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【P#43】mRNAコロナワクチン〜技術的に何がすごいのか?〜移民の力と起業家精神

はじめに

こんにちは!東京・渋谷(恵比寿)でロルフィング・セッションと栄養・タロットカウンセリングを提供している大塚英文です。

コロナウィルスの感染症が中国・武漢市から広まってから1年半になった。治療として注目されているのが「ワクチン」
今回は、mRNAワクチンの何がすごいのか?書きたいと思う。

米国国防省の2兆円プロジェクト(オペレーション・ワープ・スピード)

トランプ元米国大統領が在任時に、
「2021年1月までにCOVID-19のワクチンを3億回確保する!」
ことを目標に、
国家予算の2兆円(180億ドル)を使って、オペレーション・ワープ・スピード(OWS)のプロジェクトを立ち上げた。
このことを前回のブログで紹介した
(「どのような情報を入手したらいいのか?(1)〜日本の現状と米国のワクチン開発について」。

そこでは、資金面の大量投入により、成果はすぐに出た。
コロナワクチンが開発され、94-95%の有効性(予防効果)を示した(「ファイザー社の新型コロナワクチンについて」や「武田/モデルナ社の新型コロナワクチンについて」参照)。

米国と「緊急の使用を認める制度」

米国でのワクチンの承認には、
「一定の有効性を示すデータがあれば緊急時の使用を認める制度」
が使われており、
審査期間が短く「期限付き使用許可」が与えられている。

長期的な安全性については、使用しながら検証していくことになった。
もちろん、安全性に問題があれば、
「安全性・有効性に懸念があれば、承認の取り消し」
もありうることを念頭に置く必要がある。

日本でも、米国の審査のおかげで、審査が早く進み「特例承認」が認められた(詳しい情報を知りたい場合は厚生労働省のHPに議事録がある「PMDAにおける新型コロナウイルス感染症対策に係る活動について」参照)。

そもそも、
「なんでこんなに早く承認が可能だったのか?」
「早く承認されて大丈夫なのか?」
と思われるかと思うが、
秘密はmRNAワクチンの技術にある。
まずは、mRNAの話から進めていきたい。

mRNAとは何か?

人間の身体は、37兆個の細胞からなっている。
細胞の核内にはDNAと呼ばれる設計図があり、設計図に基づいて生命の活動に必要な蛋白質が作られる。

ちなみに蛋白質は、細胞核の外(細胞質)で作られる。
このことから、細胞核から細胞質へ情報が送り届けられる必要がある。
情報を伝える役割を担っているのが、messenger(伝令)RNA(略してmRNA)だ。
細胞核でDNAの情報をmRNAは読み取り、細胞質でmRNAから蛋白質が作られる仕組みになっている。

今、なぜmRNAの医薬品開発か?

mRNAワクチンは、
・人間の身体の中にmRNAを筋肉注射
・注射した周辺の細胞の中に送り届け
・細胞の中の細胞質でmRNAから蛋白質を作り出す
という3つのステップからなる。

mRNAは、1961年に発見してから、60年が経っているが、医薬品として応用していくのは難しかった。
なぜならば、
1)mRNAをそのまま体内に入れると、免疫反応を起こしやすい
2)mRNAは分解されやすい
という2つの性質があったから。

体内での免疫反応〜mRNAの一部の物質を別の物質と置き換えることで解決

mRNAやRNAを体内に入れると、身体が異物として判断、炎症・免疫が高まる。
そのためそのままでは医薬品として使えない。
mRNAの一部を別の物質に置き換えると炎症反応が抑えられることをハンガリー人のカタリン・カリコ(Kariko Katalin)博士とドリュー・ワイスマン(Drew Weissman)博士によって発見された(2005年、ペンシルベニア大学)

NHKの「クローズアップ現代+」の「新生ワクチンは世界を救うのか!?開発の立て役者・カリコ博士×山中伸弥」によると、

カリコ博士の履歴は興味深く、出身はハンガリー。
社会主義体制で、外貨を自由に持ち出すことができないため、出国の際、2歳の娘がもったクマのぬいぐるみの中に900ポンドを忍ばせながら、アメリカへ。
アメリカでは、ペンシルベニア州の大学で研究員として働いた。
mRNAの研究をしていたが、なかなか評価されず、色々と苦労されたそう。

ペンシルベニア大学の中でコピー機を使う際に言葉を交わしたことがきっかけに、HIVのワクチン開発の研究をしていたワイスマン教授と出会い、2005年に研究成果へと結びつけた。

