【P#84】睡眠薬の改良、問題点〜ベンゾジアゼピン、メラトニン、オレキシン、認知行動療法〜睡眠薬の歴史②
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はじめに
東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。
睡眠について、過去のブログ記事をまとめている。特に、日常生活でできる睡眠の改善法はいくつかあり、薬に頼らすとも、いろいろな手段があることをこちらにまとめた。一方で「睡眠薬」を手にする人が多い割には、リスクを知らないまま処方される傾向が強い。
今回は、2回に分けて睡眠薬の歴史を紹介したい。
前回(1回目)は、睡眠薬はどのように開発され、問題点を克服していったのか?精神病との関連で、治療薬の地位がどのように確立していったのか?についてまとめた。
今回(2回目)は、改良を重ねた「睡眠薬」。その主流になっているベンゾジアゼピン系の薬について、どのような問題があり、何を理解したらいいのか?を中心にまとめる。
参考に、不眠症に使われるのは「睡眠導入薬」と「睡眠改善薬」の2つ。医師によって処方される処方箋医薬品が「睡眠導入薬」、一時的な眠れない症状に対し、薬局で購入できる一般医薬品が「睡眠改善薬」と呼ばれる。今回は「睡眠導入薬」を中心に語っていく。
1960年代〜ベンゾジアゼピンの睡眠薬
1960年代以降に、ベンゾジアゼピン(benzodiazepines)が登場する。鎮静薬、睡眠導入薬(催眠)、抗不安薬、抗痙攣、筋弛緩等として使用される。
1920年代から1950年代に登場したバルビツールは、単独で過剰摂取すると死亡するリスクが高まったが、1960年代に登場したベンゾジアゼピンは、死亡するリスクが極めて少ない。その上、依存性は、アルコールやタバコに比べると低いことが知られているため、一気に市場を席巻する。
一方で、知っておく必要があるのは、バルビツールもベンゾジアゼピンも「睡眠導入薬」として使用できるが、入眠を助けるわけではない。
ベンゾジアゼピンには、トリアゾラム(Triazolam、ハルシオン)、エチゾラム(Etizolam、デパス)、アルプラゾラム(alprazolam、コンスタン、ザナックス)等。バルビツールに比べると、一般に短期間の使用であれば比較的安全で有効だ。
残念なことに、ベンゾジアゼピンも長期的に使用すると、依存性、反跳性不眠、一過性前向性健忘、筋弛緩作用等の副作用を示す。
依存性が現れるのは、長期的に使用する場合で、薬の身体的な依存が現れてくる。反跳性不眠とは、睡眠薬を摂取している不眠症の患者が薬物を中止した時に、薬を摂取する前以上の強い不眠症を示すこと。耐性は、睡眠薬が徐々に効かなくなり、投与量を多くする必要があること。
一過性前向性健忘とは、摂取量が多くなる場合、摂取後の一定期間、記憶障害(健忘)症状が現れること。筋弛緩作用とは、睡眠薬を摂取すると、ふらつき、転倒のリスク等が起きることだ。
ベンゾジアゼピンの問題〜離脱症状、耐性、依存症
ネットフリックスのドラマ「ティク・ヨア・ピル(Take your pill)・XANAX編」では、睡眠導入薬だけではなく、うつ病に対して使用されるザナックス(XANAX、アルプラゾラム)の現状と問題点について語っている。例えば、50代になり、10年間、ベンゾジアゼピンの薬を摂取すると、離脱するのが難しくなること等。
1970年代、精神薬理学者のヘザー・アシュトン(Heather Ashton)が、ベンゾジアゼピンの離脱クリニックを運営した経験から作成された「ASHTON MANUAL(無料)」が動画で公開されている。症状が詳細に書いてあり、離脱症状、耐性、依存症について知りたい方はチェックすることお勧めしたい。
スタンフォード大学教授で精神科医のアンナ・レンブケは、ベンゾジアゼピンは、頻繁に長期間使用し過ぎていることが問題で、短期で使用することを目的に作られている点。しかしながら、うつ病、睡眠を含め、問題があるとすぐに処方。入手しやすいことを考えると、長期使用による依存性が出てきやすいと動画で語っている。
2010年代〜非ベンゾジアゼピン、筋弛緩作用を軽減
ベンゾジアゼピンは、副作用が出るため、改良が重ねられている。2010年には、非ベンゾジアゼピンの薬が開発されるようになった。ゾルピデム(マイスリー)、ゾピクロン(アモバン)が代表例。
薬剤成分が「ベンゾジアゼピン骨格」という構造を持たない睡眠薬として知られ。抗不安作用が少ない、筋弛緩作用が低いといった改良が加えられた。作用機序は、ベンゾジアゼピンと同じで、GABAの働きを強める。高齢者で、転倒するリスクの高い人に使用しやすくなった。
ベンゾジアゼピンの薬と同様に、離脱症状もあり、徐々に減らしていくことが重要となる。
2010年代〜メラトニン受容体作動薬〜改良型
