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【N#169】Andrew Saulから学んだ分子栄養学〜追悼と業績について

はじめに

東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。

分子整合栄養医学(以下、分子栄養学(Orthomolecular Medicine))の大家の一人、Andrew Saul(アンドリュー・サウル(1955年2月5日〜2024年2月3日))が、2024年2月3日に亡くなった。

Facebookのグループページで知ったが、まさか68歳の若さで亡くなったことに衝撃を受けた。どこかのタイミングで直接お会いしたかったが、夢となってしまった。改めて冥福をお祈りしたい。

アンドリュー・サウルとの出会い〜That Vitamin Movie

アンドリューは、分子栄養学の創始者の一人、Abram Hoffer(エイブラム・ホッファー(1917年〜2009年)、以下ホッファー)と親しく、共著で「オーソモレキュラー医学入門(Orthomolecular Medicine for Everyone)」を2008年に出版。アンドリューは、分子栄養学の初期から関わっている生き字引のような方。

アンドリューの考え方に初めて出会ったのは、2019年5月。「That Vitamin Movie(2016年)」でアンドリューのアプローチが紹介されていた。以前、西洋医学や栄養学を学んでいたが、分子栄養学については、全く知識がなく、内容が面白く、気づきも多かったのが印象的だった。

三石巌先生と溝口徹先生の著作〜平均から体質の違いへ

同時並行して、日本の専門家についての情報を知りたくなり、新宿溝口クリニックの溝口徹先生の「最強の栄養療法「オーソモレキュラー」入門」と物理学者の三石巌先生の「分子栄養学のすすめ〜健康自主管理の基礎知識」を手に取った。

三石先生の「分子栄養学のすすめ〜健康自主管理の基礎知識」は「健康自主管理の基礎知識シリーズ」としてシリーズ化されており、どれも面白い。2019年のゴールデンウィーク中に集中的に読み、学ぶことが多かった。

通常の栄養学は、食事をエネルギーとして捉え、自動車におけるエネルギー源(ガソリン)とエンジン(ガソリン、動力)のように人間の身体を機械的にみる。何カロリーのエネルギーがあるのか、食事の成分(炭水化物、タンパク質、脂質、ミネラル等)を調べる。

最終的に
どれだけの食事の量をどれだけの比率でとったのか
で判断していく。

一方で、分子栄養学は、
「人間の身体の構成する物質(コラーゲン、ホルモンを含めたタンパク質)等を自分たちで作ることができるように、材料(栄養素)を補給すること」
の視点で
人は、十人十色。それぞれ適した量が存在する。
「人間の身体を構成する物質がどのように作られているのか?」
という視点で血液検査の結果を調べる。

通常の血液検査は、
「基準から外れると病気と判定する」
と考える。

一方で、分子整合栄養医学の血液検査の見方は、
「健康とは?」=「人間の身体を構成する物質が正常に作られること」
を基準にしているところが面白い。

更に、1950年代から劇的に発展した分子生物学の成果を取り入れており、分子生物学者(博士研究員)として研究していた時代もあるので、「なるほど!このように分子生物学を使って栄養学を見ているのだ!」
と感激した記憶がある。

分子栄養学の歴史は、ホッファーから始まった

分子栄養学の歴史は、精神科医・生化学者のホッファーによって始まった。

マイケル・ポーランの「幻覚剤は役に立つのか 」によると、ホッファーは、製薬会社のサンドが開発したLSD(幻覚剤)と精神疾患との関係について調べていた。ホッファーと長期にわたって共同研究をしていたハンフリー・オズモンド(Humphrey Osmond)がLSDを含めた幻覚を示す物質を「幻覚剤」という名前をつけている。

興味深いことに、アルコール依存症を含め、様々な精神疾患に対し、ある一定の効果があることを明らかにしている。残念ながら、LSDは1960年代に麻薬に指定され、原則的に使用禁止になる。

その後、ホッファーは、統合失調症とビタミンB3(ナイアシン)との関係についても、1950年代から研究(詳しくは「統合失調症を治す:栄養療法による驚異的回復」)開始。

ナイアシン不足は、ペラグラ(皮膚病の一種)を起こすことが、以前から知られていた。ビタミンは必須栄養素であり、不足を補うためのものとして。ホッファーがすごかったのは、ビタミンは一人一人、違った適量=至適量があり、統合失調症を治療するには、大量に投与する必要がある、といったことだ。

