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【P#68】脳、瞑想と幻覚剤〜幻覚剤によって脳に起きる変化とは?瞑想との共通点は?

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

過去に、幻覚剤とは何か?LSDサイロシビンメスカリンMDMADMTの歴史を紹介した。今回は歴史についての投稿を小休止。脳の中で幻覚剤を使うと、何が起きているのか?取り上げたい。

トリプタミン系(LSD、サイロシビン)の幻覚剤の働き

LSD、サイロシビンは、トリプタミンという有機化合物(インドール環)であり、二つの環が結合した構造をしており、一つに6つの原子、もう一つに5つの原子が含まれる。セロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン)も似た構造をとっている。

幻覚剤を100種類合成することに成功したアレクサンダー・シュリゲン(Alexander Shulgin)は、幻覚剤をドーパミンに作用する「フェネチルアミン(Phenethylamine)」とセロトニンに作用する「トリプタミン(tryptamine)」の2つに分ける。参考に、LSD、サイロシビンは、トリプタミン系だ。

幸福ホルモンの一つとして知られているセロトニンについては、謎が多い。セロトニンは、セロトニン受容体と結合することで作用を発揮する。興味深いことに、セロトニン受容体は、脳だけではなく腸にも存在。内臓の位置によって異なる作用を示し、神経を刺激したり、抑制したりと相反する作用を示す。

従来型のトリプタミン系の幻覚剤は、5-H2Aという特定のセロトニン受容体に対して親和性が高い。同受容体は、脳の中で最も外側にある大脳皮質に局在している。LSDは、セロトニン以上に5-H2Aと親和性が高い。

更に、マウスの松果体から見つかった微量の幻覚成分のDMTは、内因性の幻覚物質として人間にもある。実際、夢を見るとき等、特殊な環境で分泌される。こちらも、5-H2Aと親和性が高い。

1997年、フランツ・フォーレンヴァイダー(Franz Vollenweider)が、LSDとサイロシビンが5-H2Aに結合することを明らかにした。この受容体の結合をブロックするケタミンを投与してから、サイロシビンを加えると、効果を発揮しなかったのだ。

このように5-H2Aによって、心に変化が起きるが、どのようにして、私の感じたこと、経験したことにつながるのか?自我が溶解し、啓示体験に繋がっていくのか?いわゆる幻覚体験による主観的な「現象論」の解明ができたわけではなかった。

幻覚剤によって心がどのように変化するか〜デフォルト・モード・ネットワークの抑制の発見

精神分析から脳神経科学への世界に飛び込む

2009年より、英国人の精神薬理学者のデヴィッド・ナット(David Nutt)博士の研究室で、ロビン・カーハート・ハリス(Robin Cahart-Harris)博士が幻覚剤により、脳部位のどこが活性化されるのか?有志のボランティアを募り、LSDやサイロシビンを投与。機能的核磁気共鳴断層映像(fMRI)や脳磁図を使って解析している。

マイケル・ポーランの「幻覚剤は役に立つのか?」によると、こうしたテーマが大学で研究されること自体ありえないのにもかからず、どのように研究がスタートしたのか、興味深い話をシェアしている。

カーハート・ハリスは、フロイトやユングの精神分析学を学び夢中になる。一方で、科学的な厳密さが乏しいことや、この理論が心の中で最も重視している「無意識」を探るツールが不足していることに不満を持っていた。実際、無意識を探るツールは夢と自由連想法しかなかったのだ。

当時所属している研究室の担当教授から、スタニスラフ・グロフ(Stanislav Grof)の「Realms of the Human Unconsciousness(人間の無意識領域)」という本を勧められる。そこから、幻覚剤と最新の脳画像化技術を使って、精神分析に科学的なアプローチを取り入れることを決意した。

2005年に精神分析学で博士号を取得後、幻覚剤の神経科学へ軸足を移す。ネット検索や人の話を聞きながら、最終的にデヴィッド・ナットとアマンダ・フィールディング(Amanda Feilding)に辿り着く。

フィールディングは、1998年頃から、向精神薬の脳への影響の研究を支援、薬物法の改正を訴えるロビー活動を展開。ベックリー財団を設立した。2005年、カーハート・ハリスがフィールディングに連絡し、ランチに招かれる。

1943年に英国の貴族として生まれたフィールディングは、比較宗教学と神秘学を学び、変性意識に興味を持っている。脳内で血流が果たす役割に関心を持っており、人間が直立歩行を行うようになってから、血流が悪くなったという。LSDは脳内血流を改善し、認知機能を高めのではないかという仮説を持っている。