睡眠改善といえば、サプリメント(メラトニン)や睡眠薬を思い浮かべる方が多いかと思う。メラトニンは、脳の松果体で作られるホルモン。明るい光によってメラトニンの分泌は抑制されるので、日中はメラトニンの分泌は低く、暗い夜間に分泌量が数十倍に増加する。このように日内変動がある。
メラトニンはセロトニンから直接作られ、睡眠ホルモンとして作用するが、直接睡眠を誘導させるわけではない。深部体温を低下させ、休息に適した状態に導き、眠気を感じるようになる。抗酸化作用によって細胞の新陳代謝を促進、疲れも取ってくれるため、病気の予防、老化防止に働くとも考えられている。
ラメルテオンは、メラトニンを作る視交叉上核のメラトニン受容体に作用し、入眠を促進、体内時計を整える作用がある。ベンゾジアゼピンを含めた既存の睡眠薬で見られる学習記憶障害、運動障害、依存性、反跳性不眠等も認められないことから、より使いやすい薬だと考えられている。
2010年代〜オレキシン受容体拮抗薬〜睡眠と覚醒の切り替えを行う
日本人によって発見されたオレキシンは、睡眠と覚醒の切り替えスイッチ的な役割が知られている。通常、睡眠に偏っている脳をオレキシンにより、覚醒の方にスイッチが切り替わる。スボレキサント(ベルソムラ)は、オレキシン受容体に働きかけ、オレキシンの働きを抑える(この現象は拮抗と呼ぶ)ことで睡眠を誘導する。
スボレキサントは、依存性や耐性、筋弛緩作用、離脱作用、反跳性不眠等も認められないという報告がある。
下記に、今回紹介した睡眠薬の種類の一覧を記したい。
睡眠薬については、どのような課題があるのか?
睡眠学者のマシュー・ウォーカー「睡眠こそ最強の解決策である」に「睡眠薬」について詳しくまとまっているので、ウォーカーの本を参考に、以下情報を共有したい。
睡眠導入薬の問題点〜睡眠改善につながらない
睡眠薬は、脳の外側を眠らせるに過ぎないことが知られており、最新の睡眠薬(ゾルピデム(アンビエン)、エスゾピクロン(ルネスタ、非ベンゾジアゼピン薬剤))を使って脳波測定を行うと、通常の睡眠に比べ深い脳波が欠けることが明らかになっている。
結局、翌朝も疲れが取れない、夜に自分が意識していない行動や、日中に反応速度が鈍くなり、運転に支障が出るといった副作用も出る。
睡眠は自然な眠り(深い睡眠(ノンレム睡眠)と浅い睡眠(レム睡眠)の適切な割合)によって、新しい記憶を脳に定着させるといった素晴らしい効果が知られている。
動物に新しく学習させ、体重を考慮した量の睡眠薬(アンビエン)、もしくはプラセボ(偽薬)を与え、脳の働きを調べたところ、プラセボでは、学習を定着させる効果が認められた。アンビエンの方は、記憶を強化するどころか、記憶を消す働き(神経の繋がりを50%失う)になるという。同じことが人間でも明らかになった。
睡眠薬を服用している人は、身体にも大きな影響を与えるらしい。同じような条件で服用してない人に比べ、2年半の調査期間で、がんのリスクが30〜40%上がること、感染症、心臓病、脳卒中、自動車事故のリスクなども高まること等。
最新の睡眠薬、スボレキサントは、効果が最小限であるという報告もある。プラセボを飲んだ患者に比べ、本薬により、入眠までの時間はわずかに6分早まった。要は、睡眠薬は、当初期待したよりも、最小限の効果しか得られていないのだ。
やはり、睡眠は睡眠として時間を確保して、しっかりと就寝をとることが大切になる。では、薬に頼らずに睡眠を改善する方法ってあるのか?最近、注目されている「行動認知療法」について紹介したい。
行動認知療法が、注目されている
不眠症において最も効果が高いのが、認知行動療法と呼ばれている方法だ。セラピストは、患者の不眠のタイプを見極め、個別の方法で治療にあたる。まず睡眠に適した衛生環境を整え、症状や生活習慣に沿って悪い睡眠習慣を変えていくのだ。
カフェイン、アルコールの摂取を控えること、スマホ、テレビ、PCを持ち込まない以外に、
1)起床時と就寝時の時間をきめ、毎日守ること
2)眠くなったら布団に入ること
3)眠れなければ、布団から出て、リラックスできる活動をする
4)夜寝れない場合は、昼寝を控える
5)就寝前に心を落ち着ける習慣を作り、心配事を持ち込まない
6)時計を見えない位置におく
面白いには、布団の中で過ごす時間を制限するところからスタート(六時間以下から)。覚醒時間を増やすことで、最終的に寝つきを良くするアプローチをとる。ぜひ、睡眠薬を服用している方、一度「認知行動療法」を行なっているクリニックをチェックしてみてください。
まとめ
改良を重ねた「睡眠薬」。その主流になっているベンゾジアゼピン系の薬について、どのような問題があり、何を理解したらいいのか?を中心に情報をシェアさせていただいた。
このブログは情報提供に終始しています。もし「睡眠薬」を含め医療的な相談を受ける場合には、必ず医師に相談してください。
少しでもこの投稿が役立つことを願っています。