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【B#195】「ドーパミン中毒」から学ぶー脳の習慣リセット術と快楽

はじめに

こんにちは、渋谷でロルフィングと脳科学ベースの講座を提供している大塚英文です。

なぜ今、私たちは“何かをしていないと落ち着かない”のか?

現代社会では、スマートフォンを1日平均数百回もチェックし、SNS、動画、音楽、ゲームなど、いつでも「快」を得られる環境が整っている。

この便利さの裏で、多くの人が「頭は忙しいのに心は空虚」「身体が重く、気分も重たい」という感覚に陥っている。もしかするとそれは、「快楽の追求が習慣化し、脳が疲れている」サインかもしれない。

今回は、スタンフォード大学の精神科医アンナ・レンブキによるベストセラー
Dopamine Nation: Why our Addiction to Pleasure is Causing Pain』(邦訳「ドーパミン中毒」)をもとに、
「現代人が無意識に陥っている依存のメカニズム」

「ドーパミン・ファスティング(Dopamine Fasting)という脳の整え方」
の視点からまとめていく。

依存症ーやめたくてもやめられない脳の習慣

“Addiction broadly defined is the continued and compulsive consumption of a substance or behavior (gambling, gaming, sex) despite its harm to self and/or others.”
― Anna Lembke, Dopamine Nation, p.16

依存症とは、自己や他者に害があると知っていても、物質や行動(ギャンブル、ゲーム、性行動など)を強迫的に続けてしまうことである。

これは薬物やアルコールだけではない。YouTube、Instagram、音楽、間食、仕事、情報収集すらも、依存症の対象となりえる。

ドーパミンとは、「快」ではなく「欲望」を生み出す物質である

“Dopamine may play a bigger role in the motivation to get a reward than the pleasure of the reward itself. Wanting more than liking.”
― Lembke, p.48

ドーパミンは、報酬を得る動機づけにおいてより強い役割を持ち、実際の快感よりも「もっと欲しい(Wanting)」という欲望を生み出す。

ドーパミンは脳の報酬系(腹側被蓋野→側坐核→前頭前皮質)を通じて働き、一度得た報酬の記憶に基づいて「次も」「もっと」と追求する欲求を駆動させる。

ラットの実験から以下のような物質がドーパミンを増やすことが知られている。

ドーパミン分泌の例(ラット実験)

行動・物質ドーパミン分泌の増加率
チョコレート+55%
性行為+100%
ニコチン+150%
コカイン+225%
アンフェタミン+1000%

一度強いドーパミン報酬を経験すると、日常の些細な刺激では物足りなくなり、より強い刺激を追い求めるようになる。これが「快の耐性(pleasure tolerance)」である。


快と痛みは、脳内で“天秤のように”働く

“Pleasure and pain are processed in overlapping brain regions and work via an opponent-process mechanism. Another way to say this is that pleasure and pain work like a balance.”
― Lembke, p.49

快と痛みは重なり合う脳領域で処理され、拮抗過程によって働く。つまり脳内では、快と痛みが“天秤”のようにバランスを保とうとする。

脳は、ある刺激によって「快」の側に天秤が傾いた場合、一定時間が経つと、その反対側に“痛み”を与えて釣り合いを取ろうとする

🧟‍♂️ グレムリンの例え:快を追えば追うほど、痛みもまた増える

アンナ・レンブキはこのプロセスを「グレムリン」が快と痛みのシーソーのバランスの上に乗るという比喩で説明している。

“Imagine that in our brain there’s a balance, and that balance wants to remain level. But when we do something that tilts the balance to pleasure, like watching a funny video or taking a drug, a gremlin jumps on the pain side to bring the balance level again. And the gremlin doesn’t jump off as soon as the balance is level — it stays on until it’s tilted an equal and opposite amount to the side of pain.”
― Lembke, p.50

脳の中に天秤(シーソー)があると想像してほしい。その天秤は常に水平でありたいと願っている。だが、面白い動画を見たり、薬物を摂取したりして「快」の側に傾くと、バランスを戻すために“グレムリン”が「痛み」の側に飛び乗る。しかもグレムリンは、天秤が水平になった瞬間に降りるのではなく、それを通り越して「同じだけ逆方向に傾く」まで居座る。

この“グレムリン”こそが、動画を見たあとのだるさ、買い物のあとの罪悪感、暴食のあとの虚無感として現れる。

脳を整える実践:Dopamine Fastingと“DOPAMINE”モデル

ドーパミン・ファスティング(Dopamine Fasting)とは、意図的に快の刺激を断ち、脳のバランスをリセットする実践である。レンブケは、以下の8つのステップ(DOPAMINEモデル)に整理している。

項目内容
D – Data(記録)日々の行動・使用アプリ・時間配分を記録し、無意識のパターンを可視化する。
O – Objective(目的)その行動は本当に「必要」なのか?「癒し」か「逃避」か?を問い直す。
P – Problem(問題)快への依存が集中力・人間関係・睡眠などにどのような悪影響を及ぼしているかを確認する。
A – Abstinence(断つ)24時間など一定時間、対象行動を完全に断つ。スマホ、甘いもの、情報、SNSなど。
M – Mindfulness(観察)欲求や退屈、焦燥、不安をただ感じ、判断せずに受けとめる。
I – Insight(洞察)断って初めてわかる「本当に欲しかったもの」や、自分のパターンに気づく。
N – Next(次の一手)静かな快に切り替える──散歩、自然、ノート、身体の感覚に触れる時間を入れる。
E – Experiment(実験)完璧に断つ必要はない。自分に合うリズムを見つけるために、試行錯誤を続ける。

欲望に振り回されずに生きる脳の使い方

依存とは「欲望が行動を支配している状態」である。ここから脱するには、脳の中で「衝動と行動のあいだ」にスペース(間)を取り戻すことが必要である。

衝動を“止めず”、ただ“待つ”

衝動を否定するのではなく、ただ**数分間「間を置く」**ことで、ドーパミンのピークは自然と下がる。
たとえばSNSを開きたくなったら、まず3分深呼吸をしてみる。たったそれだけで「欲しい」が「まあいいや」に変わることがある。

“やりたいこと”より“やり続けられること”を選ぶ

強い報酬ではなく、小さな達成感・静かな満足を日常に育てていく。
自然、呼吸、対話、料理、読書…その積み重ねが、真の満足を育てる土壌となる。

意志力ではなく、構造で整える

スマホを遠ざける。通知を切る。ルーティンに瞑想や自然との接触を入れる。
これは意志の問題ではなく、「脳のデザイン」の問題である。習慣と環境を変えることで、脳は変わる。

まとめ:快を減らすことが、深い満足につながる

“We’ve lost the ability to tolerate even minor forms of discomfort. We’re constantly seeking to distract ourselves from the present moment, to be entertained.”
― Lembke, pp.39–40

私たちはもはや、小さな不快ですら耐えられなくなっている。常に今この瞬間から目をそらし、何かに“楽しませてもらうこと”を求めている。

欲望に振り回されないとは、「欲望が来ないこと」ではない。それは、欲望がやってきたときに選択できる自分を保っていることである。

そして、そのために必要なのは、ドーパミンを増やすことではなく、静けさ、退屈、間、感覚、呼吸とともにいる力である。

少しでもこの投稿が役立つことを願っています。

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