同じ結果をもたらる方法として、頭蓋骨に浅い穴を開けて脳内の血流を良くする穿孔術がある。何と、ご本人は執刀医を探し、実際に行った結果をゾッとするようなドキュメンタリー「ハートビート・イン・ザ・ブレイン」というタイトルで公開しているのだ(1970年)。

2023年6月に、フォールディングは、世界一視聴者数の多いJoe Rogan Experienceに出演している。話を聞いていると、すごくまともなことをおっしゃっており、奇抜な変わった印象を受けなかった。

カーハート・ハリスとフォールディングはランチをし、脳の血流に関する仮説の検証にもつながることを確信。財団からの支援を約束し、薬物法改正運動に参加している仲間の一人、ブリストル大学のデヴィッド・ナット教授を紹介した。

薬物依存やベンゾジゼアピン(抗うつ薬や睡眠薬として使用される)の専門家だったナット教授は、英国政府の薬物乱用・諮問委員会の委員だったにも関わらず「お酒の方がLSDよりも危険」「エクスタシーの使用は、乗馬よりも安全だ」と訴え、2009年に内務大臣に役目を罷免されている。

ナット教授と対面後、カーハート・ハリスは「MDMAによる脳神経のセロトニン系への影響」を研究テーマに博士号取得を目指すことに。その後(2009年以降)に、幻覚剤の研究に進むことになった。カーハート・ハリスが博士号を取得後、英国の国民保険サービスと内務省から研究費が承認される。

デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)とは何か?

カーハート・ハリスと同僚たちは、LSDやサイロシビンを投与し、fMRIの解析を行うと、ある脳の領域の活動が低下することを明らかにした。その特定の領域とは、デフォルト・モード・ネットワーク(Default Mode Network、以下DMN)だった。

2001年、ワシントン大学の神経科学者、マーカス・レイクルの報告によると、DMNは、大脳皮質の各部分を古いのう(記憶・感情などを含むより深い部分)とつなげる、重要な脳活動の中心的なハブ的を形成している。要するに、DMNは、「安静時」に「何も考えていない時」、つまりデフォルト・モードの時に活動する部位なのだ。

外界から注意喚起するときに活性化される「アテンショナル・ネットワーク」と対照的な働きをして、一方が働く時、一方が抑えられる。

DMNは、外界で何か起きていなくても、心の内面で起きる時に活性化され、自我、他人の立場に立って考える、メタ認知等に関わっている。成人の人間に特徴的な脳の働きで、小児でも後期になるまで働かない。DMNは、全システムを管理し、一つにまとめるオーケストラの指揮者の役割を果たし、自我をつくりあげると言える。

瞑想と幻覚剤に共通のDMNの低下作用

カーハート・ハリスの発見は、DMNが急降下するのと、自我が溶解するという体験が一致いたところ。2012年に、カーハート・ハリスは、科学雑誌に報告した直後、経験豊富な瞑想実践者の脳を研究していたイエール大学のジャドソン・ブルワーは、fMRIの結果が、カーハート・ハリスの幻覚剤の結果と同じであることに気づいた。

瞑想実践者が自我を越える時に、DMNが沈黙するのだ。つまり、自我が一時的に消え、我々が認識している自己と世界、主観と客観の区別がなくなるのだ。大きな全体と一体化するというのは、幻覚剤の体験の特徴と言ってもいい。

この活性が抑制されるのは、DMNへの血流の制限、大脳皮質内の5-H2Aに対する刺激、通常は脳の活動をまとめている振動リズムの阻害などが原因ではないかと考えられている。

「うつ」「依存症」とDMNとの深い関係

人間は、大人になるにつれて「自我を確立」し、DMNを発達させ、内省や論理的思考を生み出すことができるようになった。しかしながら内省が強すぎると、DMNがさらに強まりどんどん世界から閉じこもる。結果的に、うつ病、以蔵んしょう、強迫性障害、摂食障害など、思考パターンが過剰に固定される精神疾患になる。

カーハート・ハリスは、型通りの神経活動パターンを壊すことで、ステレオタイプな思考パターンを破壊するものこそ、幻覚剤であり、この分野で幻覚剤が恩恵をもたらすのではないかと推測している。

まとめ

脳の中で幻覚剤を使うと、何が起きているのか?を中心に紹介。自我に関わる脳の部位、デフォルト・モード・ネットワークの働きを、幻覚剤や瞑想が抑えること、精神疾患との関係についてまとめさせていただいた。

少しでもこの投稿が役立つことを願っています。

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