このようにして、50年代からすでに、至適量のナイアシン・ビタミンCを中心とした栄養素の補充によって、統合失調症に効果があったことを示していた。
米国の精神医学会では、ビタミンは役立つはずはない!、と完全に無視。

その後、強力なサポーターが登場する。

ライナス・ポーリングの登場〜オーソモレキュラーの命名

蛋白質のX線構造解析で、ノーベル化学賞(1957年)を受賞。世界的に名声を得ていたライナス・ポーリングだ。ポーリングは、DNAの構造解明でも、ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリークが唱えた二重らせん構造の競争相手でもあり、バリバリのスーパースターだった。

アンドリューが 編集した「Orthomolecular Treatment of Chronic Disease – 65 Experts on Therapeutic and Preventive Nutrition」(未邦訳)によると、1941年、ポーリングは当時致死的な腎臓疾患と言われたブライト病(Bright’s Disease、腎臓炎)と診断されたそうだ。

ロックフェラー研究所の医師からのアドバイスを聞き、スタンフォード大学の腎臓内科医のThomas Addisに治療を依頼。十分な水と、低塩分と低蛋白質の食事にプラスして、ビタミンとミネラルのサプリを処方され、14年かけて完治することができた。

ポーリングは、食事が疾患の治療に対して効果を初めて実感する。それが影響したのか、1950年以降、蛋白質の構造解析から研究に方向性を変える時、精神疾患、公衆衛生の最も大きな問題であり、科学者の間で問題提起されていないことに気づく。

1945年に、ポーリングは、鎌状赤血球貧血(Sickle-Cell Anemia)の原因は、ヘモグロビン(蛋白質の一つ)の変異にあることを突き止める。研究の軸足を精神疾患に移し、精神疾患にもそのような蛋白質=酵素の異常によって引き起こされるのではないか、という仮説で研究を進めていく。

ポーリングは、1965年にホッファーの統合失調症の論文「Niacin Therapy in Psychiatry(1962年報告)」に出会い、衝撃を受ける。

ポーリングはホッファーと一緒に研究するようになり、
「適切な分子を適切な量を投与する(Right molecules in the right amounts)」
考え方を言葉にするため、
ポーリングは、
対処療法的な薬治療と区別するため、
新しい医学を、
Ortho(=ギリシャ語で「正しい、Right」の意味)-molecular(分子)Medicine(日本語訳:分子整合栄養医学)
と名前をつけ、考え方を広めていく。

1930年代までに様々なビタミンが発見され、ミネラルと共に酵素を助ける補酵素として働くことがわかってきた。
酵素の働きの異常は、補酵素不足から引き起こされると考える研究者がいるのは自然だと思うが、ホッファーやポーリングの考えは、当時革新的な考え方だった。

ポーリングは、様々な分野で画期的な成果を上げており、分子整合栄養医学についても、様々な科学論文として残しているが、どういうわけだが、分子整合栄養医学については、米国精神医学会(APA、American Psychiatric Association)のみならず、主流の医学会は受け入ることなく、現在に至っている。

アンドリューの功績〜ニュートラルな情報を発信したこと

歴史の中で、アンドリューは、晩年のホッファーと懇意を持ち、編集者としての力を発揮。共著を何冊か出版。15歳の時に、大学へ入学、学位を19歳で取得。教育者として、35年間、分子栄養学に関わり、サプリメント会社、製薬業界から一切支援を受けることなく、ニュートラルな情報発信を心がけていた。

私は、2020年11月からAndrew Saul Megavitamin formula 3.0(オンラインコース、mvf)で、アンドリューから分子栄養学を学んだ。興味深いことに、血液検査の値の読み方を学ぶというより、日常生活でできることは何か?コストのかからない医療の大切さを説き、ビタミン、ミネラルの重要性を語っていた。

コロナ禍の時には、ワクチン以外にできることがあることを発信。それが仇となって、Facebookページへアクセスできなくなり、アンドリューのホームページ(DoctorYourself.com)は、Google検索できなくなった期間もあった。

アンドリューは、DoctorYourself.comで積極的にビタミンやミネラルについての科学的エビデンスを発信し続けた。私も、時々チェックしていたが、地に足についた内容が印象的で、学ぶことも多かった。

まとめ

今回は、長めのブログ記事になったが、アンドリューを通じて、分子栄養学を学び、実践しているので、取り上げた。

少しでも、この投稿が役立つことを願っています。

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