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【B#67】資本主義と経済格差(2)〜現状分析と「公益資本主義」

資本主義と経済格差について、米国の現状について米国人による分析を記した2冊を紹介した(「資本主義と経済格差(1)〜富裕層の台頭と所得格差の広がりはなぜ起きているのか?」参照)。

今回は、日本人の経済学者の現状分析を示した本と日本人の起業家が示した今後の資本主義のあり方についての2冊を紹介したい。

元・内閣官房内閣審議官(国家戦略室)の水野和夫氏による「資本主義の終焉と歴史の危機」は、
資本主義を
「中心」と「周辺」から構成され、「周辺」つまり、いわゆるフロンティアを広げることによって「中心」が利潤率を高め、資本の自己増殖を推進していくシステム
と定義。

地理的には、フロンティアがほとんど残っていないという前提の下、以下のような3つのポイントで説明している。
1)ヨーロッパの歴史は「蒐集」の歴史。
中世キリスト教は魂を、近代資本主義はモノをそれぞれ蒐集。英米が覇権を握った海の時代の特徴は、領土を直接支配することなく、資本を「蒐集」していった点が挙げられる。中世の時代では、「利益」を「蒐集」するためには、領土を拡大する必要があった。しかし、それにはコストがかかる。そこで、英米は海洋空間を支配し、その空間がベトナム戦争で広がらなくなると「電子・金融空間」を支配することでマネーを「蒐集」することに向かった。リーマン・ショックは、そうした「近代帝国」の没落を示唆する出来事になった。
2)利子率革命と資本主義の死
過去に11年間、金利2%を下回った中世のジェノバが世界最長記録。日本の10年国債利回りは、400年ぶりにジェノバの記録を更新。2%以下という超低金利が20年以上続く。利子率の低下は、資本主義の死に直結する可能性がある。資本を投下し、利潤を得て資本を自己増殖させることが資本主義の基本。利率が下がることで、利潤率が極端に低くなることから、資本主義が資本主義が機能しなくなる可能性が高まる。利潤率の低下により企業の設備資産を拡大できなくなったとなり、設備投資も「過剰」になってくる。
3)金融・IT業界と中間層の没落
市民革命以降、資本主義と民主主義が両輪となって主権国家システムを発展。適切な賃金の分配(労働分配率)が行われていた。米国が金融帝国化を進めITと金融業が結びつくことで、資本が瞬時にして国境を越えていった。そして、1980年代半ばから金融業への利益集中が進んでいく。債権の証券化などの様々な金融手法を開発。世界の余剰マネーを「電子・金融空間」に呼び込み、ITバブルや住宅バブルが起きた。米国は世界中のマネーをウォール街へ集中。巨大な金融資産を作り出した。資本配分を市場に任せれば、労働分配率を下げ、資本側のリターンを増すため、富む者がより富み、貧しいものがより貧しくなる。結果、中間層が没落していく。

一方で、現状分析のみならず、今後の資本主義のあり方について書いた本もある。原丈人氏の「「公益」資本主義」だ。

原丈人氏は、考古学の研究を志していたが、発掘の資金を稼ぐために、米国のビジネススクールへ。さらに先端技術を学んだ上で米国で起業し、成功。誰も価値に気づいていない新しい技術を発掘。これが考古学と似ていることからシリコンバレーのベンチャー・キャピタリストを志すようになる。
興味深いのは現場感覚で、現状について深く分析していること。株主資本主義についてはレーガン政権からどのように株主資本主義に向かったのか?労働者の賃金の抑制、それにともなう女性の社会進出、企業のマネーゲーム化、一部の超富裕層と大多数の貧困層を生み出す仕組みについて書いてあるが、ベンチャーキャピタリストとして、見方として興味深いことが書かれている。
例えば、
1)1980年代から21世紀の初頭まで、シリコンバレーのIT産業が新しい基幹産業を牽引。若い創業者たちは、アイデアや技術、ビジョンがあっても事業化のための資金がなく、リスクを嫌う銀行などの既存の金融機関に頼ることができなかった。活躍したのが、ベンチャーキャピタル。ソフトウェア、通信技術、バイオテクノロジーという3つの産業に支援していった。ところが、その後、シリコンバレーは新しい技術や産業を生み出す力を急速に失っていく。要因は、ベンチャーキャピタルの肥大化。
2)1990年、米国のベンチャー企業に入ってくる資金は4000億円程度。やがて1兆円に達し、2000年には10兆円を突破した。5000億円もの資金規模となると、ベンチャービジネスは作ない。モノがないから足を使う、カネがないから頭を使うのが、ベンチャービジネスで、様々な工夫や知恵が生まれ人材が育っていく。そこに資金が多すぎる、人はモノを考えなくなり、外注を考えるようになるため、現場感覚から離れてしまい、何も生まなくなる。
3)中長期の計画的な投資がなければ、画期的な研究開発は不可能。例えば、東レの炭素繊維やリニア新幹線といった、何十年もの時間と巨額な投資を必要とする技術は、株主資本主義に毒されたアメリカからは出てこない。逆を言えば、そこにこそ日本の強みは残されています。

同書では米国の「株主資本主義」に代わる「公益資本主義」という考えを提唱していく。
公益資本主義とは
「企業の事業を通じて、公益に貢献すること」。
具体的にいえば「企業の事業を通じて、その企業に関係する経営者、従業員、仕入先、顧客、株主、地域社会、環境、として地球全体に貢献する」ような企業や資本のあり方。
そのために、著者はアライアンス・フォーラム財団を立ち上げ代表として様々なアイデアを提唱。
1)「中長期的な投資」「社中分配」「起業家精神による改良改善」というキーワードで、利益を株主ではなく、会社を支える社中各員に公平に分配、そのことで貧困層を減らし、層の厚い中間層を作り出すといったこと。
2)富の分配における公平性、経営の持続性、事業の改良改善性に関する指標で企業の価値を図ること。
3)「会社の公器性」と「経営者の責任」の明確化、ストックオプションの廃止、株主優遇と同程度の従業員へのボーナス支給、四半期決算廃止、時価会計原則と減損会計の見直しなどの12のルールの提唱。
等、興味深かった。

医薬品についても、
「先端医療国家戦略特区においては、動物と人間における安全性、および動物における有効性が証明された新薬には仮承認を与え、すぐに市販して使用できる」
という規制緩和の提案など、医療についても具体的なことが記載されている。
日本は少子高齢化社会を迎える形となり、世界経済の現状がどうなっていて、今後日本としてどのように歩んでいったらいいのか?これらの質問への回答として、現状分析の「資本主義の終焉と歴史の危機」と今後の資本主義のあり方を示した「「公益」資本主義」は勧めたい2冊だ。

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