しかし、この論文も当時は注目されず、2010年には関連する特許を大学が企業に売却。。。といった苦難が続いたという。
最終的にBIONTECHがこの技術に注目。カレコ博士を迎え入れることになる。

トルコ系ドイツ人によるBIONTECH創業とワクチンの製品化へ

実は、BIONTECHは、ベンチャー企業の一つ。免疫系を使った有効ながん治療を開発しようと、トルコ系ドイツ人のUgur Sahin博士とOzlem Tureci博士によって2008年に設立された(2人は夫妻で、2021年のTIMEの表紙を飾った)。

ちなみに、これから紹介するコロナワクチンの情報については「mRNA Technology Gave Us the First COVID-19 Vaccines. It Could Also Upend the Drug Industry」を基に書いている。英語が読める方はぜひ読んでいただきたい。

BIONTECH社は、カレコ博士の持っている技術に注目、副社長として迎え入れた。

何と!2018年から、BIONTECH社は、ファイザー社と一緒に研究開発を進めるようになる。
その中で、インフルエンザウィルスのmRNAワクチンの開発を進めていた時に、コロナウィルスの感染症の流行が始まった。
この縁もあり、コロナウィルスのワクチンについてもコラボを開始。
資金面でのファイザー社から協力を得た上で、今回の迅速な開発につながった。

mRNAは分解されやすい〜Drug Delivery Systemで克服

mRNAは分解されやすい。
そもそも人間の唾液中にRNAを分解する酵素が入っている。
人間が会話を交わすだけで、mRNAがだめになってしまう。
それぐらい繊細なのだから、人間の身体の中に入れると、すぐに分解される。

「そもそも、mRNAがそのまま、細胞の中に入り、遺伝子情報の組み替えって本当なの?」
って聞かれるが、mRNAがそもそも分解されやすいので、そんな余裕がないと思う。

このように分解しやすいものを如何にして、細胞まで届けるのが?
「ドラッグデリバリーシステム(Drug Delivery System、DDS)」の開発が重要だった。

MODERNA社の創業とDrug Delivery Systemの技術の開発

2010年、ボストンのケンブリッジのベンチャーの一つとして、MODERNA社が創業される。
mRNAの技術を使ってがんに役立つ治療を開発することが目標だった。
BIONTECH社とは対照的に、800名の社員と少数精鋭だが、DDSの技術を積み重ねてきた。

10年前から、脂質ナノ粒子(Lipid Nano Particles)を包んでmRNAを血液中を運搬する技術を持っていた。
BIONTECH社に比べ、MODERNA社のワクチンが安定しているのは、技術が発展させたためだ。

MODERNA社では、コロナウィルス感染症が流行った時点で、臨床に使える薬剤は一つも持っていなかった。
しかも、資金不足。そこで、トランプ大統領が立ち上げたOWSの研究資金に頼ることで成果を上げた。

すごいのは、コロナのゲノム配列がわかった2日後には、mRNAワクチンの設計が終わり、
41日後には臨床試験のための箱が米国のNIH(National Institute of Health)に届けられたそうだ。

まとめ①〜イノベーションは基礎研究の積み重ねと移民の力によって起こる

最終的に2020年12月の頃にはmRNAワクチンが出来上がり、2021年1月以降のワクチン接種ラッシュに繋がる。
mRNAは基礎研究の上に成り立っていること。更に、ハンガリー人、トルコ人が登場しているように移民の力によって、イノベーションが生まれることがよくわかる。

そして、そう簡単にmRNAワクチンを作れるわけではないことも!要は、15年の研究の蓄積があったので、ワクチンが早期に開発され、承認されたことになる。

もちろん、我々は、ワクチンの副反応についてはしっかりと見ていく必要がある。しかしながら、夢もある。何と、もし仮にmRNAのワクチンが成功したとすると、ガンに対して有効な治療手段の一つとなるからだ。

ワクチン賛成派とワクチン反対派と2つあるかと思うが、mRNAワクチンはどのような人たちによって発見され開発されてきたのか、知る価値はあると思うので今回紹介させていただいた。

まとめ②〜mRNAの技術によりノーベル賞受賞

この投稿を行った2年3ヶ月後の2023年10月2日、カタリン・カリコ博士とドリュー・ワイスマン博士の2名がノーベル医学生理学賞を受賞したというニュースが報道された。コロナ禍がなければ、技術に対する評価がなかったと思うと、本当に興味深い。

ワクチンに関しては効果がないのではないか、を含め批判が多いが、技術を知ることが大事だと思って、投稿させていただいた。

この投稿が役立つことを願っています。

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