

そして、「現象界」を「主観」、「英知界」を「客観」とすると、
「英知界」が見れないとなると、
この2つの間の一致は論理的には存在しない!
ということになる。

人間は「本当の世界の姿」を知ることはできない。
物事の「本質」を知ることはできず、ある一部(「現象」)だけを認識することができるということになる。

さて、このように主観と客観が一致できないとなると、どうなるのか?
次に紹介したいのは、物理学者のエルンスト・マッハ(Ernst Mach、1838年〜1916年)だ。

マッハと「直接体験」〜五感で認識できるものが物体の正体

「直接」体験すること=「現象界」で現れている出来事を説明できることがあれば、その問題が解決できるのでは・・・
ここで、天才物理学者であるアルバート・アインシュタインに絶大な影響を与えたマッハが登場する。

我々は普段どのように知覚するとき、
1)外部から物理的刺激が到来。
2)私が受け取って、知覚経験が成立する。
普通ならば、このように考える。

マッハは違った。
マッハの左目から見た光景を例え話にして、「主観」通りの体験として「直接体験」という言葉を使って説明。

例えば、上記の絵では、髭が左にあり、ペンを手に取っているのが右手、そして外に窓がある。。。
しかも、これが自分の五感を使って、主観的に世界を認識している(「直接体験」をしている)。
一方でこれは、実際に我々が見ることができる世界なので客観的とも言える。
このように、主観・客観に分けて捉えることができない。

これはヒュームの考え方、経験したものしか、人間は認識できないという考えに近い。
さて、木田元さんの「マッハとニーチェ:世紀転換思想史」に、詳しくマッハの世界観について説明している。

物というものは、人間が五感(マッハは感性と表現)を使ってみたもの(人間の認識)が、そのまま物という形に現れているに過ぎない。五感といえば、色・音・熱・圧・空間・時間等々。これらが、相互の作用しあい、多岐多様な仕方で結合し合う。その上、さまざまな気分や感情や意志がそれに結びつく。その相互結果が、物体と呼ばれるものになると。

今の脳科学は、マッハの発想を受け継いていると言ってもいい。

「りんご」を見るときに脳の中で何が起こっているのか?
大脳から目に伝わった「りんごだよ」という信号を受け取って「りんご」と認識する。
大脳は人間の頭の中にあり、頭の中は暗い。その中で電気信号を目が受け取り、りんごの映像を映し出す。
要は、大脳が直接「りんご」を認識したわけではなく、神経細胞のネットワークを通じ、五感が作り上げた、世界が「りんご」になるのだ。

フッサールとメルロ・ポンティ〜「直観」と「身体図式」

五感で持って現れる「現象界」を語る学問は「現象学」と呼ばれ、エトムント・フッサール(Edmund Husserl、1859年〜1938年)とモーリス・メルロ・ポンティ(Maurice Merleau-Ponty、1908年〜1961年)が更に発展させていく。

フッサールは、「りんご」があると確信ができるのは、意識に直接現れるものがある(これを「直観」と呼ぶ)。
直感には2種類あり、
1)知覚直観(「赤い」「丸い」「良い香り」等の「知覚的」な感覚
2)本質直観(「美味しそう」「硬そう」といった「知識」から来る感覚
この2つを使って、世界を作り上げると語った。

メルロ・ポンティは、フッサールの考えを更に発展させ、身体図式(ボディスキーマ)という考えを提唱した。
フッサールが唱えた直感をひとまとめに「身体図式」と表現。

「人間の身体は、私によって意識される、されない関係なく、ある種の「身体図式」(schema corporel、フランス語でボディスキーマ)のようなものを持っていて、これが色々な知覚や体験の変換や翻訳を行なっている」

とはご本人の言葉。

興味深いのは「身体図式」の考え方。
ボディワークで言われる「姿勢」は、「身体図式」の影響を受ける。
「筋骨格系」や「触覚情報」の情報は「脳」に伝えられる。

例えば、「皮膚」「関節」「筋肉」「内臓」からの感覚の流れは「脳」へ。によって絶えず最新情報を入手。
「身体図式」はパソコンのOSのように作動。姿勢に必要な情報として日々更新されているのだ。
しかも「身体図式」は、身体からの感覚を無意識(自動的)に処理しているように。

そして、ロルフィングを含めたボディワークやヨガは、身体図式に働きかけることで、自分のセルフイメージ、世の中に対してどのように見るのか?を変えていくのだ。

そう言った意味で、メルロ・ポンティの考え方はすごく大事になってくる。

まとめ

駆け足で、主観と客観、そして「現象学」についての考え方について紹介。
実は、哲学についてのアクセス数が非常に多いので、今回久々にまとめさせていただいた。
少しでもこの内容が役立てれば幸いです。

 

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